ビジネス特集

“悪魔の兵器”をなくせ スタートアップの挑戦

“悪魔の兵器”とも呼ばれ、今も世界中の人々を苦しめている地雷。いったん埋められた地雷はたとえ紛争が終わっても残り続け、無関係の住民を傷つけたり、死なせたりしています。各地で地雷を除去する取り組みは続いていますが、作業は命の危険と隣り合わせです。こうした課題に日本のロボット技術を役立てられないか。日本のスタートアップ企業の挑戦を追いました。(経済部記者 吉田敬市)

日本のロボット カンボジアの地雷原へ

今回、地雷の除去ロボットが投入されたのは東南アジアのカンボジアです。

1990年代まで続いた内戦で残された地雷の被害が今も相次ぎ、去年までのおよそ10年間だけでも1100人以上が死傷したとされています。

今も現地政府やNPOがこうした地雷を取り除く作業を続けています。
地雷の撤去作業
まず、金属探知機を使って、地雷が埋まっている可能性のある場所を特定。そして、地雷の起爆装置に触れないよう、人がシャベルなどを使って慎重に土を掘り起こしていきます。

命の危険が伴い、極度の緊張を強いられる作業です。
こうした作業を安全に行えるようにすることが今回のロボット投入のねらいです。

ことし11月中旬、カンボジア西北部の地雷原で運用が始まりました。
ロボットは全長2メートルほどの車体に作業用のアームを取り付けています。

安全を確保できるよう作業員は15メートル以上離れた場所から操作します。

アームを地面に近づけて、先端から強い風圧を当てていくことで、直接、土に触れることなく地面を掘り進めていきます。
掘り出した不発弾
作業からわずか2分。削り取られていった土の中から不発弾が見つかりました。

作業員が爆発に巻き込まれるリスクが大きく下がるうえ、手作業で行えば数十分かかる作業時間が大幅に短縮されたといいます。

あまりの作業の早さに、地雷の除去に携わってきた政府機関の担当者からは、感嘆の声が上がりました。

開発したのは、日本のスタートアップ企業

このロボットはどのようにして生まれたのか。

開発にあたったのは、創業7年目、従業員わずか4人のスタートアップ企業です。
社長の今井賢太郎さん(49)は、もともとは精密部品メーカーで働いていました。精密部品の製造技術をロボットに応用して新しい事業を展開しようと、会社の創業メンバーに加わりました。

日本の労働力が不足すると言われている中で、当初は国内向けに「きつい、汚い、危険」と言われるような作業を人に代わって行うロボットを開発しようと考えていたといいます。

危険仕事こそロボット化を

そんな時、JICA=国際協力機構の担当者を通じて知ったのが、カンボジアの地雷の問題でした。
カンボジア内戦 訓練するポルポト派の兵士 1979年12月
内戦の終結から30年ほどがたった今も、現地には400万から600万個の地雷が残されているといいます。

広さがある平らな場所であれば、大型の機械で地雷を処理することができますが、草木の生い茂る場所や山肌などの傾斜地では、そうした機械を入れることは難しく、地雷を除去する作業は今もほとんど人の手で行われています。
現地を視察する 今井賢太郎社長(中央)
今井社長
「とても自分たちにはできない。まねできないというか、危険を伴う仕事。地雷原にかがみ込んで、決められた時間、ずっと地雷原を探り、掘るという作業を繰り返している。広大な面積が地雷に汚染され、やれどもやれども追いつかない」
こうした危険な仕事こそ、ロボット化していかなければいけないと考えた今井さんは、日本に戻って、ロボットの開発を進めることを決めました。

作業員の安全を確保することはもちろん、広大な場所に埋まる地雷をどう効率的に取り除くことができるのか、今井さんの試行錯誤が始まったのです。

開発に5年、試行錯誤も

しかし、ロボットの開発は簡単には進みませんでした。
当初、考えたのは、ロボットのアームの先端に掘削用のドリルを付けて、地雷のある場所の近くから少しずつ地面を掘り進めていくというものでした。

しかし、ドリルでは地雷が爆発しないよう慎重に掘り進めることができず、一度は開発を断念しかけたといいます。

何とか開発を続けようとする中、活用しようと考えたのが圧縮した空気を吹き付けて地面を掘り進める技術でした。
空気を吹き付けて掘り進める
もともとは天然記念物の樹木などの管理や保全を手がける樹医の間で使われていた技術です。木の根などを痛めることなく、土の中に埋まっているものを丁寧に掘り出すことができるため、この技術を地雷の掘削作業にも応用することにしました。

ほかの中小企業とも連携しながら開発期間は5年に及びました。

資金繰りが厳しい時もありましたが、その間、JICAからの支援や、金融機関からの融資をやりくりして、何とか完成にこぎ着けたのです。

カンボジア、さらに世界に

完成したロボットはことし7月、カンボジアの政府機関の性能評価試験に合格しました。地雷を掘り出す作業の性能評価試験に合格したロボットは、これが初めてです。
ロボットの性能評価試験
これを受けて、地雷の除去を手がける政府機関もロボット専門のチームを作り、11月から実際に導入が始まりました。

11月に行われた作業では、3日間で不発弾1個と地雷1個を発見。

現在、導入されているのは1台だけですが、今後は最大200台程度まで増やすことを目指しています。
見つけた地雷
カンボジアで一歩を踏み出した日本のスタートアップ企業のロボット。しかし、地雷に苦しむ人々がいるのは、カンボジアだけではありません。

世界各地のNPOがまとめた報告書によりますと、地雷が埋められているのはカンボジアを含めて、世界の55か国と5つの地域にのぼります。
地雷除去作業 ウクライナ ヘルソン 2022年11月
最近ではロシアが侵攻したウクライナや軍事クーデターが起きたミャンマーでも新たに使用が確認され、地雷は今も増え続けています。

今井さんの会社では、こうした地域でもロボットを活用してもらおうと、ロボットの小型化や軽量化を進めたり、使いやすさを向上させたりして改良を進めています。
IOS 今井賢太郎社長
今井社長
「地雷があって困っている人たちというのは技術もお金もないんですよね。一方、技術とお金を持っている人たちの周りには地雷がない。なので、肌で感じて、地雷を早くなくしたいというニーズが感じられない。これは地雷問題に限らず、食糧問題も、医療も、全部そうだと思います。そうした中で、当社のロボットを使ってもらって、早く安全に故郷に帰れるように、私たちのロボットが一助になれば本当にうれしいなと思います」
カンボジア地雷対策センター 専門チーム
「悪魔の兵器」とも呼ばれる地雷をなくしていくために、日本の技術でどう貢献していくことができるのか。

今井さんたちの挑戦は続きます。
経済部記者
吉田 敬市
2011年入局
社会部を経てことし8月から経済部
流通やサービス、環境、労働雇用の問題を中心に取材

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