踏切の視覚障害者向けブロック 半年で設置2か所 なぜ進まない

視覚障害者が踏切内で列車にはねられ死亡する事故が相次いだことを受け、国は、踏切内に視覚障害者向けの誘導用のブロックを設置するよう各地に促しましたが、この半年間に全国で2か所しか設置されていないことが分かりました。自治体などは「国が詳細な設置基準を示さず設置したくてもできない」などと批判しています。

視覚障害者の踏切内の事故は去年8月、静岡県で20代の男性が列車にはねられ死亡したほか、ことし4月にも奈良県で50代の女性が死亡する事故が起きました。

いずれの事故も、踏切付近の自分の立ち位置が分からなかったことが原因とみられることから、国土交通省はことし6月、視覚障害者が立ち位置を認識して安全に踏切を渡るための誘導用のブロックを設置するよう促すガイドラインを作成し、全国の鉄道会社や自治体に通知しました。

しかし、NHKが全国135の鉄道会社や自治体に取材した結果、ガイドライン作成後の半年間に踏切内にブロックが設置されたのは、大阪と兵庫の2か所にとどまっていることが分かりました。

設置が進まない理由は? 自治体「国が基準を示すまでは…」

静岡市は、視覚障害者の利用が多い市の中心部の踏切について、ブロックの設置を検討していますが、今年度中の設置は難しいとしています。

主な理由について、市の担当者は、踏切内に設置する設備がほかの自治体と別のものになると逆に危険になる可能性もあるため、国が統一的な基準を示すまで設置できないためとしています。

静岡市道路保全課の田中朋彦係長は「統一的に全国どこに行っても、この形状を踏めば、踏切の中だと分かることが事故の防止につながるので、市独自のものは今のところ考えていない。国で検討するとのことだが、どのような形状のものを使いましょうと指示があると、スムーズに施工に移れる」と話していました。

この踏切について、視覚障害者の団体はできるだけ早くブロックを設置するよう、市などに要望しています。
静岡県視覚障害バリアフリー推進協議会の蓮池悟志代表委員は「去年は地元で、ことしは奈良で事故があり、あのような事故がまた起きて欲しくないという気持ちでお願いしている。一刻も早くなんとかしてほしい」と話していました。

すでに設置された場所でも不安が…

すでにブロックが設置されている大阪・豊中市の踏切では先月、視覚障害者が参加してどれだけ安全に歩くことができるかを確認する実証実験が行われました。

視覚障害者20人が参加し、踏切の手前にある点字ブロックや、踏切内にある、別の形状をした誘導用のブロックを踏んで、自分の今の位置を確認しながら、踏切を渡っていました。

参加した女性は「横断歩道と比べ、踏切は分かりづらく不安が大きいので、設置されていたら必ず使うと思う。幅広く設置してもらえると気付きやすくありがたい」と話していました。

一方で、横断中に踏切の警報音が聞こえると怖くて焦ってしまい、ブロックだけで冷静に判断できるか不安だなどという意見も聞かれ、視覚障害者の支援団体は、国も現地調査などを行うべきだとしています。
日本歩行訓練士会の古橋友則会長は「現場には会議などでは見えない課題が多くあると感じている。国も、こうした実証実験などで、現場の生の声を確認しながら施策やガイドラインに反映してほしい」と話していました。

ガイドライン作成後 初めての検討会議も 結論出ず

ことし6月にガイドラインが作成されて以降、初めてとなる国土交通省の検討会議が2日に開かれました。会議には、国の担当者のほか、視覚障害者の団体やバリアフリーの専門家などが出席しました。

国はガイドラインで、踏切内に設置するブロックについて、表面に凹凸のついた誘導表示等で、その形状は踏切手前のものとは異なることが望ましいと記していますが、具体的な形状などの基準は示していません。理由について「有効性の根拠が不十分のまま示すことはできないため」としています。

会議では、実際の踏切で実験するなど全国的な基準を作るための国の調査や研究が足りないという意見や、ブロックだけではなく音などほかの手段も検討すべきなどといった意見が出されましたが、設備の設置基準などについては今後、改めて話し合うことになりました。

国土交通省によりますと、この半年間、国による踏切での実証実験などは行っていないということです。

国土交通省の担当者は「国としてはできるだけ間をあけずに議論、準備してきょう会議を開いたと考えている。会議のメンバーから、新しい基準は十分に議論を尽くすべきで、拙速に決めるべきではないという意見もあったので、意見を伺うところは伺うという手続きを踏んだ上で、スピード感を持って議論を積み重ねて今後の対応を示したい」と話しています。