旧統一教会 被害者救済法案 国会提出 政府 会期内の成立目指す

旧統一教会の被害者救済に向け、政府は、1日、悪質な寄付を規制する新たな法案を閣議決定し、国会に提出しました。政府・与党は、来週から法案審議に入り、12月10日までの会期内の成立を目指す方針です。

新たな法案は、事前の協議により野党側の主張も反映させる異例の形でまとめられ、政府は、与党内の手続きを経て、1日夕方、閣議決定し国会に提出しました。

法案では、▽法人などが霊感などの知見を使って不安をあおり寄付が必要不可欠だと告げるなど、個人を困惑させる不当な勧誘行為を禁止しています。

また、▽野党側がマインドコントロールによる寄付の禁止を求めていることを踏まえ、法人などに対し、個人の自由な意思を抑圧し、適切な判断が困難な状況に陥ることがないようにするなどの配慮義務を課すとしています。

さらに▽罰則も設けられ、禁止行為に違反し、行政の勧告や命令にも従わなかった場合には、1年以下の懲役か100万円以下の罰金の刑事罰が科されます。

政府・与党は来週から法案の審議に入り、12月10日までの会期内の成立を目指す方針です。

ただ、野党側からは、「法案は、被害者救済の実効性を確保するためには、まだ不十分な点がある」という指摘のほか、最終的には党首レベルでの決着が必要になるという見方も出ていて、今後、与野党の間で調整が図られる見通しです。

法案内容の詳細

旧統一教会の被害者救済を図るための新たな法案は、事前に与野党の実務者に政府案の概要が示され、野党側の主張も反映させる異例の形でまとめられました。法案では、現在の法律では十分に対応できない悪質な寄付を規制しています。

具体的には、▽法人などが霊感などの知見を使って不安をあおり、寄付が必要不可欠だと告げるなど、個人を困惑させる不当な勧誘行為を禁止しています。

また、▽個人に借金させたり、自宅などを売らせたりしてまで資金を調達するよう要求することも禁じています。

さらに、▽野党側がマインドコントロールによる寄付の禁止を求めていることを踏まえ、法人などに、▽個人の自由な意思を抑圧し、適切な判断が困難な状況に陥らせることや、▽個人や家族の生活の維持を困難にすることがないようにするなどの配慮義務を課すとしています。

これについて、岸田総理大臣は、不当な勧誘行為によって「自主的に寄付した」という念書にサインさせられた場合には、むしろ違法性を示す要素となるなどの認識を示しています。

そして、▽罰則も設けられ、禁止行為に違反し行政の勧告や命令にも従わなかった場合には、1年以下の懲役か100万円以下の罰金の刑事罰が科されます。

このほか、▽被害者救済に向けて、▽不当な勧誘行為に基づく寄付に「取消権」を認めるほか、▽寄付した本人が取り消しを求めない場合でも、扶養されている子どもなどに一定の範囲内で「取消権」を認め、本来受け取れるはずだった養育費などを取り戻せるとしています。

一方、政府は、法案の規制対象について、▼法人格のない団体も含めると説明しているほか、▽集められた寄付金の帰属先を組織の幹部などの個人に変えて規制対象から逃れる行為が起きないよう対応を検討していくと説明しています。

審議日程と論点

政府・与党は、週明けからこの法案の審議を始め、今の国会で成立させたい考えです。会期末が今月10日に迫り、審議時間も限られることから、立憲民主党はじめ野党側の協力が不可欠だとしています。

立憲民主党と日本維新の会は、被害者や弁護団にとって、実効性のあるものにすべきだとして、いわゆるマインドコントロールによる悪質な寄付のすべてを「取消権」の対象とすることなどを求めています。

一方、政府・与党は、憲法やほかの法律との整合性などから、両党の要求を全面的に受け入れるのは難しいという立場をとっています。

ただ、岸田総理大臣は、今週に入って、国会で「マインドコントロールによる寄付も含め、現行の日本の法体系の中で許されるかぎり、悪質な寄付を、最大限、禁止行為や取消権の対象とする」と述べました。

また、実効性について問われた際も、規制の対象となる勧誘行為などについて幅広く捉える解釈を示したことから、野党内では、「踏み込んだ答弁だ」と評価する声が聞かれます。

しかし、立憲民主党は「被害者の救済にはまだ十分とは言えない」としていて、与野党の党首会談による決着を求める声も出ています。

松野官房長官「早期の成立に向け努力」

松野官房長官は、午後の記者会見で「さまざまな意見を参考として取りまとめたものであり、十分に実効的なものとなっていると考えているが、国会審議においても法案の趣旨や目的について説明を尽くし、早期の成立に向け努力をしていく」と述べました。

そのうえで「さらに法案が成立した際も、条文の解釈の明確化を図るなどして、さらに利用しやすく、実効性のある制度とする努力を続け、被害者救済に万全を尽くしていく」と述べました。

自民 萩生田政調会長「現在考えられるベストな法案できた」

自民党の萩生田政務調査会長は、与党政策責任者会議のあと、記者団に対し「与野党4党の協議などで、それぞれアプローチの違いはあったが、被害者を救済しやすい、現在考えられる最もベストな法案ができた。『与野党を超えて』と最初から言い合って始めたことなので、野党の皆さんの協力をいただき、成立を目指して頑張りたい」と述べました。

立民 長妻政調会長「首相のリーダーシップでよい案出して」

立憲民主党の長妻政務調査会長は、記者会見で「政府の法案の禁止行為は、寄付の勧誘に際して困惑させることが要件になるなど非常に厳しい縛りがあり、旧統一教会の問題にはほとんど適用されない。困惑せずに進んで献金を繰り返すことが規制の対象になることが重要だ。政府がいろいろなよい案を持っていると期待しており、岸田総理大臣のリーダーシップで出してもらいたい」と述べました。

公明 高木政調会長「与野党関係なく成立に向け努力を」

公明党の高木政務調査会長は、与党政策責任者会議のあと、記者団に対し「野党からの意見もできるかぎり受け入れる中で、憲法との整合性をぎりぎりまで詰めている。被害者の救済を第一にするという目的は、与野党関係なく、共通しているので、しっかりと成立に向けて努力していきたい」と述べました。

検討会の座長 東大 河上名誉教授「あいまいな点残る」

消費者庁の有識者検討会で座長を務めた東京大学の河上正二名誉教授は「当初から比べると一歩前進したが、あいまいな点が残されていて、法案の解釈の幅について具体的に明らかにし、社会的に周知していく必要がある。その意味では、今後の運用に期待しないといけないことがかなり残っている印象だ」と指摘しました。

新たに盛り込まれた、配慮義務については「あくまで配慮義務でしかなく、裁判で争っても、きちんと賠償してもらえるか心もとない部分がある。声をあげられない人がたくさんいる中でハードルが下がったとは言えない」としたうえで、禁止行為による寄付が法律上、無効であることを明確にしていくことや悪質商法などで被害を受けた消費者に代わって裁判を起こすことができる「特定適格消費者団体」の協力を検討していくことが必要だとしました。

そして「ここまで被害が拡大した政治の責任は重く、引き続き運用の在り方や政令を工夫するなど、やれることから早く取り組んで被害が少しでも収束していくことを期待している」と話しています。