G7と豪 ロシア産原油の取り引き価格に上限で合意 制裁の効果は

G7=主要7か国とオーストラリアはロシア産原油の国際的な取り引きの上限価格を1バレル60ドルに設定するなどとした新たな制裁措置について合意したと発表しました。EU=ヨーロッパ連合の加盟国と足並みをそろえウクライナ侵攻を続けるロシアの資金源を抑えこむねらいです。

アメリカ政府の発表によりますと、G7とオーストラリアはロシアから海上輸送される原油について今月5日から国際的な取り引きの上限価格を1バレル60ドルに設定する新たな制裁措置について合意しました。

また、60ドルを超える取り引きにはG7に拠点を置く金融機関による海上保険や金融サービスを禁止するとしています。

G7に拠点を置く金融機関は世界の海上保険などのおよそ9割を占めることから、制裁に参加しない国にも効果が及ぶとしています。

これに先立ってEUの加盟国も2日、同じ上限価格で合意していて足並みをそろえた制裁措置でウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアの資金源を抑えこむねらいです。

交渉を主導してきたアメリカのイエレン財務長官は「ロシア経済は縮小し財政も厳しさを増しているため最も重要な収入源に直ちに切り込むことができる」とのコメントを出しました。

アメリカ政府は、この制裁措置によりロシア産原油の輸入を続ける新興国などが価格低下の恩恵を受けるとしています。

ただ、G7などこの枠組みに参加する国々はロシア産の原油の輸入を段階的に禁止することをすでに決めています。

こうした中、中国やインドなどがどのように対応しロシアに対する制裁が実効性を持つのか今後の焦点になります。

一方、日本企業が参画するロシア極東の石油・天然ガス開発プロジェクト「サハリン2」については来年9月末まで新たな制裁措置の対象外となっています。

ロシア報道官「容認しない」

ロシア大統領府のペスコフ報道官は3日、ロシアの国営通信社に対して「われわれは上限設定を容認しない」と述べ、受け入れられないという考えを示し、速やかに分析を進めた上で今後の対応を決めると明らかにしました。

ゼレンスキー大統領 “制裁の効果が不十分”

G7=主要7か国とオーストラリアがロシア産原油の取り引きに1バレル60ドルの上限価格を設けるなどとした新たな制裁措置で合意したことについて、ウクライナのゼレンスキー大統領は、3日に公開した動画で「テロ国家の予算としては申し分のない価格で、重大な決定とは言えない」と述べ、制裁の効果が不十分だと主張しました。

そして、ポーランドなど一部の国が主張した、1バレル30ドル程度を上限価格とする場合に比べて「ロシアの年間予算がおよそ1000億ドル増えることになる」と強調しました。

これまでの経緯は

今回の制裁措置については、G7=主要7か国がことし6月にドイツで開かれたG7サミットで本格的に検討をスタートしました。

各国はもともと制裁の一環としてロシアからの石油の輸入を禁止していくことで一致していましたが、ウクライナ情勢などを受けた原油価格の高騰で、制裁の効果が不十分だと指摘されていたためです。

そして、G7はことし9月には海上で輸送されるロシア産の石油や石油製品の取り引き価格について上限を設けることで合意し、その後、EU=ヨーロッパ連合の加盟国を交えて議論が続けられてきました。

上限価格はどう決まった?

制裁を決めたG7やEUの加盟国などとの間で議論となったのはロシア産原油の取り引きの上限価格をどの水準にするかです。

ロシアは輸出する原油が主な収入源のため価格を低く設定すれば、その分、ロシアの収入を減らし制裁の効果を高めることができます。

一方で、価格を低くしすぎるとロシアが強く反発して原油の供給量を絞り、結果的に原油価格が高騰してインフレが進むおそれがあります。

EUは当初、1バレル65ドル程度での上限価格の設定を目指していました。しかし、ポーランドなど一部の国は30ドル程度のより低い価格を主張。

そして、最終的に各国が妥協できた価格の上限は60ドルになりました。

今月2日時点でロンドンの市場で取り引きされている北海産のブレント原油の価格は85ドル程度となっていて、制裁によってロシア産の原油を輸入する新興国などは上限価格以下であればより安く購入することができるメリットもあります。

ただ、ロシア産の原油の価格はこのところ1バレル60ドル台で推移していて、より低い価格で取り引きされれば、制裁措置の効果は限定的だという見方もあります。

このため、G7などは取り引き状況や制裁の効果を見極めつつ、上限価格の水準を随時、見直していくとしています。

制裁措置の仕組みは

ロシア産の原油に上限価格を設ける制裁措置で鍵となるのが、原油の海上輸送で不可欠な海上保険です。

世界中のほほすべての港や運河を利用するタンカーなどには事故に備えた保険への加入が義務づけられていて、こうした保険の取り扱いはG7に拠点を置く金融機関が世界の市場のおよそ90%を占めています。

この市場のシェアの高さを利用し、今回、1バレル60ドルを超える取り引きにG7に拠点のある金融機関の保険の利用を禁止する措置を盛り込みました。

これによって取り引きの価格が60ドルを超える場合は、残り10%程度の保険を利用せざるを得なくなります。

こうした保険は比較的コストが高いため、制裁に参加していない国も上限価格を超えた原油の取り引きがしにくくなり、ロシアに打撃を与えられるとみられています。

専門家「価格上昇局面で効果出てくる可能性」

今回の制裁について、JOGMEC=エネルギー・金属鉱物資源機構の野神隆之首席エコノミストは「画一的にロシア産の石油を差し止めるのとは違い、欧米諸国など以外の消費国にとってもロシア産の石油を購入しにくくなるというのが今回の制裁の特徴だ。価格の上限設定は、石油の供給の制限をしたり、しなかったりできる柔軟性も確保していて、多角的に検討されているという印象だ」と述べました。

一方、制裁の効果については、ロシア産の原油は今回設定された上限価格を下回って取り引きされている状況もあるとして「直ちにロシア産の原油の取り引きに制限がかかる状況ではないが、今後、暖房需要が高まるなどして、原油価格が上昇する局面では効果が出てくる可能性がある」と指摘しています。

さらに、原油市場への影響については「今回の価格の上限設定によって原油価格の変動がさらに大きくなる可能性もある」と述べ、制裁の効果を担保しつつ、原油価格の乱高下を抑える上限価格を柔軟に見直していくことも必要だという考えを示しました。