旧統一教会 被害者救済法成立「宗教2世」ら被害訴える人たちは

旧統一教会の問題を受けた被害者救済を図るための新たな法律は、国会会期末の10日、参議院本会議で賛成多数で可決・成立しました。「宗教2世」など被害を訴える人たちは、新たな法律の成立を前進だと受け止める一方で、法律の実効性を検証することや残された問題について議論を続けることを求めました。

宗教2世の女性「あくまでこれがスタート 問題は残っている」

旧統一教会の被害者救済に向けた新たな法律が成立したことについて、「小川さゆり」の名前で被害を訴えている2世の元信者の女性は「長い間、見過ごされてきた問題について、私たちはこれまで、未来に被害を残したくない、自分と同じ気持ちをする人をこの先生みたくないという思いで訴えてきました。先送りにされることを危惧していたので、この臨時国会で成立したことは大きな一歩だと思います。被害者の声を聞いていただき、心から感謝したいです」と話しました。

一方、「あくまでこれがスタートです。今回の法律に実効性があるのかしっかり検証してほしいし、早い時期に見直しも行ってほしい。宗教2世の信教の自由や人権が侵害されている問題は残っているので、そうした課題についての議論も続けてほしいです」と訴えました。

旧統一教会に対しては「被害者の訴えを認めないと思うが、国が被害者を救済するための法律をつくったことをしっかりと受けとめてほしい」と話しました。

さらに、小川さんは「今後も多くの方にこの問題に関心をもってもらい、政府には被害者の声に耳を傾けて頂きたいです」と話しました。

元妻が信者の男性「宗教は人を救うべきもの 引き続き議論を」

元妻が旧統一教会の信者で、多額の献金で家庭が崩壊したと訴えている橋田達夫さんは、参議院本会議を傍聴しました。

このあと記者会見し「宗教は人を救うべきもので、家庭を崩壊させ、苦しめるものであってはならない。全国にたくさん苦しんでいる人がいるのを見ると胸が張り裂けそうになる。旧統一教会の信者や家族を救える法律になるよう、国民の皆さんにもっと力を貸してもらいたい。法律の成立に関わった官僚や議員に感謝しているが、国会で引き続き議論してもらいたい」と述べました。

元信者らを支援の弁護士「取り残された問題多い 今後も検討を」

旧統一教会の被害者救済に向けた新たな法律が成立したことについて、元信者らを支援している「全国霊感商法対策弁護士連絡会」事務局長の川井康雄 弁護士は、「かなりの短期間で法案をまとめ、『配慮義務』とはいえ、寄付の勧誘について、自由な意思を抑圧して適切な判断が困難な状態に陥ることがないようにするなどと法律に盛り込まれたことは前進で、抑止力になる点もあるかもしれない」と話しました。

一方、「配慮義務か禁止行為かの差は大きく、禁止行為とならなかったことは、非常に不十分で残念に思う。マインドコントロールと言われている寄付についてどこまで規制するか、今後も検討を続け、具体的な方策をとってほしい」と述べました。

また、「信者の家族や2世の被害救済という点では、取り残された問題が多い。今後も被害者の声を丁寧に聞き、子どもが親の寄付を取り戻す仕組みなど、さらに必要な支援についても少しでも早く検討してほしい」と話しています。

有識者検討会 座長「不断の見直しを」

旧統一教会の問題を受けた悪質な寄付を規制する新たな法案などが成立したことについて、法制化などを提言した消費者庁の有識者検討会で座長を務めた東京大学の河上正二名誉教授は「検討会でとりまとめた意見をくみ取って、法律に反映させようと努力してくれたが、ギリギリ60点くらいだ。新たなルールがうまく機能して被害者救済につながるか検証する必要がある。見直しを検討するとした2年を待たずに不断の見直しを進めてもらいたい」と話していました。

また、「被害者が新しい法律を理解できないと被害の訴えが出てくることが期待できない。法律で定めた要件の意味を国民に分かりやすく伝えることが必要で、基準が分かりにくい部分は明らかにして、実効性のあるものにしてもらいたい」と指摘しました。

さらに、文部科学省が宗教法人法に基づく「質問権」を行使したことなども踏まえて、「問題となった法人に対して、宗教法人法を使って業務の改善命令や停止命令を行っていくことなどの検討も必要だ。今後は、宗教法人法の見直しも含めて議論していかないといけない」などと話し、被害者の救済のために、より広い法整備の議論を進めていく必要性を指摘していました。

専門家「救済の場面に生かされること期待」

旧統一教会の問題を受けた悪質な寄付を規制する新たな法案などが成立したことについて、国民生活センター理事長などを歴任した一橋大学の松本恒雄名誉教授は、「満足できない点もあるが、寄付や献金に関する行政の規制ができたことは意義がある。配慮義務もあいまいな規定ではあるが、配慮義務違反の情報が集まれば行政側も動かざる得なくなり、勧告などが出ることで裁判や紛争解決などの救済の場面に生かされることも期待される」と述べました。

そのうえで、「救済にもつながる好循環を生み出すには、要となる消費者庁が新しい仕組みを使いこなせるかどうかにかかっている。相談を受け付ける全国の消費生活センターなど地方への財政支援をはじめ、消費者庁が情報を分析して対応できるしっかりとした態勢を整えることが重要だ」と指摘しました。

また、新しい法律によって、従来の寄付文化が抑制されるのではないかと懸念の声が上がっていることから、「一般企業が行っているような資金の透明性確保の観点から宗教法人が寄付金の使いみちを明らかにするなど情報を積極的に開示することで信頼される団体にこそ寄付が集まっていくことが望ましい」などと話し、問題となる法人については、税制優遇措置を停止することなども議論していく必要があると指摘しました。