プーチン大統領 兵士の母親と面会 不満や反発抑えるねらいか

27日は、ロシアで「母の日」です。家庭で母親への感謝を表す日にしようと、1998年、当時のエリツィン大統領が11月の最終日曜日をロシア独自の「母の日」に制定しました。ロシア大統領府は11月25日、「母の日」を前にプーチン大統領が兵士の母親たちと面会した映像を公開しました。

このなかでプーチン大統領は「国を支える基盤は母親だ」とたたえ、ウクライナの戦地に子どもたちを送り出すことに理解を示しているとして謝意を示すとともに、兵士たちへの支援に力を入れる姿勢を強調しました。

軍事侵攻に対する国民の理解を得て、予備役の動員などに対する不満や反発を抑えたいねらいとみられます。

一方でプーチン大統領は「誰でもいつかは死ぬものだ。問題はどう生きたかだ」とも述べ、祖国のために戦死することを正当化したとも受け取れる発言を行いました。

プーチン大統領は、ことし8月には、ソビエト時代の制度を復活させる形で、10人以上の子どもがいる女性に「母親英雄」という称号を与える大統領令に署名しました。

11月14日にはこの称号が2人に与えられ、このうち1人は、プーチン大統領に忠誠を誓い、チェチェンの戦闘員を率いるカディロフ氏の妻でした。

米 戦争研究所「兵士の母親と偽って公開」

ロシア大統領府によりますと、プーチン大統領と、戦地に派遣されたロシア兵の母親たちとの面会は、11月25日、モスクワ郊外にある大統領の公邸で行われました。

大統領府は、プーチン大統領がおよそ20人の女性と2時間余りにわたって対話した様子を公開しました。

公表された参加者の中には、兵士の母親で、▽政府機関の職員や▽政権寄りの団体の地方組織のトップも務める女性たちが含まれています。

ロシアの独立系メディアは「動員された兵士の一般的な母親は、こうした会合に参加することを許されなかったのだろう」と伝え、政権側にとって都合のいい母親たちだけが招かれたという見方を示しました。

また、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」も「政界で影響力のある地位にある女性たちとの会合を、動員された兵士の母親との意見交換会と偽って公開した。プーチン大統領は、動員をめぐるメディアの不都合な報道を信用しないよう呼びかけ、兵士の家族との連帯を表明した」と指摘しています。

動員された人々の母親や妻「真実を知る権利がある」

ロシアの各地では、ウクライナ侵攻で戦地に派遣された兵士の家族が不安や不満の声を次々にあげています。

動員された人々の母親や妻が結成した団体「母と妻の評議会」は11月23日、首都モスクワとロシア各地をオンラインで結んで会合を開き、およそ2000人が参加しました。

参加者は、息子や夫が戦地で強いられている実情を次々と訴え、このうち、夫が訓練を受けないまま最前線に送られたという女性は「水も食料も、まともな服もないまま、ただ、ざんごうにいる」と述べ、夫が劣悪な環境に置かれているとして不安な胸の内を明かしました。

また、大病を患っている息子が動員されたという女性は「2つの手術を受ける必要があったのに連れて行かれた」と述べ、対象ではない人が動員されている実情を訴えました。

さらに、夫がウクライナ東部のルハンシク州に送られたまま連絡が途絶えていたという女性は「配属された部隊を調べたら、すでに部隊は存在していなかった」と話していました。

女性は、国防省に直接問いただすため、およそ400キロ離れた地方都市からモスクワに来たということで「国民をだまし、国に問題がないと言うのはやめてほしい。私たちには大切な人についての真実を知る権利がある」と訴えました。

会合を主催した団体は、11月中旬にもプーチン大統領の出身地サンクトペテルブルクで、軍事侵攻をやめるよう訴える抗議活動を行ったほか、独立系のメディアは、動員された人々の家族による抗議活動が10月以降ロシア国内の15の自治体で行われたと伝えています。

今回のオンライン会合についても複数のロシアメディアが取り上げていて、兵士の家族たちのこうした訴えはロシア国内でも少しずつ広がっているとみられます。

人権保護に取り組むNGO「動員は大勢の人に対する人権侵害」

ロシア兵などの人権保護に取り組むNGO「徴集兵の学校」の代表、アレクセイ・タバロフ氏が、NHKのインタビューに答え、動員をめぐる現状について明らかにしました。

タバロフ氏は、プーチン政権の圧力から逃れるため現在、ヨーロッパを拠点に活動しています。

オンラインでNHKのインタビューに答えたタバロフ氏は、プーチン大統領がことし9月、予備役の動員を発表した直後の状況について「ロシア市民から『私は動員対象になるのか』といった大量の相談が来た。3500件以上の相談がネットに寄せられ、電話のホットラインはパンクしてしまった。非常に緊迫した雰囲気だった」と述べました。

そして「プーチン政権は、『軍事作戦は遠い世界で行われ、皆さんは国内で普通の生活を送ってください』といった考えを植え付けていたため、ロシア社会は動員に対する準備ができていなかった。人々のもとに突然、戦争が訪れ、暴力的な方法で拘束され、戦地に送られることになったので多くの市民にとって衝撃的な出来事となった」と指摘しました。

そのうえでタバロフ氏は「地方では、手当たりしだい市民をバスに乗せ、戦場に送り出した例もある。きょうも、片手が動かない障害があるのに動員されたという男性から相談を受けた」と述べ、対象でない人も招集されている疑いがあると指摘しました。

また「プーチン政権は、モスクワなど大都市では動員に対する反対運動が起きる可能性があると考えたようだ。このため、体制に忠実とされる地方で多くの動員が行われた。極東のブリヤートやシベリアのトゥバでは、ほとんどの男性が戦地に送り出された」と明らかにしました。

そして「今回の動員は、大勢の人に対する人権侵害だ。一方で、問題なのは、多くの市民は人権が侵害されていることを自覚していないことだ。プーチン政権のおよそ20年間で国民は、自立性や批判的な思考、反対する能力が奪われてしまっている」と強い懸念を示しました。

一方、プーチン政権は、10月、計画していた30万人の動員は完了したと発表しましたが、タバロフ氏は「これは偽の平穏だと思う。新年のあと、プーチン大統領が国民総動員と戒厳令導入に踏み切るという見方もある。プーチン政権は人々を資源として扱い人的資源の消耗戦を行おうとしている」と述べ、政権側は、戦況に応じてさらなる動員に踏み切る可能性があるという見方を示しました。