中国 新型コロナ PCR検査の陰性証明 提示求めないことを発表

中国政府は7日、新型コロナウイルスの感染対策を「さらに適正化する」として、これまで多くの場所で提示を義務づけてきたPCR検査の陰性証明を求めないなどと発表しました。これを受けて、国内の駅や空港では出張に向かうビジネス客などで混雑する様子がみられました。

中国政府は7日、これまで多くの場所で提示を義務づけてきたPCR検査の陰性証明を求めないことや、省や自治区をまたいで移動する際にも陰性証明を不要とすることなどを、新たに発表しました。

これを受けて、高速鉄道が発着する首都 北京の駅では、スーツケースなどの荷物を抱えたビジネス客や帰省する出稼ぎ労働者などで混雑する様子がみられました。

これから出張先に向かうという男性は、「私の仕事は頻繁に出張に行く必要があるので、今回の緩和で便利になります。自分で感染対策を徹底すれば心配する必要はありません」と話していました。

ふるさとの内陸部 安徽省に帰省するという出稼ぎ労働者の男性は、「高速鉄道の中は人が多いので、マスクを二重にしてきました。感染すれば大変なので心配しています」と話していました。

一方、連日長い列ができていたPCR検査場を訪れる人は、これまでよりも大幅に少なくなりました。

ただ、医療機関や学校などではPCR検査の陰性証明が必要とされているほか、北京では、飲食店の店内で飲食したりスポーツジムを利用したりする場合には48時間以内に受けたPCR検査の陰性証明が求められることから、検査を受ける人の姿もみられました。

飲食店で働いているという男性は「私の店では1日に1回、PCR検査を受けなければならず、不便です」と話していました。

中国政府としては、先月下旬に起きた「ゼロコロナ」政策への抗議活動を受けて対策を緩和した形ですが、感染者数の高止まりが続くなか、感染拡大への懸念も強まっています。

入国者の隔離義務は変更せず

一方、中国政府は入国者に対し、航空機が出発する時刻の48時間以内にPCR検査を1回受けて陰性を証明するほか、ホテルや自宅などで合わせて8日間の隔離を義務づけていますが、今回は変更しませんでした。

これについて保健当局の担当者は7日の記者会見で「今回は主に国内の見直しで、水際対策については法律や規則にしたがって、さらに適正化を進めていく」と述べ、具体的な緩和の見通しは示しませんでした。

空港では出入り自由に 利用客「まだ慣れない」

感染対策が緩和されたことを受けて、中国南部の広州にある空港では、これまで利用客に求めていたPCR検査の陰性証明の提示や行動履歴の確認が行われなくなり、国内線の出発ロビーの入り口では、利用客が自由に出入りできるようになりました。

利用客の女性は「陰性証明などの確認がないことに、まだ慣れない感じがします。これまでずっとチェックされてきたし、先日、帰省する際もPCR検査を受けなければいけないと煩わしく思っていました」と話していました。

上海 ディズニーランドは大勢の人

先月25日に再開したあと、感染対策で再び閉園していた上海のディズニーランドは8日から営業を再開し、早速、午前中から若者や家族連れなど大勢の人が訪れていました。

赤ちゃんを連れて訪れた20代の女性は「来園できてとてもうれしいです。先月は来ることができず、とてもがっかりしていました」と述べ、再開を喜んでいました。

また、30代の女性は「うれしいですが、自分とみんなの安全のためにマスクをつけるなど、注意して出かける必要があると思います」と話していました。

上海では6日から商業施設やオフィスビルなどで、PCR検査の陰性証明の提示は不要になっていますが、建物に入るときには、スマートフォンで入り口に掲示されているQRコードを読み込んで、訪問記録を残すよう引き続き求められています。

市内中心部にあるショッピングセンターや食品販売店が並ぶ通りでは、8日も店の入り口で、従業員が客のスマートフォンをのぞき込み、訪問記録を登録しているか確認する様子が見られました。

市民からは感染対策の緩和について前向きに受け止める声が大きく聞かれ、このうち70代の女性は「ずっと家に閉じこもっているのはよくありません。外に出て国のために、ものを買って消費活動をしましょう」と、話していました。

上海市は8日の発表で、9日からは飲食店などでも陰性証明の提示は求めないとしています。

松野官房長官「影響について引き続き注視」

松野官房長官は、午後の記者会見で「中国の防疫措置が中国経済や市民活動などに与える影響について引き続き注視していく。また、在留邦人の具体的な状況を踏まえながら、中国側とのやり取りを含め、引き続き邦人保護と日系企業の活動支援に万全を期していく」と述べました。

緩和で生産などプラスも 感染さらに拡大の懸念も

「ゼロコロナ」政策のもとでの厳しい行動制限は、中国経済が停滞する要因の一つとなってきました。

中国のGDP=国内総生産の伸び率は、
▽ことし4月から6月にかけて、最大の経済都市 上海での外出制限の影響などで、去年の同じ時期と比べてプラス0.4%にとどまりました。

その後、
▽7月から9月にかけても、プラス3.9%と回復は鈍く、ことし1年間の伸び率は、中国政府が掲げるプラス5.5%前後という目標を大きく下回るとみられています。

その理由については、
▽感染が拡大した地区ごとに封鎖措置がとられ、工場の操業停止が相次いだほか、
▽操業を継続する際、外部との接触を避けるため、泊まり込みでの対応が求められ、その結果、工場の稼働率が低下し、生産の減少につながったためとみられています。

また、
▽感染が拡大した地域では、店内での飲食が禁止されたり、商業施設の営業が停止されたりしたほか、
▽省をまたぐ移動が頻繁に制限されたことは、観光業への打撃となりました。

このため、個人消費の低迷が続き、10月の消費の動向を示す指標は去年の同じ月と比べて5か月ぶりにマイナスに転じました。

雇用不安も広がり、都市部の16歳から24歳までの若い世代の失業率は、10月時点で17.9%と高止まりしているうえ、「ゼロコロナ」政策がいつまで続くか分からず、先行きが不透明な中で節約志向が強まり、景気を下押しする悪循環が指摘されていました。

感染対策の緩和によって、地区の封鎖措置や移動の制約が減り、生産や消費にとってはプラスに働くとみられる一方、今後、感染がさらに拡大することも懸念され、経済が順調に回復に向かうかは予断を許さない状況です。

北京の飲食店 緩和は歓迎も客足戻るか不安

新型コロナウイルスの感染対策の緩和を受けて、北京で飲食店を経営する日本人からは、歓迎する一方で、客足が戻るのか不安だという声が聞かれました。

北京市内で日本料理店を経営する最上隼世さんは先月中旬、感染対策として、当局から店内での飲食の提供をやめるよう求められ、出前のサービスで営業を続けてきました。

感染拡大の影響で出前の需要は高まったものの配達業者に支払う手数料が割高となり、売り上げの落ち込みを補うことはできませんでした。

感染対策の緩和を受けて、最上さんの店も7日から店内での営業を再開しました。

ただ、店内での飲食には、48時間以内に受けたPCR検査の陰性証明の提示が必要なうえ、感染拡大への警戒感から市民の間では外食を控える傾向が強いということで、客足が戻るのか不安を募らせています。

最上さんは「感染対策を緩和してくれたことはよかったが、客足が戻るかどうかは分からない。みんな緩和した状況に慣れておらず、感染が怖いと思っているはずで、意識が変わるには時間が必要だと思う」と話していました。

専門家「短期間でここまでの緩和は驚き」

中国の社会問題に詳しい東京大学大学院の阿古智子教授は、中国政府が相次いで新型コロナウイルス対策の緩和を発表したことについて、「短期間のうちにここまで緩和を進めたのは驚きだ」としています。

その背景として、阿古教授は「中国各地で同時多発的に抗議活動が広がったことが影響したと考えられる。『政権打倒』という声まであがる事態に発展し、相当なインパクトがあったのではないか」と指摘しています。

そのうえで、「習近平指導部は広く支持されていると思われていたが、権力内部は盤石ではなく、国民の不満の声も高まっていて表面化したのだと思う。3期目に入ったばかりの時期にこうした事態が起き、相当な打撃ではないか」と述べました。

一方、阿古教授は、対策の緩和で感染が再び拡大すれば、医療体制がぜい弱な地域で混乱が生じるおそれもあると指摘していて、「大都市でも、人口密度が高く病床数が少ない地域では医者が対応できなくなる可能性があるし、医療環境が悪い地方で対応できるのかどうかも懸念される」としています。

そのうえで、「今後、感染がどう広がるか判断するのは難しいが、感染者が急増して重症者も出ているのに医療機関が対応できないということになれば、不満の矛先はやはり政権に向かうことになる」と述べ、再び抗議の声があがる事態もありえると指摘しました。

緩和の動きが今後も続くかどうかについては、「新型コロナの感染者数が今後どれぐらい増えるのか、そして経済の回復がどうなるかがポイントになる」として感染状況と経済の動向のバランスをとる難しい判断を強いられると指摘しました。