漁の動画が「バズった」若手漁師の挑戦

船もズボンも、そして髪の毛もピンク。そんな異色の若手漁師がSNSに漁の動画を投稿したところ、「バズった」。再生回数は3100万回超…。なぜ彼は発信を続けるのか?背景には漁業の現状を変えたいという強い思いがありました。(秋田放送局記者 谷口真央)
漁の動画が3100万回超再生!
まずはこちらの動画をご覧ください。

網からあふれ出す大量の魚。船の中はあっという間に大きなたらやカニなどで埋め尽くされました。
わずか10秒余りのこの動画。ことし1月に動画共有アプリ「TikTok」に投稿されると再生数は瞬く間に増えて3100万回を超えました。
わずか10秒余りのこの動画。ことし1月に動画共有アプリ「TikTok」に投稿されると再生数は瞬く間に増えて3100万回を超えました。

日本だけでなく、世界中から900件を超えるコメントが寄せられ、大きな反響を呼びました。
投稿したのは秋田県南部・にかほ市の漁師、佐藤栄治郎さん。底引き網漁の船長としては、県内で最年少の29歳です。
まず目を引くのは、その見た目。船の内装やズボン、それに髪の毛もすべてピンクで統一されています。
投稿したのは秋田県南部・にかほ市の漁師、佐藤栄治郎さん。底引き網漁の船長としては、県内で最年少の29歳です。
まず目を引くのは、その見た目。船の内装やズボン、それに髪の毛もすべてピンクで統一されています。

佐藤栄治郎さん
「やっぱりピンク色の船ってあんまり見ないので、どうせだったら人と変わったことやってやろうと思って。なんだろうあの船とか、あの船おもしろそうって思ってもらえたらいいなっていう感じです」
「やっぱりピンク色の船ってあんまり見ないので、どうせだったら人と変わったことやってやろうと思って。なんだろうあの船とか、あの船おもしろそうって思ってもらえたらいいなっていう感じです」
「漁師だからこそ」のインパクトを
佐藤さんは、動画編集などの仕事をしている兄の影響で、おととしからSNSでの発信を始めました。
ツイッターやインスタグラムなども含めて、漁の合間を縫って、ほぼ毎日SNSで投稿を繰り返しています。
ツイッターやインスタグラムなども含めて、漁の合間を縫って、ほぼ毎日SNSで投稿を繰り返しています。

今では、「TikTok」のフォロワーが20万人を超えています。
なかには、甘エビのみそ汁やワカメのしゃぶしゃぶなどの「漁師飯」を紹介している動画もあり、再生回数が100万回を超えるものも多くあります。
重視しているのは、映像のインパクトだといいます。
なかには、甘エビのみそ汁やワカメのしゃぶしゃぶなどの「漁師飯」を紹介している動画もあり、再生回数が100万回を超えるものも多くあります。
重視しているのは、映像のインパクトだといいます。

佐藤栄治郎さん
「『TikTok』に関しては0.3秒でスクロールされるって聞いたので、本当の第一印象だけを大事に映像をあげるようにしています。見てもらったらこっちの勝ちなんで。船に乗った人でしか見られない光景だというのが、再生回数が伸びた理由じゃないかなと思います」
「『TikTok』に関しては0.3秒でスクロールされるって聞いたので、本当の第一印象だけを大事に映像をあげるようにしています。見てもらったらこっちの勝ちなんで。船に乗った人でしか見られない光景だというのが、再生回数が伸びた理由じゃないかなと思います」
漁業の衰退を食い止めたい
見た目は派手な佐藤さんですが、SNSで発信し続けている背景には、漁師の高齢化が進む中で、漁業の衰退を食い止めたいという強い信念があります。

農林水産省の調査では、秋田県内の漁業就業者は平成30年度の時点で773人と、20年でおよそ半数に減っています。
人口減少の影響もあり、深刻な担い手不足が続いているのです。
人口減少の影響もあり、深刻な担い手不足が続いているのです。
佐藤栄治郎さん
「自分の子どもの時と比べて船の数が半分になっている。若い漁師もいないし、単純に漁師人口がすごい減っているので、そういう部分ではすごい高齢化を感じます。これ以上船は減らしたくないので、若い人が増えればいいなと思っています」
「自分の子どもの時と比べて船の数が半分になっている。若い漁師もいないし、単純に漁師人口がすごい減っているので、そういう部分ではすごい高齢化を感じます。これ以上船は減らしたくないので、若い人が増えればいいなと思っています」
秋田の漁業の広告塔に
佐藤さんは、少しでも漁業に興味をもってもらおうと、SNSを通じて若者に呼びかけ、漁業の体験をしてもらう取り組みをはじめています。
ことし10月、にかほ市を訪れた大阪大学の3年生はおよそ1週間、佐藤さんのもとに住み込み、一緒に漁に出るなどして漁師の仕事ぶりを体験しました。
ことし10月、にかほ市を訪れた大阪大学の3年生はおよそ1週間、佐藤さんのもとに住み込み、一緒に漁に出るなどして漁師の仕事ぶりを体験しました。

大阪大学の学生
「佐藤さんがSNS等で情報発信していたので、『乗ってもいいですか』とお願いして、船に乗せていただきました。漁に行ってはじめて、おっと圧迫されるような漁師のかっこよさみたいなのに気付かされました」
「佐藤さんがSNS等で情報発信していたので、『乗ってもいいですか』とお願いして、船に乗せていただきました。漁に行ってはじめて、おっと圧迫されるような漁師のかっこよさみたいなのに気付かされました」
佐藤さんはこれまでに東京や大阪の大学生など6人を受け入れてきました。さらに、SNSを通じて佐藤さんを頼ってきた若者を知り合いに紹介し、漁師になる橋渡しをしたこともあるということです。
また、佐藤さんは、漁師は収入が安定しないなどの固定化されたイメージを持たれていると考えていて、そうしたイメージもSNSでの発信を通じて払拭(ふっしょく)していきたいとしています。
また、佐藤さんは、漁師は収入が安定しないなどの固定化されたイメージを持たれていると考えていて、そうしたイメージもSNSでの発信を通じて払拭(ふっしょく)していきたいとしています。

佐藤栄治郎さん
「勝手に敷居をあげられてるというか、やりたいっていう思いがあれば普通の会社と変わらず誰にもできる仕事なので、そういう偏見も嫌だなと思って、SNSで発信しています。秋田の漁業の広告塔になってやろうかなぐらいに思っているので、自分含め若い漁師を増やして若い人たちで秋田の漁業を盛り上げていけたらいいなと思っています」
「勝手に敷居をあげられてるというか、やりたいっていう思いがあれば普通の会社と変わらず誰にもできる仕事なので、そういう偏見も嫌だなと思って、SNSで発信しています。秋田の漁業の広告塔になってやろうかなぐらいに思っているので、自分含め若い漁師を増やして若い人たちで秋田の漁業を盛り上げていけたらいいなと思っています」
「バズり」漁師の挑戦は続く
「漁業は楽しい」
佐藤さんが取材の中で頻繁に口にしていたことばです。
高校を卒業してすぐに、いまは同じ船で働く父親を継いで漁師になった佐藤さんですが、これまでに漁師を辞めたいと思ったことは一度もないといいます。
魚がとれない日もあれば、しけで漁に出られない日がしばらく続くこともある。生き物や自然を相手にする仕事だからこその厳しさがある一方で、豊漁だったときの楽しさが漁業の醍醐味だと口にした時の笑顔が印象的でした。
佐藤さんが取材の中で頻繁に口にしていたことばです。
高校を卒業してすぐに、いまは同じ船で働く父親を継いで漁師になった佐藤さんですが、これまでに漁師を辞めたいと思ったことは一度もないといいます。
魚がとれない日もあれば、しけで漁に出られない日がしばらく続くこともある。生き物や自然を相手にする仕事だからこその厳しさがある一方で、豊漁だったときの楽しさが漁業の醍醐味だと口にした時の笑顔が印象的でした。

佐藤さんはSNSでの発信だけでなく、地元の自治体をPRする動画に出演するなど、さまざまな取り組みに積極的に参加しています。
漁師の減少に歯止めがかからないなかでも、佐藤さんのように若手漁師ならではの工夫を重ねて若者にアプローチを続ける姿は、いつか潮目が変わり、秋田の漁業全体が「バズる」きっかけになるのではないかと感じました。
漁師の減少に歯止めがかからないなかでも、佐藤さんのように若手漁師ならではの工夫を重ねて若者にアプローチを続ける姿は、いつか潮目が変わり、秋田の漁業全体が「バズる」きっかけになるのではないかと感じました。

秋田放送局記者
谷口真央
2018年入局
秋田放送局で県政などを担当。
海がない滋賀県出身。好きな寿司ネタはマグロとツブ貝。
谷口真央
2018年入局
秋田放送局で県政などを担当。
海がない滋賀県出身。好きな寿司ネタはマグロとツブ貝。