小児科にかかり続ける大人の患者 成人診療とのはざまで何が

小児科は病気やけがの子どもを治療するところですが、いま、20代、30代になってもかかり続ける患者が増えてきています。

多くは、子どもの頃に重い病気の治療を受けたことがある人たちです。

医療現場の話を聞くと、大人向けの治療につながることが難しく、命の危険にさらされかねない現状があることが明らかになってきました。

どんな問題が起きているのか、取材しました。

増える成人の患者 こども病院はいま

こども病院の実態を知ってほしいと、医師に案内されたのは、小児集中治療室。

生まれたばかりの赤ちゃんと並んで治療を受けていたのは、23歳の女性でした。
女性は10月、肺炎を起こして自宅近くの総合病院に救急搬送されました。

しかし、先天性の心臓の病気で手術を受けたことがあるため、心臓の管理が難しいとして、3日後、生後間もなく手術を受け、その後も定期的に通っていたこども病院に転院となりました。
女性の母親
「最初に搬送された病院のお医者さんが『大変な子が来ちゃった』と驚いていたと聞きました。こども病院は生まれてすぐから診ていただいている病院なので安心感はありますが、まわりも小さい子ばかりだし、先生にもいつまでも申し訳ないなという思いもかなりあります」。

20歳以上の外来患者が全体の7%に

この病院、神奈川県立こども医療センターは、重い病気の子どもの治療を専門としています。

通常、小児医療の対象年齢は15歳未満ですが、この病院では、20歳以上の外来患者がおよそ2300人と、全体の7%に上っています。

医療技術が進歩して、先天性の心臓病や小児がんなど、重い病気の子どもの命が救えるようになったことで、こうした大人の患者が増えているのです。

かつては治療が難しかった病気で命を救われた子どもは12万人余りに上るとされます。

こうした子どもたちが大人になって、引き続き、小児科にかかり続けているのです。

「移行期医療」うまく機能していない?

本来、子どもが成長して大人になると、徐々に小児科から成人の専門の診療科に移っていきます。

ただ、重い病気の治療を受けた子どもの場合、子どもの頃に受けた治療の定期観察が引き続き必要だといった理由で、大人の医療に移るのがそのままでは難しいとされます。

年齢に応じて提供されるべき適切な医療、「移行期医療」が必要になってきます。

ところが、この「移行期医療」がうまく機能していません。

成人患者の約6割が大人になっても小児科受診

心臓病の患者団体が実施した全国調査では、幼い頃から心臓病を抱えている患者のおよそ6割が大人になっても小児科にかかっている実態が明らかになっています。

移行期医療支援センター 設置は全国7か所のみ

国は、移行期医療を進めるために、2017年以降、小児科と成人の診療科を連携させる役割を担う「移行期医療支援センター」を各都道府県に1か所以上設置するよう求めています。

センターは、小児科と成人の診療科の間に立って、患者を橋渡しする役割を担います。

成人の診療科は臓器別などに分かれているので、センターの看護師などが「この病気はこの診療科で診てもらえる」といった情報を集めてつなげます。

しかし、厚生労働省によりますと、2022年2月時点で、移行期医療支援センターは、7つの都府県にしかありません。

その理由として、センターを運営する上で核となる医師や看護師などの人材を確保できないといった声があがっています。

成人期の病気は子どもと異なる 小児科医は危機感

移行期医療がなかなか進まない中で、どのような影響が出ているのか。

患者自身の命と健康を守ることにも課題が。

大人になっても患者を見続けている小児科の医師は、心筋梗塞や糖尿病といった大人になってから発症する病気や、妊娠・出産に伴うリスクなどに対応できず、患者の命を守れなくなるのではないかと危惧しています。
神奈川県立こども医療センター 柳貞光医師
「ぼくらは小児科医です。いわゆる大人の病気の合併症に対する知識や技術、看護力も不足しているのは否めないです。その中で、小児科医のぼくらが診ていくことが成人の患者さんにとってメリットがあるのか、やはり考えなきゃいけない問題だと思っています」。

病床埋まり小児患者の入院断るケースも

さらに、神奈川県立こども医療センターでは、成人の患者も入院して病床が埋まり、新たな小児患者の入院を断らざるを得ないケースも出てきているといいます。
柳貞光医師
「大人の患者さんも行き先がないという状況を作るべきではないので、新規の小児患者さんの入院を断らざるを得ないこともあります。難しい病気の小児患者さんを治療することに影響が出てこないかが心配です」。

自分のリスク知らぬまま 命の危険も

さらに、移行期医療の課題として挙げられるのが、患者自身が幼い子どもの頃に治療を受けた、自分の病気についてよく知らないことが多いことです。

小児科では、保護者が医師から病気の説明を受けることが多いためです。

中には、病気について十分知らないまま大人になったことで、命の危険にさらされるケースまで出ています。
東京都内に住む28歳の野呂和明さんは、先天性の心臓の病気で、生後まもなく手術を受けました。

定期健診のため数か月に1度小児科を受診してきましたが、大人になっても自分の病気についてほとんど知識がなかったといいます。
野呂和明さん
「病名は知っていましたが、自分の病気について全く理解していませんでした。胸に手術の跡はありますが当時の記憶はないですし、10代はずっと元気だったので自分の病気は軽いんだと思っていて、病気に興味がありませんでした」

野呂さんは19歳で専門学校を卒業し、大型重機のメンテナンスを行う仕事に就きました。

その後、体調が急激に悪化しました。
定期健診で小児科を受診したときにはすでに不整脈の症状が進行。

紹介された病院ですぐに人工血管を用いた大がかりな手術を受けることになりました。

パソコン業務で長時間同じ姿勢でいること、現場で重い部品を運ぶこと、こうした仕事で心臓に大きな負荷がかかっていたと、医師から指摘されました。

「疲労感がすごくて、通勤時に酸欠のような症状が出ることもありました。でも仕事のストレスかなと思っていました。医師からはよく生きていたねって言われました。自分が手術をするなんて念頭にすらなかったので驚きました。自分の病気について当事者意識をもって知ることは大切だと感じています」。

患者に自分の病気を知ってもらう

大人になっていく患者の命をどう守っていけばいいのか。

対策が長野県で進められています。

まず紹介するのは、長野県立こども病院の教育プログラムです。

病院では患者に自分の病気について知ってもらい、自立を促すため、年齢に応じた独自の教育プログラムを作っています。
患者が10歳になるころから、看護師が病気のしくみや治療内容、日常生活で気をつけることなどを段階的に教えながら、理解度をチェックシートで確認します。
(看護師)「自分の病気の名前は言える?」
(小学生)「両大血管右室起始症」
(看護師)「すごいすごい。体育をするときに病院の先生になにか注意しなさいっていわれてることあるかな?」
(小学生)「今はあまりない」
(看護師)「こまめに水を飲むことを忘れないでね」。
倉科美穂子看護師
「大人になった患者さんと接する中で、自分の病気のことをほとんど理解していなかったという苦い経験をたくさんしてきました。症状がなくても服薬を続けて、定期健診をきちんと受けることの必要性とか、小さいころから自分のこととして病気を理解してもらうための働きかけが必要なんだと気づいて取り組んでいます」。
さらにこの病院では、20歳前後の患者は、通常の診察とは別に、移行期医療の専門外来を受診します。

取材した日には、幼い頃に心臓の治療を受けた22歳の男性に、医師が1時間以上かけて病気のリスクを説明していました。
瀧聞浄宏医師
「50歳の私と、この手術を受けたあなたに残された寿命は同じくらいなんだ。医療が進めば延びるかもしれないけど、いま50歳と思って生活に気をつけてほしい。大事なのは病院に通うこと。通わなくなると薬も飲まなくなって、あなたの場合は一気に心臓が悪くなる可能性があるんだよ」。

「自分の命守るために患者も自立を」

ただ、この病院のような、患者の自立教育プログラムがあるのは、全国の小児専門病院や大学病院のうちのおよそ6分の1にとどまります。
※2022年度 国立高度専門医療研究センター医療研究連携推進本部の共同研究事業調査(窪田班)

長野県立こども病院の瀧聞浄宏医師は、患者が成人の診療科に移っていく上で、患者に自分の病気について理解してもらうことは欠かせないと言います。
瀧聞浄宏医師
「成人の診療科では、患者さん本人が、医師と治療の内容を決めていくことが求められます。小児科では両親と医師が命を守ってくれていましたが、患者さん本人も加わって一緒に病気について考えていく。最終的には自分の命を自分で守れるように患者さんが自立しなければなりません」。

子どもの病院と大人の病院の連携も

さらに、長野県では、大人になっても成人の診療科に移れないという問題については、こども病院と大学病院が連携して解決策を見いだそうとしています。

長野県立こども病院では、大人の心臓病治療を専門とする大学病院の医師が診察する機会を設けています。

循環器内科の専門医、信州大学医学部附属病院の元木博彦医師は、月に2回こども病院で診察し、患者との信頼関係を築いて、大学病院への転院につなげています。
取材した日は、先天性の心臓病で生後まもなく治療を受けた、21歳の男性を診察。

優しい口調で質問を投げかけていました。

(元木医師)「小児科の先生にこういうことに注意してねってなんか言われてきた?」
(男性)「虫歯ができないようにって」
(元木医師)「そうだね。心臓にばい菌がついちゃうからね。歯を抜きますがいいですかって歯医者に言われたらどうする?」
(男性)「心臓の病気がありますって言う」
(元木医師)「そうそう。難しい病名もそろそろ覚えておこうかな。『感染性心内膜炎』って言って心臓の内側にうみがついちゃう病気。歯を抜くときはそのリスクがあるから自分で伝えなきゃいけないよ」。
信州大学医学部附属病院 元木博彦医師
「患者さんたちはずっとお世話になってきた小児科の先生への信頼感が強いし結びつきも強いので、大人の診療に慣れてもらうステップがあったほうが、大学病院にくるストレスも減らせるんじゃないかと思っています」。

元木医師は、診たことがなかった先天性の心臓病の患者を受け入れるために、こども病院で学んできました。
患者が大学病院に移ったあとも、月に1度、こども病院の医師と会議を開き、意見を出し合って治療方針を決めています。

元木博彦医師
「循環器内科の医師は、大人の心臓病の管理に関しては慣れているんですが、先天性の心臓病の患者さんは一人ひとり心臓の形なども違うので戸惑いはありました。最初の頃はこども病院の先生の診察を見学させてもらって、1年くらい、理解したり調べたりし続けて、自分で診察できるようになりました」。

「ぼくらもかつては、忙しいとか人員配置が難しいということで、大人になった患者さんの受け入れを敬遠していた経緯がありましたが、診ようという成人科の仲間の医師が増えてほしいなっていう思いがありますね」。

救われた命を守るために

徐々に進もうとしている「移行期医療」ですが、長野県立こども病院でも、心臓以外の病気では受け入れ先の成人の診療科の医師を見つけるのは手探りの状態だということです。

医療現場からは、移行を支援するには時間と労力がかかるので、診療報酬など、医療機関への財政的なサポートが必要だという声も出ています。

医療技術の進歩によって、救うことができるようになった命を守り続けていくために、移行期医療の必要性が広く理解され、手立てが取られることが求められます。