「オウム真理教」など過去2件の解散命令請求 記録すべて廃棄

宗教法人法に基づき裁判所に「オウム真理教」と「明覚寺」の解散命令請求が行われた際の証拠などの記録がすべて廃棄されていたことがわかりました。

行政機関の請求を受けて裁判所が「法令に違反し、著しく公共の福祉を害する」として宗教法人に解散命令を出したのは過去にこの2件しかなく、廃棄の判断が適切だったか問われることにそうです。

宗教法人の「解散命令」は行政機関などの請求を受けて裁判所が判断することになっています。

過去に行政機関からの請求に基づき「法令に違反し、著しく公共の福祉を害する行為をした」という理由で解散命令を受けたのは、地下鉄サリン事件などを起こした「オウム真理教」と、和歌山県に本部があり教団幹部などが詐欺事件で有罪判決を受けた「明覚寺」の2件に限られています。

この2件について、裁判所の手続きで双方が提出した証拠や主張に関する書類などの記録はそれぞれ東京地方裁判所と和歌山地方裁判所で保存されていましたが、これまでにすべて廃棄されていたことがわかりました。

最高裁判所の規程では、解散命令請求を含む民事手続きの記録の保存期間は終了してから5年間ですが、社会の耳目を集めた事件などは「特別保存」に指定し、永久的に保存することになっています。

それぞれの裁判所によりますと、いずれも「特別保存」には指定されておらず、オウム真理教の記録は確定から10年後の2006年3月8日に廃棄され、明覚寺の記録も時期は不明ですがすでに廃棄されたということです。

宗教法人の解散命令をめぐっては、文部科学省が旧統一教会に対して宗教法人法に基づく「質問権」を行使していて、解散命令に該当しうる事実関係を把握した場合、裁判所への請求を検討するとしています。

過去にほとんど例がない手続きの記録がいずれも廃棄されていたことについて、判断が適切だったか問われることにそうです。

裁判所では少年事件の記録も各地で廃棄されていたことが相次いで明らかになっています。

東京地裁「適切な運用がされていたとは言いがたい状況にあった」

東京地方裁判所によりますと、3年前(2019年)、重要な憲法判断が示された裁判などの記録が多数廃棄されていたことが明らかになり、この問題をきっかけに保存状況を調査する過程で、オウム真理教の解散命令請求に関する記録が2006年3月に廃棄されたことを把握したということです。

東京地裁は「当時は『特別保存』を適切に行うための仕組みが整備されておらず、適切な運用がされていたとは言いがたい状況にあった」として、2020年に『特別保存』に関する新たな基準をまとめたと説明しています。

東京地裁の平木正洋所長は「記録などの廃棄の事案に関する今後の方針については、最高裁判所における有識者の意見を踏まえた検討の帰すうを踏まえて対応したい」とコメントしています。

裁判記録の保存に詳しい江川紹子氏「影響はかりしれない」

裁判記録の保存に詳しいジャーナリストの江川紹子さんは例が少ない解散命令請求に関する記録が廃棄されていたことについて、「過去のケースでどのような証拠や書面が出されて、解散命令の決定につながったか調べたり検証したりすることができなくなり、影響ははかりしれない。旧統一教会の関連で質問権の行使が始まっているが、過去の積み上げがない中でまっさらな状態で検討を進めていくしかないのではないか」と話しています。

そのうえで「裁判所は『歴史的な資料を取っておかないといけない』という感覚が無い。『一定期間が過ぎたら廃棄する』ではなく、捨てるときにチェックするように考え方を変える必要がある」と指摘しています。