オフィスにDJが?“社員をつなぐ”オフィス改革

オフィスにDJが?“社員をつなぐ”オフィス改革
DJブースにキッチン、芝生の上にテントまで。都内のある企業の新しいオフィスを訪ねると、その光景に驚きました。コロナ禍で定着したリモートワーク。企業の間ではいま、「オフィスに出社してほしい」という上司たちの切実な声が高まっています。コロナ禍で失われた社員どうしのコミュニケーションを取り戻したい。オフィス改革を模索する現場は。(経済部記者 櫻井亮)

キッチンのある会議室

訪ねたのはオンラインの会計ソフトを手がける都内のIT企業の新オフィス。

社内会議が行われていました。

会議室にはキッチンがありました。

新しく運用を開始したサービスについて社員たちが議論を重ねています。

すると、グループのリーダーがキッチンの冷凍庫からケーキを取り出し、ナイフで切り分け始めました。
ケーキはサプライズで用意したといい、会議は一段と盛り上がりました。

「新サービスをどう軌道にのせていくか?」

シビアな内容の議論でしたが、ケーキを食べながら有意義な議論ができたということです。

楽しく・来たくなるオフィスへ

このIT企業では8月に原則、全社員リモートワークの方針から、出社を推奨する方針に切り替えました。

リモートワークによって社内のコミュニケーションが不足し、アイデアやイノベーションが生み出しにくくなるという危機感があったからだといいます。
この方針転換にあわせて作られた新オフィスで会社が目指したのは「楽しく・来たくなるオフィス」。

キッチン付き会議室のほかにも、社員が自由に使えるDJブースやビリヤード台、気分転換をねらった芝生の上のテントなどがあります。
仕事の合間の休憩や、社員どうしのちょっとしたパーティーにも活用しています。

事前に社員にアンケートを行い、その要望に応えたということです。

オンラインでは気軽に質問できない

社員どうしのコミュニケーションの不足に対する危機感は、会社だけでなく社員の間でもあったといいます。

スマートフォン用のアプリ開発のエンジニアとして働く27歳の男性社員もリモートワークによる弊害を感じていました。
コロナ禍で担当の業務が変わったこともあり、新しい仕事に関する疑問点を仲間の社員に質問する機会が増えました。

リモートワークによるオンライン会議は、出席者のスケジュール確認に、会議開催の設定など、その準備にかかる手間がネックだったといいます。

もし隣にいればすぐに終わるちょっとした質問にも手間がかかり、ストレスを感じていたといいます。

新オフィスに毎日出社する現在は、仲間の社員に気軽に声をかけることができ、仕事の効率も上がっていると実感しています。
エンジニアの男性
「オフラインに比べたら軽い質問がしづらいとか、チャットツールに全部文字に起こして質問するの大変だなと思うとか、そういう悩みはありました。エンジニアの仕事は一見、個人作業が多いというイメージもあると思うのですが、結構いろんな人と話し合いながら仕事を進めることが多いので、仕事のスムーズさは、格段に上がった気がします」

自発的な出社 8割近くにも

出社とリモートワークを社員自身が自由に選択できる日でも、自発的に出社する社員が全体の8割近くにのぼっているといいます。

会社では特に部署を超えたコミュニケーションが活発になっているとみています。
freee オフィス改革担当 辻本祐佳CCO
「リモートワークによるコミュニケーションの不足で、いままでにやったことがないことをやろうと言い出しにくい環境になっていたことに企業としての課題を感じていました。新しいオフィスで部署を超えて交流が行われることで、課題や方針が共有され、よりよいプロダクトを生みだしていけると考えています」

技術でコミュニケーション不足解消へ

リモートワークを維持しながら新しい技術で社員どうしのコミュニケーションを深めようという取り組みを行う企業もあります。

大手オフィス家具メーカーが都内のロボットメーカーと共同で開発を進めているリモートワーク用のロボットです。
タブレット端末を使い簡単に操作できるこのロボット。

足元には車輪が取り付けられ、オフィスのなかを自律走行で移動できます。

リモートワークで自宅にいる社員と、オフィスにいる社員がビデオ通話を行う機能持つロボットですが、対面での会話に近づけようと、モニターの高さを調節する機能を持たせて目線をあわせることができる徹底ぶりです。

ロボットが自分のかわりにオフィスを歩き回って、いろいろな社員とコミュニケーションを行う使い方を想定しています。

さらに、ロボットとは別に離れたオフィスどうしをつなぐ技術も取り入れています。

この大型モニターに映し出されているのは、およそ500キロ離れた大阪にあるオフィスの様子です。
勤務時間中は常時接続されている大型モニターには、カメラとマイクが備えられ、マイクは画面に近づいて話をしなくても、移動せずに自分の席などでつぶやく程度の声を拾うことができる高い性能があります。

オフィス内のざわざわした雑音もあえて拾うことで、同じ空間で働いている感覚になるといいます。

コロナ禍前は社員どうしの出張が頻繁に行われていましたが、いまは移動時間が不要となるリモートワークの強みと新しい技術によって、コロナ禍以前よりもコミュニケーションを深めようとしています。

この会社では自社のオフィスで実際に使用して効果を確かめたうえで、オフィス改革を検討している顧客にもこれらのシステムを提供していきたいとしています。
コクヨ マーケティング本部 小川剛グループリーダー
「社会状況の変化に合わせて働き方であったりというのは変わっていくと思います。その働き方を支えるのが働く場所になってくるので、オンラインでも働ける、オフィスでも働ける、別の場所でも働けるという状態をつくることがいいのではないでしょうか」

未来のオフィスはリアルとバーチャルの融合?

VRやARといった仮想空間も、オフィスを進化させようとしています。

大手設計事務所が開発を進めているのが仮想空間でリモートワークを行えるシステムです。
ゴーグル越しに見える仮想空間は現実のオフィスと同じ間取りで、いまオフィスにいる人がアバターとして出現します。
一方、オフィスにいる人のゴーグルには、リモートワークをしている人のアバターがオフィスの中にいるように見え、ゴーグルを介して身ぶり手ぶりを交えて会話できます。

リアルとバーチャルを融合させ、同じ場所で働いている感覚を実現しようとしています。

数年後の実用化を目指しています。
日建設計 デジタルソリューションラボ 光田祐介さん
「薄まってしまったコミュニケーションをテクノロジーでなんとかしたいと開発を進めています。ゴーグルが重いなど現状では課題も多いが、近い将来は仮想空間と現実空間を融合した新しい職場が現実になると思っています」

ハイブリッドな働き方 企業が率先して環境整備を

働き方に詳しい専門家は、出社とリモートワーク、双方のメリットをいかしながら仕事を進めることができる環境づくりが重要だと指摘しています。
第一生命経済研究所 稲垣円 主任研究員
「出社する人とリアルに対話することの価値がテレワークの普及でより一層鮮明になった側面があります。一方で、働く側にとっては通勤時間の削減や自分の時間が持てるようになるなど、テレワークを続けるメリットも非常に大きいです。テレワークと出社。互いをハイブリッドでうまく進められるような環境整備を企業が率先して推進していく、支援していく必要があるのではないかと思います」
定着したリモートワークを続けるのか、それともオフィスへの出社に戻すのか。

世の中ではいまその賛否を二分する議論が目立っています。

仕事の成果を生み出しやすくするコミュニケーションの重要性が再認識され、オフィスへの出社のメリットは確かにあります。

その一方で、有効に時間を使ってプライベートも充実させる働き方が定着しつつあるいま、コロナ禍以前の働き方にそのまま戻ることは違う気がします。

会社側が二者択一でどちらかを選ぶのではなく、新たな工夫や技術を活用してその両方のメリットを享受しようという取り組みがさらに広がってほしい。

今回取材したさまざまな現場で、働く人たちの声を聞きながらそう実感しました。
経済部記者
櫻井亮
2012年入局
宇都宮局を経て経済部
企業の働き方改革を取材