駅トイレの掃除は大変!きれいを保つ“救世主”とは

駅トイレの掃除は大変!きれいを保つ“救世主”とは
通勤・通学や遠方への移動などで駅のトイレってよく利用しますよね。掃除が行き届いていたりトイレットペーパーの予備がきちんと用意されたりしていて「助かった」という経験がある人も多いのではないでしょうか。駅トイレの清掃について取材をすると、常にきれいに保つことは思っていた以上の労力が必要なことがわかりました。そのトイレがいま、新しい技術で生まれ変わろうとしています。(経済部記者 三好朋花)

駅トイレ清掃に密着

取材をしたのは大阪の玄関口、「新大阪駅」。
新幹線やJRの在来線、地下鉄などが乗り入れ、在来線だけでも1日の利用者はおよそ10万人に上ります。

駅構内のトイレのうち、JR西日本が管理するトイレは4か所。

11月上旬の早朝、清掃員の方を取材しました。
便器を磨いたり、座面を拭いたり、手洗い場や床の清掃も行います。

またトイレットペーパーやせっけんの補充、ごみの回収も欠かせません。

清掃員は、慣れた手つきで次々に清掃作業を進めていました。

清掃は24時間体制

日中の時間帯は平均で10人から12人が清掃を行っていて、4か所のトイレは1時間おきに清掃や備品の補充を繰り返しています。

駅構内の掃除も兼ねるといいますが、終電から始発までの時間帯も清掃員を置いて24時間体制で年末年始関係なく清掃を続けています。
大勢の人が利用するため個室のトイレでは多い時に1日トイレットペーパーが15個も使われることもあります。

公共のトイレなので一般の家庭とは比較できないほどの大きな汚れが出ているといいます。

ただ、トイレは駅の顔。

気持ちよく利用してもらうために限られた時間の中でもできるだけの清掃を行っています。

課題は“トイレ混雑時”

いかに早く効率的に清掃を行うことができるのか。

その課題の1つが、トイレが混雑する時の対応だといいます。
トイレの入口付近から行列ができる光景もよく見るという方も多いと思います。

こうした状況でも決められた時間に清掃を行う必要がありますが、個室のトイレが空かないと清掃はできないですし、時間のロスをいかに減らさせるかについて悩み続けてきました。
JR西日本メンテック 技術企画部 溝邉弘課長
「トイレが混雑していると個室のトイレがいつ空くかわからないのでトイレットペーパーやせっけんなどの補充が難しい状況で清掃員がトイレの前で空くのを待たせていただくこともあります。この待つ時間がかなりあるので効率的に清掃を進めるには非常にもったいないと感じています。さらにトイレ内で待っていると利用者の方から『清掃員が気になる』という声が聞かれることもあります。清掃員の方も混雑の中、トイレ内にずっといないといけないので精神的な負担があると思います」

掃除のタイミングを“お知らせ”

どのようにして混雑時のトイレ清掃を効率的に進めるのか。

試験的に進めているのが、インターネットでデータをやりとりする、「IoT」の活用です。

トイレの個室の扉につけたセンサーは、扉の開閉で空室状況を検知。

この情報を清掃員が持っている端末に通知します。

また、トイレットペーパーやせっけんなども数が少なくなり補充が必要になった場合、端末の画面に表示されます。
清掃員はトイレの混雑状況や備品が必要かどうかを把握しながら空いている個室からスムーズに清掃が進められるという仕組みです。

さらに利用者にも空室の情報をアプリで提供し、空いているトイレの利用を促すなど、混雑の緩和につなげます。

駅のトイレ清掃でも常に人手が足りない状況が続いているといいます。

こうしたデジタル技術を活用することで、清掃員の負担を減らすとともに少ない人数で効率よく掃除を行うことができると考えています。
JR西日本メンテック 技術企画部 溝邉弘課長
「現在も人手は足りないんですけど、これからもますます人手不足が進むことはすでにわかっています。それを上回るスピードで省力化を進めないと、この仕事が成り立たない状態になってしまいます。トイレというのは、駅の顔でもあると考えておりますので、清掃の負担も減らしたいけれども、サービスの質も落としたくない。このせめぎ合いが非常に難しいところです」

清掃員を悩ますのは…

さらに清掃員を悩ませているのが、トイレの「つまり」です。

利用者の多くは、トイレをつまらせてしまった際に多くの水を流そうとします。

これによって便器から水があふれ、便器だけでなく床の掃除まで必要になり、清掃員の大きな負担となってしまうケースが相次いでいました。

この悩みにも、「IoT」を活用しようと大手住宅設備メーカーに協力を求めました。

このメーカーが開発したシステムはセンサーが水の量を検知し、汚物などがつまり一定の水量を超えると、「流す」ボタンを押しても水は流れません。

水があふれるのを未然に防ぐのです。

さらにトイレの「つまり」が起きた情報を清掃員の端末に通知します。
対応が必要なトイレが一目で分かり、優先順位をつけて掃除ができると考えていて、システムを開発した会社も清掃員の負担軽減につながるだけでなく、ほかの公共トイレへの導入に向けても期待をしています。
LIXIL ビジネスイノベーション部 小川祥司主幹
「駅などのトイレは、不特定多数の方がたくさん利用するのでトイレのつまりが発生して、汚水で床が汚れてしまうということが頻繁に起きていると聞いています。オフィスや商業施設のトイレに関係する業務も人手不足で非常にひっ迫しています。新たなサービスで清掃の効率や品質を保ちながら人手不足の問題を解決していきたい」

来春開業の大阪の新駅に導入へ

JR西日本はこうした「IoT」を活用した新しい機能を備えた新たなトイレを、来年春に開業する予定の大阪の「うめきた地下駅」に本格導入することにしていて、今後ほかの駅への導入も検討しています。

さらに、高速道路や空港などの公共トイレでも応用できることから、広くビジネス展開していきたいといいます。
JR西日本 鉄道本部 イノベーション本部 橋場諭さん
「トイレの清掃はもともとかなりの人手をかけて行ってきましたが、通知型のオペレーションに変えることで、必要な人手が減っていくと思いますし、労働力人口の減少にも対応できると考えています。今後、新しいシステムの効果などを確認したうえでほかの公共トイレにも広げて社会課題の解決にもつなげていければと思います」

駅トイレの新技術 浸透するか注目

トイレは「会社の顔」「施設の顔」という言葉を聞くことがありますが、その言葉が示すようにトイレの清潔さが利用者の印象につながることもあると思います。

一方で、駅などの公共トイレに事業者が優先的にコストをかけることはこれまでは少なかったかもしれませんが、今回の取材を通じて意識の変化だけでなく清掃のあり方を大きく変える新しい技術が生まれていると感じました。

さらに働き手の立場から効率的な業務を検討することは労働力人口が減少する中でどう継続していくかという点でも、事業者の利益やコストの抑制につながると思いました。

IoTの活用による、省力化やサービスの向上は、様々な業界でも広がっています。

駅トイレの新しい技術が浸透していくのか注目されます。
経済部記者
三好朋花
2017年入局
名古屋局を経てことし8月から経済部に
国土交通省担当で鉄道業界などを取材