防衛費増額の財源 “増税含めた国民負担必要” 有識者会議

防衛力強化のための政府の有識者会議は、22日報告書をまとめました。
防衛費増額の財源として「幅広い税目」による増税を含めた国民負担が必要だとしたほか、自衛隊の「反撃能力」の保有が不可欠だとして、できるかぎり早期に十分な数のミサイルを配備するよう求めています。

防衛力の抜本的な強化を検討してきた有識者会議は22日、報告書をまとめ、座長を務める元アメリカ大使の佐々江賢一郎氏が岸田総理大臣に手渡しました。

報告書では、防衛費の増額にあたっては歳出改革を徹底し、国債の発行が前提となってはならないとしたうえで、「幅広い税目による負担が必要なことを明確にして理解を得る努力を行うべきだ」として財源を確保するために増税を含めた国民負担が必要だとしています。

また、従来の防衛省や海上保安庁の予算を補うものとして、▽研究開発、▽公共インフラ、▽国際的協力、▽サイバー安全保障の4つの分野を総合的な防衛体制の強化に資する経費として計上し、概算要求で特別な要望枠を設置するなど大胆な措置を講じるよう求めています。

“早期に十分な数のミサイル配備を”

一方、相手のミサイル発射基地などをたたく「反撃能力」の保有は不可欠だとして、相手の射程圏外から攻撃できる国産の「スタンド・オフ・ミサイル」や外国製ミサイルによって今後5年を念頭にできるかぎり早期に十分な数のミサイル配備を求めています。

また、有事に備えて、自衛隊が沖縄県の先島諸島など南西諸島にある港湾や空港をふだんから活用できるよう地元の協力を得ながらルールづくりに取り組むことを求めています。

このほか、防衛装備品のさらなる移転を進めるため「防衛装備移転三原則」とその運用指針を見直すよう求めています。

岸田総理大臣は「これから与党ともしっかり調整しながら検討を進めていきたい。今回の報告書が議論において重要なアドバイスを与えてくれるものと確信している」と述べました。

岸田首相「調整を加速 与党と連携」

有識者会議から報告書の提出を受け、総理大臣官邸では政府与党政策懇談会が開かれ、報告書の内容が説明されました。

岸田総理大臣は「わが国周辺の安全保障環境が急速に厳しさを増す中、領土、領海、領空を断固として守り抜くため、抑止力と対処力を強化することは政府・与党の最優先の使命だ。政府においてもNSC=国家安全保障会議での議論や有識者会議の報告書などを踏まえつつ関係大臣間で調整を加速していく」と述べました。

そのうえで「年末までに必要となる防衛力の内容の検討、そのための予算規模の把握や財源の確保について一体的かつ強力に検討を進め、結論を出す必要があり、引き続き与党とよく連携していきたい」と述べました。

木原官房副長官「与党とよく連携しながら精力的に検討」

木原官房副長官は、記者会見で「年末までに、わが国の防衛力を抜本的に強化するために必要な防衛力の内容の検討、そのための予算規模の把握、さらに財源の確保について一体的かつ強力に検討を進めて結論を出す必要がある。報告書を踏まえつつ与党とよく連携しながら精力的に検討を深めていきたい」と述べました。

鈴木財務相 “増税も含めて検討すべき”

鈴木財務大臣は閣議のあとの記者会見で、政府の有識者会議が防衛力強化のための報告書をまとめたことに関連して、防衛力の整備には恒久的な財源が必要だという認識を示しました。

そのうえで、鈴木大臣は「これまでの有識者会議でも、歳出改革を継続することを前提に財源措置を検討し、なお不足する財源については、税制上の措置も含め、多角的に検討する必要があることなどを申し上げ、おおかたの理解をいただいた」と述べ、歳出削減だけで財源を確保できない場合、増税も含めて検討すべきだという考えを改めて示しました。

そして、鈴木大臣は「具体的内容については、与党と連携して有識者会議の提言も踏まえながら防衛力強化の内容や規模とともに一体的に検討したい」と述べ、今後、財源確保に向けた議論を本格化させる考えを示しました。

自民 茂木幹事長「与党で議論深める」

自民党の茂木幹事長は、記者会見で「日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増しており、防衛力の抜本的強化は喫緊の課題だ。防衛費は、将来にわたって安定的に必要となる性格のものであり、まず歳出改革による財源捻出を検討するが、足らざる部分については、国民全体でどう負担するか検討を深めていく必要がある。報告書の内容も踏まえて、与党として来年度の予算編成や税制改正で防衛力強化に向けた議論を深めていきたい」と述べました。

自民 世耕参院幹事長“税収増の一部充て対応でいいのでは”

自民党の世耕参議院幹事長は、記者会見で「本当に実効ある防衛を実現するためには、敵基地を攻撃する能力は不可欠だ。防衛費増額のために何らかの形で国民に負担をお願いすることになると思うが、来年度は今のところ3兆円くらい税収が増える見込みで、その一部を充てれば国債を増発する必要もない。当面はそれで対応しながら、しっかりと国民の理解を得る時間に充てればいいのではないか」と述べました。

維新 藤田幹事長“簡単に増税の姿勢には賛同できず”

日本維新の会の藤田幹事長は、記者会見で「『反撃能力』をしっかり保持していくことや、防衛力強化のための防衛費の増額は、現下の安全保障環境を考えれば当然のことだ。ただ、経済が非常に不安定な中で、簡単に増税したほうがよいという姿勢には賛同できない」と述べました。

公明 山口代表「国民に届くように議論」

公明党の山口代表は、政府与党政策懇談会のあと記者団に対し「懇談会では、公明党から『これまでの防衛政策を大きく転換することになり、役所の議論よりも政治の議論が大事だ。与党で透明性のある議論を行い、合意をつくっていくことが大事だ』などと指摘した」と述べました。

そのうえで「報告書はあくまで有識者の考え方であり、これからの与党の議論の一材料との受け止めだ。多岐にわたる論点が提示されているので、国民に届くように議論することが重要だ」と述べました。

公明 佐藤国対委員長「報告書には全く合わない部分も」

防衛力の強化に向けて議論を続けている自民・公明両党の作業チームで、公明党側の座長を務める佐藤国会対策委員長は、記者団に対し「報告書には、公明党の考え方と全く合わない部分も含まれていた。今後の議論の材料ということなので、政府の集めた有識者はこういう方向の意見なんだと頭の中に入れながら、与党間の議論をこれからもしっかりと積み重ねていく」と述べました。

共産 小池書記局長「議論 直ちに中止を求めたい」

共産党の小池書記局長は、記者会見で「憲法9条を基本にしてきた戦後日本の在り方を根本から転換して軍事国家づくりを目指すものだ。防衛費の増額には、幅広い税目による国民負担という中身もあり、国民の暮らしをさらに追い詰め、消費の減退と景気の後退を招くのは明らかだ。憲法違反の敵基地攻撃能力の保有と、国民生活を壊すような軍事費倍増の議論を直ちに中止することを求めたい」と述べました。

《有識者会議報告書の詳細》

防衛力強化のための政府の有識者会議がまとめた報告書の詳しい内容です。

【防衛費増額の財源】
防衛費増額の財源については歳出改革を優先的に検討するとして、独立行政法人の積立金の早期返納などの必要性を指摘しています。

国債の発行が前提となってはならないとしたうえで、「幅広い税目による負担が必要なことを明確にして理解を得る努力を行うべきだ」として、増税を含めた国民負担が必要だとしています。

【反撃能力】
弾道ミサイルを相次いで発射している北朝鮮などを念頭に、相手のミサイル発射基地などをたたく「反撃能力」の保有が不可欠だとしています。

そして相手の射程圏外から攻撃できる国産の「スタンド・オフ・ミサイル」や外国製ミサイルの購入によって今後5年を念頭にできるかぎり早期に十分な数のミサイルを配備するよう求めています。

【防衛産業・装備移転】
防衛装備品のさらなる移転を進めるため「防衛装備移転三原則」とその運用指針を見直し、防衛産業を持続可能なものにしなければならないとしています。

【海保の増強、海自との連携】
海上保安庁の体制を大幅に強化するとともに、有事の際の防衛大臣による統制や自衛隊との連携も極めて重要な課題だと指摘しています。

【4経費と予算特別枠】
従来の防衛省や海上保安庁の予算を補うものとして研究開発、公共インフラ、国際的協力、サイバー安全保障の4つの分野を総合的な防衛体制の強化に資する経費として計上し、概算要求で特別な要望枠を設けるなど大胆な措置を講じるとしています。

【公共インフラ】
有事に備えて、自衛隊が沖縄県の先島諸島など南西諸島にある港湾や空港をふだんから活用できるよう地元の協力を得ながらルールづくりに取り組むよう求めています。

【サイバー安全保障】
サイバー攻撃に対して被害を受けてから対処するのではなく、未然に防ぐために「能動的なサイバー防衛」が必要だとしたうえで、政府内で一元的に指揮する体制を構築するとしています。

【継戦能力・統合司令官】
自衛隊が組織的な戦いを継続する「継戦能力」を高めるため、弾薬などを着実に確保していくほか、部隊指揮に専念するポストとして新たに統合司令官を設置することを早急に検討する必要があるとしています。