赤木俊夫さん(当時54歳)の妻の赤木雅子さんは、夫が使っていたマフラーを身に着けて判決を迎えました。
雅子さんは、「夫と一緒にいるような気分で判決に臨みました。しかし、私が知りたかったことは何も出てこなかった。なんのために裁判で2年8か月、頑張ってきたんだろうかと思えて残念でならないです。夫に報告したらどんな顔をするんだろうかと思います。夫は法律に守ってもらえなかったのに佐川さんは守ってもらえるんだと理不尽に感じました。夫は自分の意志を貫いており亡くなった夫のことを尊敬しているし、大好きです」と話しました。
そのうえで、「いまでも佐川さんは公の場で説明すべきだと思っている。夫の亡くなった理由や何があったのか知りたいし、二度とこういうことが起きてほしくないということを引き続き訴えていきたい」と述べ、控訴する考えを示しました。

財務省文書改ざん 裁判所 元局長の賠償責任認めず 原告控訴へ
財務省の決裁文書の改ざんに関与させられ自殺した近畿財務局の男性職員の妻が、「夫の死の真実が知りたい」と訴えて佐川元理財局長に賠償を求めた民事裁判で、大阪地方裁判所は元局長個人の賠償責任を否定したうえで「説明や謝罪をする法的義務もない」として訴えを退けました。
森友学園に関する財務省の決裁文書の改ざんに関与させられ、4年前に自殺した近畿財務局の職員、赤木俊夫さん(当時54歳)の妻の雅子さんは、「夫の死の真実が知りたい」と訴えて、国と佐川宣寿元理財局長に賠償を求める民事裁判を起こしました。
しかし、国との裁判は去年12月、国側が突然、請求を全面的に認める手続きをとったため、改ざんに関わった当事者への尋問が行われないまま終わり佐川元局長との裁判が続いていました。
25日の判決で、大阪地方裁判所の中尾彰裁判長は財務省が調査報告書で元局長が改ざんの方向性を決定づけたとしていることや、赤木さんが改ざんの指示に対して抵抗したことに触れました。
しかし、「職務中の行為に関する賠償責任は国が負い、公務員個人は責任を負わない」とする最高裁判所の判例に加え、すでに国が賠償を認めていることを考慮して佐川元局長個人の賠償責任を認めませんでした。
そして「賠償責任を負わない以上、元局長に道義上はともかくとして説明や謝罪すべき法的義務もない」と述べて訴えを退けました。
原告 “知りたいこと何も出ず 残念でならない” 控訴する考え
原告の代理人 “形式的な判断 真相明らかにならない”
判決後に会見を行った原告の代理人の生越照幸弁護士は「国家公務員の個人責任を認めない最高裁の判例をそのまま適用している。一般の公務員の個人責任と本件のような重大な違法性や影響があるものを形式的に同じに見ていいのか。権限のある国家公務員と国会議員が組んで、問題を起こしたとしても、誰も責任をとらず、真相も明らかにならないという前例をこれで作ってしまった」などと批判しました。
岸田首相 “財務省として説明続けてきた”

岸田総理大臣は、衆議院予算委員会で「判決について直接コメントするのは控えるが、私も裁判の過程を通じて財務省をはじめ関係者に説明責任を尽くすようにという指示は出し続けていた。財務省として説明を続けてきたものであると承知している。改めて、赤木さんのご冥福を心からお祈り申し上げたい」と述べました。
松野官房長官 “再調査を行う考えない”
松野官房長官は、午後の記者会見で「森友学園の案件では、財務省で文書改ざんや情報公開請求に対する不適切な対応などの問題について説明責任を果たすために徹底した調査を進め平成30年6月に調査結果を取りまとめ、関与した職員に対して厳正な処分を行った。すでに調査は尽きていることから再調査を行うことは考えていない」と述べました。
そのうえで「本件については、これまでも国会などで説明を行ってきた。今後も必要に応じて、しっかり説明していきたいと考えている」と述べました。
そのうえで「本件については、これまでも国会などで説明を行ってきた。今後も必要に応じて、しっかり説明していきたいと考えている」と述べました。
立民 泉代表 “国側は不誠実 残念な結果”
立憲民主党の泉代表は、記者団に対し「赤木さんの奥様が『真実を知りたい』として起こした訴訟だったが、国側が請求を全面的に受け入れる『認諾』という手続きをとって説明を果たさなかったことが大変不誠実だ。佐川氏が何を語るのかを聞きたくて裁判を続けてきたと思うので、大変残念な結果であり、今後も思いに寄り添っていきたい」と述べました。
鈴木財務相 “個別の民事訴訟 コメントする立場にない”
鈴木財務大臣は衆議院予算委員会で、「財務省として、高い倫理観を持って地道に職務に精励していた赤木俊夫さんに改めて哀悼の誠をささげる。ご遺族に対して、公務に起因して自死という結果に至ったことについて、心よりおわびを申し上げるとともに、謹んでお悔やみを申し上げる。今回は国が当事者ではない個別の民事訴訟にかかわることなので、国としてコメントする立場にないということを申し上げたい」と述べました。
共産 田村政策委員長 “再調査し国会で事実究明を”
共産党の田村政策委員長は、記者会見で「誰が指示をして、なぜ公文書の改ざんが行われたのかを知りたいという妻の雅子さんの思いは当然で、岸田政権自身の責任で明らかにすることを引き続き求めていきたい。再調査はもちろん必要だし、国会の中で事実を究明していかなければならない」と述べました。
専門家 “裁判への信頼 損なわれること懸念”
行政訴訟に詳しい日本大学の鈴木秀洋准教授は「最高裁判所の判例の枠組みから外れず、形式的にあてはめた驚きのない判断だ」と述べました。
そのうえで、「真相解明を求めて国に訴えを起こす当事者は損害賠償制度しかないからその方法で司法を頼っているのに、そうした実態を無視して、金銭面で被害を補填(ほてん)さえすれば、それ以上でも以下でもないという判断を示し続けると裁判への信頼が損なわれることが懸念される」と指摘しました。
そのうえで、「真相解明を求めて国に訴えを起こす当事者は損害賠償制度しかないからその方法で司法を頼っているのに、そうした実態を無視して、金銭面で被害を補填(ほてん)さえすれば、それ以上でも以下でもないという判断を示し続けると裁判への信頼が損なわれることが懸念される」と指摘しました。