定年後も働きますか?「老後は悠々自適」は過去のもの??

定年後も働きますか?「老後は悠々自適」は過去のもの??
「この年でも働いて学ぶことができるのは楽しいです」(65歳女性)
「年金だけでは苦しいので働いていますが、いつまで体力が持つか」(68歳男性)

65才から69才のうち働いている人の割合が50%を超えました。「老後は悠々自適」は過去のものなのでしょうか。

人生100年時代、皆さんは、定年後、働きますか。
(社会部記者 宮崎良太)

68歳ドライバー あと10年は働く

貫久義さん、68歳。
長年、タクシー会社で、運行管理などのデスクワークをしていました。

定年後、同じ会社に今度はドライバーとして雇ってもらい、1年契約で働いています。

今も働く理由は、暮らしを安定させるため。
日野市内の賃貸の団地で妻と2人で暮らし、年金は2人合わせて月に15万円ほど。

これだけで家賃や生活費をまかなうことは難しいといいます。
貫久義さん
「特に贅沢はしていないんですが、年金だけでは厳しいです。可能な限り働こうと思っていますが、体調がどこまで続くか不安です」
ドライバーの勤務は、午前9時から翌朝4時までのシフト制。月に12回ほど、夜通しで働き、月の給料は30万円前後。
なるべく多くを貯蓄に回し、いまは数百万円の貯金を1000万円から2000万円ほどに増やし、将来の不安に備えるつもりです。

そのためにも、あと10年は働き続けようと考えています。

仕事自体は楽しいと感じていますが、酔った客に絡まれることもあれば、歩合制のため、仕事に出ても稼げるか不安になることもあります。

旅行が好きで、定年後は長期の海外旅行に行くのが夢だったという貫さん。

当面、悠々自適な生活はあきらめ、目の前の生活のことを優先することにしています。
貫久義さん
「昔は、定年後の人は隠居さんって呼ばれて余裕があったような感じがありますが、今は私も含めて余裕がなくなってきていると思います。とにかくある程度何があっても対応できるような蓄えをしようということで働きたいと思いますが体調がどこまで続くか…。老後は自分の身は自分で守るしかないという時代になったと思います」

60代後半の就業率 半数超えの衝撃

ことし9月に総務省が発表した統計は、高齢者の就業状況が大きな節目を迎えたことを示す結果となりました。
65歳以上の就業率が25.1%で過去最高となり、中でも65歳から69歳の就業率が50.3%と初めて5割を超えたのです。

フルタイムではなく、パートやアルバイトで短時間という人もいますが、2人に1人が何らかの形で働いていることになります。

36.2%だった10年前に比べて14ポイントも高くなりました。

シニア労働者 増加の背景は

働く高齢者が、なぜこれだけ増えているのでしょうか。
高齢者の就業に詳しい中央大学の阿部正浩教授は大きく2つの側面があると指摘します。

1つは高齢者を雇用する側の変化です。

希望する人全員を65歳まで雇用するよう企業に義務づけたのが2013年。さらに、去年、70歳まで働き続けることができるよう就業機会を確保することが企業の努力義務になりました。

定年後も働こうと思えば働ける環境が整いつつあるのです。

そして、もう1つの大きな要因が高齢者側の「老後の不安」という事情です。
阿部正浩教授
「高齢者の方が若い人たちに比べると所得も資産も格差が拡大します。40年働けば出世する人もいれば、しない人もいるし、資産形成した人もいれば、そうではない人もいて、どうしても働かざるを得ない人がいるのは事実です。また、年金がどの程度もらえるのか読み切れないという人もいるし、若い人が減るなかで、年金制度自体の持続について不安を抱える人もいます」

65歳 WEBライターを始めて

働き続けたい人、働かざるを得ない人。

さまざまな事情はあるにせよ、働くからには、楽しく、そして、やりがいを感じたいという思いは共通するのではないでしょうか。
宮城県気仙沼市の村上光子さん(65)は、最近始めた仕事に充実感があるといいます。

夫と息子家族と一緒に暮らす村上さん。
宝飾店で働いてきましたが、5年ほど前にひざが悪くなり、立ち仕事は難しいと退職。

いまは生活に困っているわけではありませんが、親を介護した経験などから老後には多くのお金がかかると思い、新たな仕事を探しました。
村上光子さん
「長生きするかもしれないが、いつまで健康でいられるか分からない。退職金は子どもの学費と結婚資金に使い、いよいよ稼がないといけないと。どうせなら楽しく仕事がしたいと思いました」
村上さんが始めたのがWEBライターの仕事です。

自治体などが提供する講座をオンラインも合わせて1年間受講。記事の書き方や構成の仕方、タイトルの書き方などを学びました。
いまは、企業から業務委託を受けて記事を書いたり、WEBライターを目指す人の原稿の添削をしたりしています。

収入は月に数万円ですが、家計が安定し、生活の安心感につながっています。
さらに、若い受講者やライター仲間と情報交換したり、懇談の場にも参加したりすることで、新たな人間関係が広がったことも大きいといいます。
村上光子さん
「始めは記事を書くなんておこがましいと思っていましたが、学び始めると面白くなり、新しい価値観があるなと思うようになりました。若者と関わることは刺激的でワクワクします。この年になっても色々な人たちと関わり、新たなコミュニティーができたことは第2の人生としては良かったなと思います。この年になって勉強することの楽しさを覚えました。仕事をしながらいつまでも勉強を続けたいと思います」

定年後のこと いつから考える?

定年を迎える前の人たちは、どう考えているのでしょうか。

都内で開かれたセミナーを取材しました。
土曜日の午前中の開催でしたが、定年を控えた55才から64才までの男女25人が参加。

企業で人事などを長く担当してきた講師が「定年後のリアル」と題して講演しました。

1つの会社で定年まで勤め上げ余生を送るという道、転職や独立といった選択肢。それぞれの収入・安定度・やりがいを事前に分析し考えておくことが大事だと説明。

その上で、定年後も働こうという場合、「やりたいことも大事だが、苦にならずにできること、ほかの人より短時間でこなせることが、実はキャリアの売りになる」といったアドバイスもありました。

参加者も、セミナーへの出席をきっかけに今後のことを考えようと感じたようです。
57歳の会社員女性
「今までは会社に守られている部分がありましたが、1人となったときにどんな風に歩んでいけるか不安に思います。自分の好きなことで、細く長く社会貢献できるものに携われたらなと思うので、立ち止まって、どんなことができるか振り返ってみたい」。
60歳の会社員男性
「定年になって延長雇用という決まったレールに乗っていくんだろうなとしか思っていませんでした。選択肢がいろいろあると思えばポジティブに考えられるなと思います」。
64歳の女性
「今の仕事は楽しくないとまでは言いませんが、結構プレッシャーが大きいので、70才まで働くのであれば今と違う仕事がしたいかなと思っています。組織の中に入ると、言われた仕事をこなしてということがほとんどで今後のキャリアについて真剣に考えなかったですが、講義を受けて私も独立したら何ができるかなどと考えています」

働くシニアの未来とは

働く高齢者は今後も増え続けるのか、そして、定年前の人たちに必要な備えとは。
中央大学の阿部教授に聞きました。
阿部正浩教授
「健康な高齢者が増えるので、もう少し働こうかという人も増える。若い人口が減っていくなかで、今までとは比べ物にならないぐらいに高齢者の雇用への期待も高まると思う。また、在宅勤務などが増えていく可能性もあるので、高齢者が、健康状態や生活とうまくバランスとりながら仕事ができる可能性が高まる」
その上で、働く高齢者が増えることを見据えて、国や企業も変わっていく必要があると指摘します。
「企業が高齢者を継続的に雇用できるようにすることや、研修や職業訓練などを年齢で区切らずに誰でも受けられる仕組みを作ることなど、環境整備が大事になる。一方、若い人と比べると、健康状態や体力などが全然違うし、介護や病気療養なども予想され、ワークライフバランスを取れるような配慮も必要になってくる」
そして、私たち自身の備えについては。
「シニア期にどんなことをやって生きていくかと考えた上で、それに合わせてある程度早めに準備した方がスムーズに高齢期を迎えていける。60歳、65歳で定年になったあとやるということじゃなくて、その前から少しずつ考えた方がいい。50代になってそろそろ定年が見えてくるころから、考える人は考えたほうがいいんじゃないかなと」
高齢になって働くかは、意欲、体力、資産、家族、社会情勢・・さまざまな要素が絡みます。

その時になってみないと分からないという方も多いかも知れません。

とはいえ、いずれ、その時は訪れます。

定年後の自分はどんな姿なのか、一度、考えてみてはいかがでしょうか。
社会部記者
宮崎良太
2012年入局
検察取材、厚生労働省取材を経て現在は労働問題を幅広く取材