【QAで】新型コロナ 塩野義飲み薬「ゾコーバ」効果や特長は?

新型コロナウイルスの新たな飲み薬「ゾコーバ」について、厚生労働省は使用を承認しました。

重症化リスクが低い患者も軽症の段階から服用できるのが特長の治療薬で、国内の製薬会社が開発した初めての飲み薬となります。

どんな薬なの?効果は?
QA方式でまとめました。

Q.「ゾコーバ」とは?

使用が承認されたのは塩野義製薬が開発した新型コロナウイルスの飲み薬「ゾコーバ」です。

軽症の段階から服用できる新型コロナウイルスの飲み薬で、重症化するリスクが高い患者を対象にしていたこれまでの薬と違い、重症化リスクの低い患者でも服用できるのが特長です。

これまで新型コロナの治療薬として承認されたのは飲み薬や点滴など9種類で、軽症・中等症の患者に使える薬もありましたが、糖尿病やさまざまな呼吸器疾患、肥満など重症化リスクのある人に限られていました。重症化リスクの低い人に対する治験は行われていなかった上、供給量も限られていました。

「ゾコーバ」は、いわばインフルエンザの「タミフル」のように広く使えるイメージの飲み薬で、12歳以上なら重症化リスクが低い人でも使えるということです。

22日に開かれた厚生労働省の専門家会議では、発熱などの症状を改善する効果が認められたことなどから「有効性が推定される」と評価し、使用を認めることを了承しました。

国内の製薬会社が開発した初めての飲み薬でもあり、医療機関などへの安定した供給につながることも期待されています。

Q.薬の効果は?

「ゾコーバ」について、塩野義製薬はことし9月下旬、最終段階の治験で発熱などの症状が出る期間が短くなり、症状を改善する効果が確認されたと発表しました。

治験は、日本など3か国でことし2月から7月中旬にかけて重症化リスクがない人やワクチンを接種した人を含めた、12歳から60代までの軽症から中等症のコロナ患者1821人を対象に行われたものです。
発症から3日以内に服用を開始したグループでは、オミクロン株に特徴的なせきや喉の痛み、鼻水・鼻づまり、けん怠感、発熱・熱っぽさの5つの症状すべてが7日前後でなくなり、症状が出ていた期間が約24時間短縮されたということです。

Q.どんなふうに作用する薬?

新型コロナウイルスは感染すると細胞内に侵入し、ウイルスそのもののRNAをコピーして増えていきますが、新たな薬「ゾコーバ」はコピーの準備段階で働く酵素を機能しなくすることでウイルスの増殖を抑えます。

薬が働くこうした仕組みは、すでに新型コロナウイルスの薬として承認されているアメリカの製薬大手ファイザーが開発した飲み薬「パキロビッドパック」と同様となっています。

Q.副作用は?

治験では投与は1日1回、5日間行われましたが、4日目の段階でウイルスの量が30分の1程度に減り、重篤な副作用はなかったとしています。

さらに、実験では現在、主流となっているオミクロン株の「BA.5」を含む変異ウイルスに対しても高い効果を示したとしています。

一方で、動物実験では胎児に影響があったことから、妊娠中や妊娠の可能性のある女性は服用できません。また慢性の病気の治療で薬を服用している場合などほかの薬との飲み合わせによっては副作用が出るおそれもあるので、適切に注意喚起を行うとしています。

Q.使えるのはいつから?

「ゾコーバ」について、厚生労働省は塩野義製薬と100万人分を購入する契約を締結していて、12月はじめごろには医療現場で使用できるよう、流通システムができしだい、供給を開始するとしています。

また妊娠中の女性などは使用が禁止されていることや、複数の医薬品が併用禁止になっていることから、最初の2週間程度は、安全対策として、薬が働く仕組みが同様のアメリカの製薬大手ファイザーが開発した飲み薬、「パキロビッドパック」を処方した実績のある医療機関や薬局に限定する予定です。

その後は特段の要件は設けず、各都道府県が選定した医療機関での処方や薬局での調剤ができる体制を整えたうえで、処方可能な医療機関については、都道府県などのウェブサイトで公開するとしています。

Q.「ゾコーバ」承認で必要な対策は変わる?

新型コロナの感染拡大が始まって3年近くになりますが、鍵を握る対策として早い段階から挙げられていたのが「ワクチン」、そして「治療薬」でした。
   
ワクチンは広く使用されるようになりましたが、大事なのは感染しても重症化しないことです。感染後、早い段階で使える薬があると重症化する人を減らすことができます。

治療薬として比較的使用しやすいとされる「飲み薬」が加わることは、コロナが排除できない中で暮らしていくためには重要なことです。

一方で、「ワクチン」と「使いやすい治療薬」の両方が使えるようになっても、感染して重症化するケースはあり得るので、引き続き場面に応じて適切にマスクを使うことや、密を避けることといった感染対策、それにワクチンの接種が重要だと専門家は指摘しています。

Q.新型コロナの治療に詳しい専門家は

新型コロナの治療に詳しい愛知医科大学の森島恒雄客員教授は「新型コロナに感染して、軽症で済むか症状が重くなるか分からないなかで、重症化リスクがない人にも投与できる薬は医療現場で望まれてきた」と話しています。

また薬の効果については、「治験ではせきや発熱などの症状の改善を1日早める効果があるという結果だったが、インフルエンザの治療薬も同じ程度で十分な効果があると考えられ、ウイルス量も減ることで重症化を防ぐことも期待できる。重症者リスクが高い人が多い介護施設や病院などで感染者が出たときに使えば、症状の悪化や感染拡大を抑えられ、職場の機能不全も防げるのではないか」

そして今後の課題としては、「この薬は発症から3日以内に服用すると効果が大きくなるとされているので、より早く診断し、より早く薬を届ける体制を国や自治体が早急に整えることが重要だ。この薬が広く使われるようになったときに予期しないような重い副作用が出ないかや、耐性を持つウイルスが出ないか監視を続けることが必要だ。また、今後は重症化や死亡のリスクが結局どの程度抑えられるのか、データが提供されることがはっきりとデータで示されることも必要だ」

Q.承認までの道のりは?

「ゾコーバ」をめぐっては、塩野義製薬がことし2月に厚生労働省に承認を申請してから専門家会議で2度の審査が行われましたが、いずれも有効性についての判断が見送られ、今回が3度目の審議となりました。

製薬会社が開発した治療薬やワクチンなどの使用を認める「薬事承認」の手続きでは、通常、申請から承認までおよそ1年ほどかけて審査が行われ、時間を要することからワクチンの承認が海外より遅れた要因のひとつと指摘されていました。

これを受けてことし5月、感染症の流行時などの「緊急時」で「代わりの手段がないこと」を条件に国内外で開発されたワクチンや治療薬などを迅速に承認するための「緊急承認」の制度が新たに設けられました。

「ゾコーバ」も「緊急承認」の枠組みで審査されることとなり、6月に専門家会議で最初の審議が行われましたが、有効性などについて慎重に議論を重ねる必要があるとして判断が見送られました。

1か月後の7月に開かれた2回目の会議でも「有効性が推定されるという判断はできない」などとして再び判断が見送られ、継続審議となっていました。

こうした中、医療機関がひっ迫した”第7波”を踏まえ、9月に日本感染症学会などが重症化リスクが低い患者も服用できる飲み薬が必要だとして早期の承認を求める提言を厚生労働省に提出していました。

Q.緊急承認制度の運用 専門家は

今回の審査について、薬事制度に詳しい東京大学の小野俊介准教授は「緊急承認制度のもと、有効性や安全性のどこまで示されればよいのかが委員や審査当局の間で共有されず、議論が混乱していたような印象を受けた。その結果、委員からの意見が保守的で細かくなり、ほぼ通常と同じような審査の形になっていた」と述べ、制度の運用にあたって「承認を迅速に行うこと」と「薬の有効性や安全性の確認」の両立が改めて課題になったと指摘しました。

その上で次のように指摘しました。
「国は、臨床試験で有効性が最低限、どの程度示されれば承認できるのか、具体的なラインを示すなど、制度の透明化や負担を減らすことといった改善をはからないと、絵に描いた餅のような制度になってしまうのではないか」