森保一監督×中村憲剛さん対談 ワールドカップベスト8への道

サッカーのワールドカップカタール大会が11月20日に開幕した。世界の強豪32チームが参加する大会で、日本代表が目指すのは史上初のベスト8だ。
日本は1次リーグで優勝経験のあるドイツとスペインという世界屈指の強豪と同じグループに入る。このグループで2位以内に入らなければ決勝トーナメントに進むことはできず、その夢はついえてしまう。
この厳しい戦いをどうすれば勝ち抜けるのか。
NHKはことし4月から10月にかけて、元日本代表の中村憲剛さんを聞き手に、森保一監督へのロングインタビューを3回実施し、その道筋を探った。
すると初戦の相手、ドイツをはじめとする世界に対抗するためのすべが見えてきた。
日本は1次リーグで優勝経験のあるドイツとスペインという世界屈指の強豪と同じグループに入る。このグループで2位以内に入らなければ決勝トーナメントに進むことはできず、その夢はついえてしまう。
この厳しい戦いをどうすれば勝ち抜けるのか。
NHKはことし4月から10月にかけて、元日本代表の中村憲剛さんを聞き手に、森保一監督へのロングインタビューを3回実施し、その道筋を探った。
すると初戦の相手、ドイツをはじめとする世界に対抗するためのすべが見えてきた。
【最新情報はこちら】日本代表 第1戦 対ドイツ

「日本のスタイル」とは?

日本代表の森保一監督と中村憲剛さんとの最初の対談は4月下旬。
史上初のベスト8をつかみとるため、強豪を相手にどう戦うのか。
具体的な戦術について尋ねる前に、中村さんにはどうしても聞きたいことがあった。
史上初のベスト8をつかみとるため、強豪を相手にどう戦うのか。
具体的な戦術について尋ねる前に、中村さんにはどうしても聞きたいことがあった。

中村憲剛さん
「日本代表のスタイルが、4年に1回、監督が代わるたびに変わるというのを自分が現役のときからすごく感じていた。日本のスタイルというものに対しての森保監督の考えはどういうものか?」
「日本代表のスタイルが、4年に1回、監督が代わるたびに変わるというのを自分が現役のときからすごく感じていた。日本のスタイルというものに対しての森保監督の考えはどういうものか?」

森保監督
「まず日本代表、日本のプレーモデルはもっと確立されてもいい。『日本のサッカーがこれだ』というのを少しでも多くの人に共感してもらいたい。これは将来的に、極論を言うと、私が監督やっても、憲剛さんが監督やっても、他の誰かが監督をやっても、日本代表の戦い方のベースは変わらない。その監督の性格だったり、持ってる力量であったりで、プラスアルファの力をチームに与えられるようになっていくといい」
「まず日本代表、日本のプレーモデルはもっと確立されてもいい。『日本のサッカーがこれだ』というのを少しでも多くの人に共感してもらいたい。これは将来的に、極論を言うと、私が監督やっても、憲剛さんが監督やっても、他の誰かが監督をやっても、日本代表の戦い方のベースは変わらない。その監督の性格だったり、持ってる力量であったりで、プラスアルファの力をチームに与えられるようになっていくといい」
中村さんの質問から明らかになった森保監督の思い。
日本独自のスタイルを構築することが、世界の強豪に勝つ上で重要になると考えていたのだ。
日本独自のスタイルを構築することが、世界の強豪に勝つ上で重要になると考えていたのだ。

森保監督がこうした思いを強くしたのは去年夏の東京オリンピックだったという。この大会で、日本は準決勝でスペインに延長戦の末、競り負けた。
スペインのスタイルは高い技術を駆使して圧倒的にボールを保持し、細かくパスでつないでいくサッカーだ。
そして、それは苦しい時でも貫かれていた。
スペインのスタイルは高い技術を駆使して圧倒的にボールを保持し、細かくパスでつないでいくサッカーだ。
そして、それは苦しい時でも貫かれていた。

森保監督
「今回対戦するスペインとかドイツとか、ワールドカップ優勝を経験したチームは自国のサッカーのプレーモデルを持っている。去年の東京オリンピックでスペインと対戦した時もすごくそれは感じた。スペインのサッカーのプレーモデルという大きな目標があって、その中で4年ごとにやっていることを見直してブラッシュアップしていく。スペインが目指すサッカーのベースは変わらず、監督が持っているものを上乗せし、選手の個性をそこに付け加えるというサッカーをしているというのは感じた」
「今回対戦するスペインとかドイツとか、ワールドカップ優勝を経験したチームは自国のサッカーのプレーモデルを持っている。去年の東京オリンピックでスペインと対戦した時もすごくそれは感じた。スペインのサッカーのプレーモデルという大きな目標があって、その中で4年ごとにやっていることを見直してブラッシュアップしていく。スペインが目指すサッカーのベースは変わらず、監督が持っているものを上乗せし、選手の個性をそこに付け加えるというサッカーをしているというのは感じた」
初戦の相手 ドイツのスタイルは

スペインだけではなく、1次リーグ初戦の相手、ドイツも固有のスタイルを持っている。
優勝4回を数える世界トップクラスの強豪のサッカーを象徴するのが「ゲーゲンプレス」だ。
相手にボールが渡った瞬間、ボールを持った選手に複数で襲いかかり、5秒以内に奪い返す戦術だ。「即時奪回」とも言われる。
相手が前掛かりになった瞬間を集中してねらうことで強力なカウンター攻撃が可能になる。
優勝4回を数える世界トップクラスの強豪のサッカーを象徴するのが「ゲーゲンプレス」だ。
相手にボールが渡った瞬間、ボールを持った選手に複数で襲いかかり、5秒以内に奪い返す戦術だ。「即時奪回」とも言われる。
相手が前掛かりになった瞬間を集中してねらうことで強力なカウンター攻撃が可能になる。
“主体的に戦えるチームに”
では、森保監督が目指す「日本のスタイル」とはいったい何なのか。
それは「強豪相手でも受け身にならず、自分たちの意思を持って主体的に戦えるチーム」だという。
それは「強豪相手でも受け身にならず、自分たちの意思を持って主体的に戦えるチーム」だという。

その理念を具現化するための指針がかいま見えたのが6月に行われた世界ランキング1位・ブラジルとの強化試合だった。
まずチャレンジしていたのが「ハイプレス」と呼ばれる守備の戦術だ。
前線の選手が相手ゴールに近い、高い位置から積極的にボールを奪いに行く。相手の攻撃に耐える守備ではなく、自分たちから仕掛けにいく守備だ。高い位置でボールを奪うことができれば、相手の態勢が整わないうちに、攻め込むことも可能になる。
まずチャレンジしていたのが「ハイプレス」と呼ばれる守備の戦術だ。
前線の選手が相手ゴールに近い、高い位置から積極的にボールを奪いに行く。相手の攻撃に耐える守備ではなく、自分たちから仕掛けにいく守備だ。高い位置でボールを奪うことができれば、相手の態勢が整わないうちに、攻め込むことも可能になる。

もう1つ。攻撃で試していたのが「ビルドアップ」だ。
後方から短いパスをつなぎ、相手陣内にボールを運ぶ。手堅くボールをキープしながら攻め込む戦術だ。選手が密集し、ミスが起きそうな場面でも徹底的にこだわり、繰り返し挑戦していた。
後方から短いパスをつなぎ、相手陣内にボールを運ぶ。手堅くボールをキープしながら攻め込む戦術だ。選手が密集し、ミスが起きそうな場面でも徹底的にこだわり、繰り返し挑戦していた。
「ハイプレス」と「ビルドアップ」への挑戦

なぜ日本は「ハイプレス」と「ビルドアップ」にチャレンジしているのか。
9月中旬に行われた2回目の対談で中村さんが森保監督を直撃した。
9月中旬に行われた2回目の対談で中村さんが森保監督を直撃した。
中村憲剛さん
「ワールドカップへ向けて日本の戦い方、考え方、ともに自分たちが主体的に積極的に戦いたいと言っていたが、その意図は?」
「ワールドカップへ向けて日本の戦い方、考え方、ともに自分たちが主体的に積極的に戦いたいと言っていたが、その意図は?」
森保監督
「主体的にというと、ボールを握って相手を圧倒する、上回っていくということだけをイメージされるかもしれないが、世界の舞台で相手を圧倒する戦いがどれだけできるかといえば、簡単なことではない。守勢になったとしても、自分たちがその状況で何ができるかを選択し、決断して戦うということ、苦しい戦いになったとしても自分たちが崩れることなく主体的に考えて戦うということは、やっていきたい」
「主体的にというと、ボールを握って相手を圧倒する、上回っていくということだけをイメージされるかもしれないが、世界の舞台で相手を圧倒する戦いがどれだけできるかといえば、簡単なことではない。守勢になったとしても、自分たちがその状況で何ができるかを選択し、決断して戦うということ、苦しい戦いになったとしても自分たちが崩れることなく主体的に考えて戦うということは、やっていきたい」
森保監督は日本が自分たちの意思を持って戦うためにハイプレスを採用したと語った。
そして、ビルドアップ。
中村さんには、気になっていたことがあった。ビルドアップは相手陣内にボールを運ぶ途中で奪われるリスクを伴う。
一方、そのリスクを回避するのが、「ロングボール」だ。そうすればプレッシャーが激しくなる中盤を飛び越すことができる。それでもロングボールを蹴らず、ビルドアップにこだわった理由は何なのか。
中村さんが尋ねた。
そして、ビルドアップ。
中村さんには、気になっていたことがあった。ビルドアップは相手陣内にボールを運ぶ途中で奪われるリスクを伴う。
一方、そのリスクを回避するのが、「ロングボール」だ。そうすればプレッシャーが激しくなる中盤を飛び越すことができる。それでもロングボールを蹴らず、ビルドアップにこだわった理由は何なのか。
中村さんが尋ねた。

中村憲剛さん
「あそこまでロングボールをなかなか蹴らないということはこれまでなかった。森保監督からの指示があったと思うが?」
「あそこまでロングボールをなかなか蹴らないということはこれまでなかった。森保監督からの指示があったと思うが?」

森保監督
「単純にロングボールを蹴ってもチャンスになることは確率的に低いと思うし、相手に回収されれば、次に何が起こるかというと、われわれは守備で振り回されることになってしまう」
「単純にロングボールを蹴ってもチャンスになることは確率的に低いと思うし、相手に回収されれば、次に何が起こるかというと、われわれは守備で振り回されることになってしまう」
森保監督が指摘したのは、ロングボールの欠点だった。
落下点で競り合いに勝たなければ相手にボールを奪われ、攻撃を受ける。
落下点で競り合いに勝たなければ相手にボールを奪われ、攻撃を受ける。
森保監督
「守備で振り回されるとどうなるかというと無駄な体力ロスが出て、また攻撃に移る体力が保てないことであったり、バランスも悪くなって結局は押し込まれて疲弊して最後にやられてしまう。過去の日本がやられた試合でも出てきているところだと思うので選手たちにビルドアップにチャレンジしてほしいと考えた」
「守備で振り回されるとどうなるかというと無駄な体力ロスが出て、また攻撃に移る体力が保てないことであったり、バランスも悪くなって結局は押し込まれて疲弊して最後にやられてしまう。過去の日本がやられた試合でも出てきているところだと思うので選手たちにビルドアップにチャレンジしてほしいと考えた」
こう語った、森保監督の脳裏にあるのは4年前の苦い経験だ。コーチとして帯同した前回、ロシア大会のベルギー戦。

強豪相手に後半20分すぎまで2点をリードしながら立て続けに3失点して逆転負け。悲願のベスト8を逃した。
「守り続けても結局、疲弊して最後にやられてしまう」。
ベルギー戦を教訓に、世界の強豪相手でも終盤に息切れせず、渡り合える戦い方を探り続けてきた。そのために不可欠だと考えたのが「ハイプレス」と「ビルドアップ」だったのだ。
「守り続けても結局、疲弊して最後にやられてしまう」。
ベルギー戦を教訓に、世界の強豪相手でも終盤に息切れせず、渡り合える戦い方を探り続けてきた。そのために不可欠だと考えたのが「ハイプレス」と「ビルドアップ」だったのだ。
チームで“同じ絵を描く”

ハイプレスとビルドアップの精度を高めていくために必要なことは何か。
変化があったのが、9月に行われた1週間あまりのドイツ遠征だった。
変化があったのが、9月に行われた1週間あまりのドイツ遠征だった。

選手やスタッフがこれまで以上に戦術の細部まで話し合い、意識の共有を図ったことで日本のハイプレスとビルドアップのレベルを引き上げた。
それを示したのが9月の強化試合、アメリカ戦。世界ランキングでは日本より格上の相手だ。
前線の選手が相手のゴール近くでプレッシャーをかけ相手にサイドへボールを出させる。さらに、サイドにも次々とプレッシャーをかける。再び中央へ戻させたパスを出させてボールを奪い取った。チーム全体で「同じ絵」を描くことができた。
それを示したのが9月の強化試合、アメリカ戦。世界ランキングでは日本より格上の相手だ。
前線の選手が相手のゴール近くでプレッシャーをかけ相手にサイドへボールを出させる。さらに、サイドにも次々とプレッシャーをかける。再び中央へ戻させたパスを出させてボールを奪い取った。チーム全体で「同じ絵」を描くことができた。

ビルドアップに手応えを感じたシーンもあった。それが後半、2点目を奪った場面。
相手が前線からのプレスを強めてきた後半。日本は自陣でパスコースを封じられ、後方のセンターバックの選手がビルドアップのスイッチを入れる前方へのパスを出しあぐねていた。
ここでボランチの守田英正選手が一瞬の動き直しで後方に下がって、フリーに。守田選手は3人の相手を引きつけてパスを受けると、素早くサイドに展開することでアメリカのマークを外しビルドアップが成功。追加点につなげた。
相手が前線からのプレスを強めてきた後半。日本は自陣でパスコースを封じられ、後方のセンターバックの選手がビルドアップのスイッチを入れる前方へのパスを出しあぐねていた。
ここでボランチの守田英正選手が一瞬の動き直しで後方に下がって、フリーに。守田選手は3人の相手を引きつけてパスを受けると、素早くサイドに展開することでアメリカのマークを外しビルドアップが成功。追加点につなげた。

答え合わせのドイツ戦へ
9月の強化試合で確かな手応えを得た森保監督。

10月下旬に行われた2人の最後の対談でドイツ戦にどう臨もうとしているのか聞くと森保監督はこう答えた。
森保監督
「優先順位で言うと、奪った瞬間に相手がプレッシャーをかけてくるので、そこは逆手に取って背後を取っていく。高い位置に起点を作って、攻撃に参加することは、まずはやっていきたい。9月のシリーズでチームとして同じ絵を持てるようになったと思うので、より強固に『自分たちはこうやっていく』というベースを作りながら、日本人の持つ器用さでいろんな対応ができるようにしていきたい」
「優先順位で言うと、奪った瞬間に相手がプレッシャーをかけてくるので、そこは逆手に取って背後を取っていく。高い位置に起点を作って、攻撃に参加することは、まずはやっていきたい。9月のシリーズでチームとして同じ絵を持てるようになったと思うので、より強固に『自分たちはこうやっていく』というベースを作りながら、日本人の持つ器用さでいろんな対応ができるようにしていきたい」
中村憲剛さん
「森保監督の中でどこに勝負を分けるポイントがあると思うか?」
「森保監督の中でどこに勝負を分けるポイントがあると思うか?」
森保監督
「ドイツにもゲルマン魂という言葉があるが、それを上回る勤勉性と継続してやり抜く力は日本のほうがあると思う。粘り強く戦えるのは日本なんだというところで差を出せればいい。最終的に相手がじれてわれわれが試合をものにできる戦いにできればいい」
「ドイツにもゲルマン魂という言葉があるが、それを上回る勤勉性と継続してやり抜く力は日本のほうがあると思う。粘り強く戦えるのは日本なんだというところで差を出せればいい。最終的に相手がじれてわれわれが試合をものにできる戦いにできればいい」
世界と戦えるために森保監督が4年をかけて築き、磨き上げてきた「日本のスタイル」。
その答え合わせとなる初戦のドイツ戦は23日午後10時(日本時間)にキックオフされる。
結果を残すことができれば、日本の悲願のベスト8に向けた道筋だけでなく今後の日本サッカーが進むべき方向性もはっきり見えてくるはずだ。
その答え合わせとなる初戦のドイツ戦は23日午後10時(日本時間)にキックオフされる。
結果を残すことができれば、日本の悲願のベスト8に向けた道筋だけでなく今後の日本サッカーが進むべき方向性もはっきり見えてくるはずだ。
※森保監督と中村さんの対談の一部はNHKスペシャル「2022ワールドカップ サムライブルー ドイツ攻略 ベスト8への道」でご覧いただけます。再放送は総合テレビ11月23日午前10時55分~で、放送から1週間はNHKプラスでも配信しています。
番組のホームページ

スポーツニュース部 記者
武田善宏
2009年入局 サッカー担当
今回のW杯で日本サッカーの歴史が変わることを期待し、現地取材に全力を注ぎます
武田善宏
2009年入局 サッカー担当
今回のW杯で日本サッカーの歴史が変わることを期待し、現地取材に全力を注ぎます

スポーツ情報番組部 ディレクター
水谷ジョージ嵩
2013年入局
函館局、札幌局を経て、2018年から現所属
水谷ジョージ嵩
2013年入局
函館局、札幌局を経て、2018年から現所属

スポーツ情報番組部 ディレクター
渡邊光里
2014年入局
新潟局、社会番組部(おはよう日本)を経て、2019年から現所属
渡邊光里
2014年入局
新潟局、社会番組部(おはよう日本)を経て、2019年から現所属