自民・公明両党 「反撃能力」の保有について実務者協議で合意

敵の弾道ミサイル攻撃などに対処するため、発射基地などをたたく「反撃能力」の保有について、自民・公明両党は実務者協議で合意しました。これまで政策判断として保有しないとしてきた能力を持つことになり、安全保障政策の大きな転換となります。

防衛力強化に向けた自民・公明両党の実務者協議は9回目の会合を開き、政府が11月下旬に示した敵のミサイル発射基地などをたたく「反撃能力」の保有について合意しました。

両党の合意内容によりますと、反撃能力を行使できるのは自衛権行使の3要件に合致した場合で、攻撃を防ぐのにやむをえない必要最小限度の措置とします。
行使のタイミングは、通常の自衛権の行使と同様に相手の国が武力攻撃に着手した時点で、先制攻撃は行わず、専守防衛を堅持するとしています。
反撃の対象は具体的に明示せず、国際人道法を踏まえて「軍事目標」とし、相手の攻撃を阻止するため、個別具体的な状況に照らして判断するとしています。

また、反撃能力として武力行使を行う際には、事態対処法に沿って事態認定の前提となった事実や経緯を明記した「対処基本方針」を閣議決定し、国会承認を得るとしています。
さらに、反撃能力の行使は自衛権の一環であることから、日本が直接攻撃されていない、同盟国アメリカなどへの武力攻撃にも、集団的自衛権の行使として発動することも排除しないとしています。

政府は両党の合意を踏まえ、年末までに改定する国家安全保障戦略など3つの文書に「反撃能力」を盛り込む方針で、与党と文書の詰めの作業を進めることにしています。

「反撃能力」は「敵基地攻撃能力」とも呼ばれ、政府が法理論上、自衛権の範囲内に含まれるとしながらも、政策判断として保有しないとしてきた能力で、日本の安全保障政策の大きな転換となります。

また2日の協議で、政府が安全保障関連の文書の名称について、「防衛計画の大綱」を「国家防衛戦略」に、「中期防衛力整備計画」を「防衛力整備計画」に変更する案を示し、引き続き、両党で協議することになりました。

「反撃能力」行使の手続きは…

日本は憲法のもと、武力の行使や保持する防衛力については、自衛のための必要最小限にとどめる「専守防衛」を基本としています。

これに基づき、政府は「反撃能力」を行使できるのは、自衛権行使の3要件に合致した場合としています。

自衛権行使の3要件は、
▽武力攻撃が発生して日本の存立が脅かされ、
▽これを排除するために、ほかに適当な手段がない場合に、
▽必要最小限の実力行使にとどめるというものです。

自衛権を行使する場合総理大臣は、「対処基本方針」を閣議決定して国会の承認を求める必要があります。

「対処基本方針」には、武力攻撃事態などが発生したと認定するに至った事実や経緯のほか、こうした事態に対処するために自衛隊が行う行動の方針などを記載する必要があります。

自民党と公明党の合意内容では、「反撃能力」を行使する場合は「対処基本方針」を閣議決定して、国会承認を得るとしています。

課題は…

【ミサイルの確保】
「反撃能力」を行使する装備について、政府は、今は陸上自衛隊に配備されている国産の誘導ミサイル「12式地対艦誘導弾」(ひと・に)の改良型の開発や、アメリカの巡航ミサイル「トマホーク」の購入などを念頭においています。

ただ、「12式地対艦誘導弾」の現在の射程は百数十キロとされ、改良して射程1000キロを超える高性能のミサイルを開発するには時間がかかるとみられます。

また、軍事的拡張を続ける中国や核・ミサイル開発を進める北朝鮮を念頭に、抑止力として機能する「反撃能力」とするには、こうしたミサイルが1000発規模で必要だという指摘もあります。

政府が防衛力の抜本的な強化を目指す5年以内に、十分な数のミサイルを確保できるのかが課題です。

【ミサイルの配備先】
一方、こうした「反撃能力」を行使するためのミサイルの配備先をどこにするのか、地元の理解は十分に得られるのかなども課題です。

現在、「12式」が配備されている南西諸島の駐屯地が有力な候補地になるとみられますが、沖縄では安全保障面での地元負担がさらに増すことに懸念があります。

また沖縄以外の場合でも、たとえば新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備をめぐっては、おととし6月、山口・秋田両県への配備を断念した経緯があり、ミサイルの配備には地元の反発も予想されます。

政府は今後、配備先を決めたうえで、丁寧に地元との調整を進めていくことにしています。

松野官房長官「年末までに結論を出す」

松野官房長官は午後の記者会見で、「新たな国家安全保障戦略などの策定に向けた与党間の議論も踏まえ、いわゆる『反撃能力』についても検討を加速し、年末までに結論を出す考えだ」と述べました。

そのうえで、「安全保障環境は急速に厳しさを増す中、いわゆる『反撃能力』の検討は、国民の生命や暮らしを守り抜くために行っており、防衛力の抜本的強化について今後とも丁寧に説明していきたい。また、諸外国に自国の安全保障政策を透明性をもって説明することも 重要であり、引き続き、積極的に取り組んでいく」と述べました。

自民 小野寺元防衛相「国民に丁寧に説する役割も担う」

自民・公明両党の実務者協議で、座長を務める自民党の小野寺・元防衛大臣は記者団に対し、「安全保障環境が厳しい中で、従来のミサイル防衛だけでは十分でない場合もありうる。より重層的に国民を守るためには、憲法で許される範囲で、攻撃を防ぐための能力を持つべきだ。戦後の一貫した日本の防衛体制の中で、大きな変化にもなるので、これから国民に丁寧に説明する役割も担っていきたい」と述べました。

自民 熊田裕通氏「反撃能力は必要な政策」

与党の実務者協議で、自民党側の事務局長を務める熊田裕通氏は記者会見で、「北朝鮮のミサイル発射など10年前と比べ、安全保障環境が厳しくなる中で、これからの10年を考えれば、反撃能力は必要な政策だ」と述べました。

そのうえで、反撃能力の対象に自民党が提言した指揮統制機能などが含まれるのかを問われたのに対し、「軍事目標という考え方が原点だが、含まれないことはない」と述べました。

公明 山口代表「必要最小限の行使を」

公明党の山口代表は、記者団に対し、「相手の領域に打撃力が届くという抑止力を日本が一部保有するという大きな変化ではあるが、平和安全法制のもとで、日本の武力攻撃事態に対応する自衛権の行使の範囲内で収まったことは、公明党がしっかり基本を訴えてきた結果だ。今後、必要最小限の行使のもと、抑止力として機能し、実際に使われることがないような取り組みを外交とあわせて実行していくことが重要で、政府には丁寧に説明を尽くしてほしい」と述べました。

公明 石井幹事長「運用については与党間でしっかり詰める」

公明党の石井幹事長は記者会見で、「反撃能力を持ったとしても、憲法9条のもとの専守防衛の理念を堅持するために、必要最小限の措置を、いかに確保するかが重要で歯止めは担保されている。今後、運用をどうしていくか、与党間でしっかりと詰めていく」と述べました。

また、防衛力の強化に向けた安定財源の確保策について、自民党の一部から、年内に具体的な結論を出すのは難しいという指摘が出ていることについて、「当面、短期的に国債などでつなぐことはありうるが、いずれ安定財源を確保しなければならないことを年内に明確化することが望ましい」と述べました。

公明 浜地雅一氏「迎撃の困難さが国民にも伝わる」

与党の実務者協議で、公明党側の事務局長を務める浜地雅一氏は記者会見で、「昨今のさまざまな北朝鮮の動きを見ていると、ミサイル防衛での迎撃の困難さが国民にも伝わり、与党としてもそういった対応を迫られたという変化が反撃能力を導入するうえで、いちばん大きかったのではないか」と述べました。

立民 泉代表「攻撃の対象や着手の認定がまだ抽象的」

立憲民主党の泉代表は記者会見で、「攻撃対象や着手の認定が、まだ抽象的だ。日本1国のみで相手の攻撃すべてに反撃するのは困難だという前提に立たなければならず、反撃する事態に陥ったときには相当な被害があると想定しなければならない。そうならないために外交が問われるし、単なる防衛力比べになってはならない。閣議決定する政府の文書がどのようになるかを注視していきたい」と述べました。

共産 小池書記局長「断固抗議し撤回を求めたい」

共産党の小池書記局長は、記者会見で「憲法を踏み破って、戦後日本の安全保障政策の大きな転換を自民・公明両党で合意したことに断固抗議し、撤回を求めたい。最大の問題点は、日本への武力攻撃が発生していない『存立危機事態』でも行使すると明言していることだ。『敵基地攻撃能力』の保有や大軍拡を許さないためにたたかっていく決意だ」と述べました。