コロナ「2類相当」見直し議論本格化 「5類」に?なぜ今?

新型コロナの感染症法上の扱いの見直しに向けた議論が始まっています。
現在は「2類相当」ですが、季節性インフルエンザと同じ「5類」への引き下げも含めて、議論が本格化する見通しです。

もし「5類」になった場合、どうなるの?社会的な制限が減る一方で、ワクチン接種や医療費などの負担が増える?今後の議論の見通しは?

Q&A方式でまとめました。

Q.そもそも「2類」「5類」って何?

感染症法では、ウイルスや細菌を重症化リスクや感染力に応じて原則「1類」から「5類」に分け、国や自治体が行うことができる措置の内容を定めています。
「1類」はかかった場合に命の危険がある危険性が極めて高い感染症としてエボラ出血熱やペストなどが分類されます。

「2類」には重症化リスクや感染力が高い「結核」や「重症急性呼吸器症侯群=SARS」などがあり、地方自治体は感染者に就業制限や入院勧告ができ、医療費は全額、公費で負担します。

入院患者は原則、感染症指定医療機関が受け入れ、医師はすべての感染者について発生届け出を保健所に届けなければならないとされています。

一方、「5類」には「季節性インフルエンザ」や「梅毒」などがあり、地方自治体は就業制限や入院勧告の措置がとれないほか、医療費は一部で自己負担が発生します。

一般の医療機関でも入院患者を受け入れ、医師の届け出は7日以内とされ、患者の全数報告は求められていません。

Q.どうして今、見直しの議論を進めるの?

新型コロナウイルスは当初は特性が分からなかったため「2類相当」とされましたが、おととし2020年の2月に法改正で5つの類型に入らない「新型インフルエンザ等感染症」に位置づけられ、外出自粛要請など「2類」よりも厳しい措置がとれるほか、緊急事態宣言のような強い行動制限ができるようにしていました。

また、感染対策を取っていれば、都道府県の指定で一般の病床でも患者を受け入れることができるようにもなりました。
その後、「第6波」や「第7波」で拡大したオミクロン株は従来株と比べて重症化率が低い傾向にあったことやオミクロン株に対応したワクチン接種が始まったことなどを受け、患者の療養期間が見直されたほか、感染者の全数把握も簡略化され、水際対策も緩和されました。

こうした中、今月2日に成立した改正感染症法の付則に新型コロナの感染症法上の位置づけについて速やかに検討する規定が追加されたことを受けて、厚生労働省は季節性インフルエンザと同じ5類への引き下げも含め、見直しに向けた議論を本格化していく方針を示しました。

そして、専門家に病原性や感染力、ウイルスの変異の可能性について検証するよう求めました。

Q.もし「5類」に引き下げるとどうなるの?

仮に5類となった場合、原則、感染症指定医療機関に限られている入院患者の受け入れが一般の医療機関でも対応可能になります。

今後、感染が拡大した場合、これまでより病床のひっ迫は軽減することが期待されますが、新たに入院患者を受け入れる医療機関には院内での感染リスクを減らす対応が求められることになります。
一方で、感染対策が不十分な場合など、実際には患者を受け入れることができない医療機関もあるのではと懸念されています。

また、5類に見直された場合、全額公費負担としている検査と入院治療費について、保険適用以外の費用が原則自己負担となるため、受診控えや感染発覚が遅れてしまうケースも懸念されます。

このほか、入院勧告や濃厚接触者の待機など行動制限ができなくなるため、感染した場合には周囲に広げないよう行動することを国民に理解してもらうことも求められます。

これについて日本医師会の釜萢敏常任理事は「今後の状況もわからない中では公費の対応を大幅にやめるというのは反対。5類というよりも適切な対応方法を新たに組み直すのが適切だ」と指摘しています。

Q.新型コロナの「致死率」は下がった?

感染者数に占める亡くなった人の割合「致死率」は、国内で初めて感染が確認されたおととし2020年1月からの「第1波」では5.34%でしたが、重症者に対する治療法が進歩したことなどもあり、その年の夏の「第2波」では0.93%となりました。

その後、去年2021年の年明け以降の「第3波」では、急速な拡大が見られて医療体制がひっ迫したこともあり、1.82%と再び高くなりました。

さらにイギリスで最初に確認された変異ウイルス、アルファ株が広がった去年春の「第4波」では1.88%だったのが、去年夏、「デルタ株」が広がりさらに大きな感染拡大となった「第5波」では、比較的若い世代でも重症化する人が出るなどして亡くなる人は増えた一方、軽症や無症状の感染者も増加したため、致死率は0.32%でした。

そして、感染力の高いオミクロン株が広がったことし初めからの「第6波」以降にはそれ以前とは異なる規模での感染拡大が起き、亡くなる人も増えましたが、それ以上に感染者数の増加が桁違いに大きく致死率はさらに下がりました。

致死率は第6波では0.17%、ことし夏の第7波では0.11%と大幅に下がっています。
専門家は、感染の主流がオミクロン株に変わって、持病がない若い世代を中心に軽症で済む人も多くなったこと、ワクチン接種が進んで重症化する人の割合が減少したことなどが背景にあるとしています。

ただ、致死率は下がりましたが、感染者数が爆発的に増加したため、新型コロナに感染して亡くなった人の数はオミクロン株が拡大したことしが最も多く3万1000人あまりとなっていて、これまでの3年近くに感染して亡くなった人のうちの6割あまりを占めています。

Q.専門家からはどんな指摘が出てる?

専門家は「2類相当」から変更する際には、新型コロナに感染した人のうちの亡くなった人の割合「致死率」の低下だけでなく、ワクチンや治療薬の状況や主流となる変異ウイルスの性質、それに医療への影響を考慮すべきだとしています。
社会経済活動を進めながらコロナ対策を行う方向性は共有した上で、コロナを「5類」の感染症、いわば一疾病として扱えるようにするためには条件があるとしていて、政府分科会の尾身茂会長はことし7月、NHKのインタビューでワクチンが広く接種されること、安価でアクセスしやすい治療薬があること、なるべく多くの医療機関が感染者の診療にあたるようにすることなどを挙げました。
こうした条件の現在の状況についてみてみると、ワクチンの接種率は首相官邸のウェブサイトによりますと、今月6日公表の時点で1回目の接種が81.4%、2回目の接種が80.4%とともに8割を超えているほか、3回目の接種も67.1%に上っています。

ただ、年内に希望する人への接種を行うとしているオミクロン株に対応したワクチンの接種率は、22.1%にとどまっています。
また、治療薬については軽症の段階で使える飲み薬が出ていて、重症化リスクのある人を対象に処方されるものとしてアメリカの製薬大手「メルク」が開発した「ラゲブリオ」とアメリカの製薬大手「ファイザー」が開発した「パキロビッドパック」が使われているほか、11月には重症化リスクがない人でも使える初めての薬として、「塩野義製薬」の飲み薬「ゾコーバ」が緊急承認され、処方が始まっています。
さらに医療の体制については、現在では一般の医療機関でも感染対策を取った上で新型コロナの患者の診療を行うことが可能になっていて、各都道府県が地域のクリニックなどコロナ診療が可能な医療機関名を一覧にして公表するなど、受診できる医療機関の数は増えています。

一方で、専門家からはこうした条件に加えて、変異を繰り返してきた新型コロナウイルスの今後の変化やこれまでの感染やワクチンによって得られた免疫の状況の変化なども考慮すべきだという意見も出されています。

ことし10月、東北大学の押谷仁教授や京都大学の西浦博教授などは厚生労働省の専門家会合に今後の見通しを示す文書を提出し、今後、オミクロン株の「BA.5」に変わる新たな変異株の急速な拡大やワクチン接種率が思うように伸びず高齢者を中心にワクチンや自然感染による免疫が弱まることで、重症化率や致死率が再び高まる可能性もあるとして注意を呼びかけました。
また、11月30日に開かれた厚生労働省の専門家会合のあとの記者会見で、脇田隆字座長は「コロナウイルスの感染は、これまで呼吸器疾患を重症化させるという傾向があったが、心血管疾患の合併症が多く、循環器の病気になっているのではという意見も出てきている」と述べ、病気の性質の変化を注視する必要性を指摘しています。

Q.今後の議論の見通しは?

分類の見直しに向けた議論について、厚生労働省は具体的な取りまとめの時期は決まっていないとしています。

今後は専門家による病原性などの検証結果を踏まえ、公費負担のあり方など具体的な検討が進められるとみられています。

あわせて、現在無料で行われているワクチン接種をどうするのかについても検討が行われるとみられます。

分類を5類に変える場合は厚生労働省の専門家部会にはかったうえで省令改正を行う必要があります。

予算措置で治療費などを公費で負担することも考えられます。

新たな分類を作る場合は感染症法の改正が必要となるため、国会での審議が必要になります。