NATO外相会議 ルーマニア ウクライナへの支援を巡って議論

NATO=北大西洋条約機構の外相会議が日本時間の29日夜、ルーマニアの首都ブカレストで始まり、ウクライナへの支援を巡って議論が行われています。

NATOの外相会議では、厳しい冬となる中、ロシア軍からインフラ施設などへのミサイル攻撃を受けているウクライナを支援する姿勢を一層強く打ち出すとみられます。

またロシアからの圧力にさらされているとして、旧ソビエトのモルドバやジョージアなどへの支援も強化することで合意する見通しです。

NATOのストルテンベルグ事務総長は会議を前に記者団に対し「NATOはこれまでも前例のない支援をウクライナに提供してきたし、これからも支援を続ける」と強調しました。

今回の会議では、ことし5月にNATOへの加盟を申請し、現在、各国が加盟に向けた批准の手続きを進めている北欧のフィンランドとスウェーデンもすべての議論に参加する予定です。

会議は、29日から2日間の日程で開かれます。

北欧2か国 NATO加盟めぐり トルコと協議続く

北欧のスウェーデンとフィンランドはロシアによるウクライナへの侵攻を受けて軍事的中立を転換し、ことし5月、NATOへの加盟を申請しました。

加盟には30のすべての加盟国の批准が必要で、これまでに28か国が批准し、ハンガリーも批准に向けた手続きに入ることを今月、明らかにしました。

残るトルコは、分離独立を掲げる少数民族のクルド人武装組織のメンバーなどをテロ容疑者だとし、スウェーデンとフィンランドが支援していると主張していて、テロ対策を講じるなどの条件付きで加盟を認めることで両国と合意し具体的な内容について協議を続けています。

協議はスウェーデンで先月、右派政権が発足してから活発になっています。

今月8日にトルコのエルドアン大統領と初めて会談したスウェーデンのクリステション首相は「トルコの将来的な同盟国としてテロリストに立ち向かうという約束を果たす」と述べ、トルコ側の要求に柔軟に応じる姿勢を示しました。

今月25日にはスウェーデンで実務者どうしの協議が行われ、スウェーデンとフィンランドによる取り組みを評価するとともに合意のさらなる履行に向けて努力を続けていくことを確認しています。

トルコの思惑は?

トルコとしては、ことし6月に交わした「テロ容疑者」の引き渡しの枠組みづくりなどについての合意をスウェーデンとフィンランドが約束どおり履行するか両国の出方を注視しています。

このうちスウェーデンに対してエルドアン大統領は、クルド人武装組織のメンバーなど73人の引き渡しを求めています。

トルコ外務省は今月25日、合意に向けた両国との協議について「進展を前向きに受け止めている」と評価する姿勢を示しています。

一方、エルドアン大統領は、スウェーデンの街頭でクルド人が武装組織の旗を掲げて抗議活動をしているとして苦言を呈すとともに、スウェーデン政府に対応を求めています。

トルコでは来年6月に大統領選挙と議会選挙が予定されていて、エルドアン大統領としては「強気の外交」を国民へのアピール材料にしようというねらいです。

ただスウェーデンとフィンランドのNATOへの加盟に向けた批准をいたずらに先延ばしにし、欧米からの批判が高まれば逆効果になりかねないため、トルコは両国の明確な措置を待っている状況です。

スウェーデン国民からはトルコの要求に反発の声も

スウェーデンでは、NATO=北大西洋条約機構への加盟協議について連日のようにメディアが伝えていることもあり、国民は高い関心を寄せています。

首都ストックホルムでは、トルコのエルドアン大統領が「テロリスト」だと主張する73人を引き渡すよう求めていることに対して応じるべきでないという声が多く聞かれました。

30代の男性は「クリステション首相がトルコの要求を受け入れてクルド人の問題について政策を変えたりすれば世界に対して恥をさらすことになる。トルコによるシリア北部への空爆についてもスウェーデンや世界の指導者は声を上げるべきだ」と批判しました。

別の男性も「トルコの要求に譲歩するべきではない。スウェーデンにはスウェーデンの法律があり、それに従うべきだ」と話していました。

50代の女性は「NATOへの加盟を急ぐ必要はない。加盟の是非について、一度、国民の意見を聞くべきではないか」と述べ、ロシアがウクライナへの侵攻を開始したおよそ3か月後のことし5月に加盟を申請した時に比べてロシアについて「差し迫った脅威」だと捉える空気感に変化が生じていることも伺われました。

専門家「エルドアン大統領の政治的計算にかかっている」

トルコのエルドアン大統領がスウェーデンに対して引き渡しを求めている少数民族クルド人武装組織のメンバーなど73人について、詳しい情報は明らかになっていませんが、その中にはすでにスウェーデン国籍を取得した人がいる一方で、難民認定を申請中の人もいるとみられます。

スウェーデンにあるストックホルム大学のトルコ研究の第一人者、ポール・レヴィン所長は、加盟協議の行方について「トルコがテロリストと見なす人たちを引き渡すかどうかはスウェーデンの裁判所が判断することで、政府が何かをするのは非常に難しいだろう。その一方で、寛容だった移民政策の見直しを掲げている右派政権は難民申請者の国外退去を進めるかもしれない。実際、スウェーデンに難民申請をしたクルド人の中にはすでに申請を拒否された人もいる」と述べ、難民申請中の人たちに対する間口を狭めることでトルコと折り合いをつけようとする可能性があると指摘します。

一方で、トルコの立場については「両国の加盟に対するいわば拒否権を握っていて、アメリカをはじめとするNATO加盟国は口を出しにくい状況だ。トルコにとっては敵視するシリアのクルド人武装組織への軍事作戦を進める好機となっている」と分析します。

そのうえで「トルコが来年1月までにスウェーデンとフィンランドのNATO加盟を批准すれば、NATOは来年夏の首脳会議で決める防衛計画に両国を含めることができる。ただ、トルコのエルドアン大統領は来年6月に予定されている大統領選挙が行われるまでは両国の加盟を認めず、協議を長引かせるつもりではないか。最終的には、エルドアン大統領がどのような政治的計算をするかにかかっている」と述べました。

スウェーデンのクルド系住民は危機感募らせる

NATOへの加盟をめぐるトルコとの協議に危機感を募らせているのがスウェーデンにおよそ15万人いるとされるクルド系の住民です。

今月21日には首都ストックホルムで集会を開き、クルド人への攻撃を繰り返すトルコに対しスウェーデン政府が抗議せず加盟協議を続けていることを批判しました。

集会を開いた57歳のジャーナリスト、クルド・バクシさんは10代のときにトルコから一家でスウェーデンに移住しました。

バクシさんはスウェーデンの人権を擁護する政策の恩恵を受けてきたとしていて「スウェーデンはいま、抑圧されているクルド人ではなく抑圧しているトルコと協力し人権重視の政策を放棄したかのように見える。とても残念だ」と述べ、NATO加盟を材料に揺さぶりをかけるトルコに対してどのような対応を取るかは国の根幹に関わる問題だと感じています。

さらに「トルコは『テロリスト』の定義を押しつけ、スウェーデンの法律や言論の自由まで変えようとしている。クルド人の一部はスウェーデンの市民権を持っていないので、これから困難な生活を強いられるかもしれない。私たちはかつての、トルコでのような生活はしたくない」と述べ、加盟協議でトルコの要求に応じれば、今後「テロリスト」として引き渡しを求められる対象はさらに増えるおそれがあると訴えました。