
介護事業者の「倒産」過去最多に なぜ?利用者はどうなる?
「“きょうから閉めます”って紙が届いて。えーっ、これからどうするかと」
少しでもよくなりたい、できれば自分の足で歩きたい。週3回通うデイサービスでのリハビリは大切な時間でしたが、その後、代わりの介護事業所は見つかっていません。
「ひざはもうあかん。立ってられへん」
今、こうしたケースが各地で相次いでいます。
(社会部 勝又千重子 飯田耕太)
突然のFAX
ことし7月1日、三重県名張市の地域包括支援センターにFAXが届きました。市内の介護事業者の倒産を伝える内容でした。

倒産したのは歩行訓練などのリハビリを行うデイサービスの事業者で、このセンターを通じて約40人の高齢者が利用していましたが、急にサービスが打ち切られることになったのです。
地域包括支援センターの職員は、利用者から状況を聴き取って代わりの事業者を探しました。
しかし、地域に同じようなサービスの事業者は少なく、40人のうち20人ほどは今も代わりの介護サービスが見つかっていないということです。
地域包括支援センターの職員は、利用者から状況を聴き取って代わりの事業者を探しました。
しかし、地域に同じようなサービスの事業者は少なく、40人のうち20人ほどは今も代わりの介護サービスが見つかっていないということです。

センターでは、4か月余りがたつ今も代わりのサービスが見つからない人たちに定期的に連絡をとり体調などに変化がないか確認していますが、中には家にこもりがちになるなど心配されるケースもあるということです。

(地域包括支援センター 主任ケアマネージャー 向井朋子さん)
「これから寒くなって、ますます外出しづらくなる不安もあります。少しでも体を動かしてもらう場所や方法を一緒に考えていきたいです」
「これから寒くなって、ますます外出しづらくなる不安もあります。少しでも体を動かしてもらう場所や方法を一緒に考えていきたいです」
代わりのサービスがみつからない…
倒産した事業者のデイサービスの建物は今もそのままで、入り口には倒産したことを伝える紙が貼られています。
近所に住む77歳の車いすの男性は要介護2で、5年前からこの事業所を週3回利用していましたが、今も代わりのサービスは見つかっていないということです。
近所に住む77歳の車いすの男性は要介護2で、5年前からこの事業所を週3回利用していましたが、今も代わりのサービスは見つかっていないということです。

(利用していた男性)
「ひざが少しでも良くなるようにと思って通っていました。倒産すると聞いたときは“えーっ、これからどうしよう”と思いました。リハビリを受けなくなってからひざの調子も悪く、立っていることはできません。代わりにサービスを引き継いでくれる事業者が出てきてほしいです」
「ひざが少しでも良くなるようにと思って通っていました。倒産すると聞いたときは“えーっ、これからどうしよう”と思いました。リハビリを受けなくなってからひざの調子も悪く、立っていることはできません。代わりにサービスを引き継いでくれる事業者が出てきてほしいです」
介護事業者の倒産が過去最多に
信用調査会社「東京商工リサーチ」によりますと、ことし1月から今月15日までに倒産した介護事業者は全国であわせて124件に上り、去年の同時期の64件の2倍近くとなりました。

倒産した事業者はおととし2020年の年間118件を上回り、介護保険制度スタートにあわせて2000年に始まった調査で最も多くなり、負債総額も過去最多の207億3800万円に上ったということです。
内訳は、以下のとおりです。
▽「通所・短期入所」(デイサービスなど)63件
▽「訪問介護」40件
▽「有料老人ホーム」11件
▽「その他」10件いずれも前の年の同時期より増えています。
内訳は、以下のとおりです。
▽「通所・短期入所」(デイサービスなど)63件
▽「訪問介護」40件
▽「有料老人ホーム」11件
▽「その他」10件いずれも前の年の同時期より増えています。
なぜ倒産が増加?
倒産の要因としては次のようなことが考えられるとしています。
▼ヘルパーなどの人材不足
▼感染拡大期の介護サービスの利用控えによる減収
▼食材などの物価や光熱費、燃料費の高騰、
今後について東京商工リサーチは次のように指摘しています。
▼ヘルパーなどの人材不足
▼感染拡大期の介護サービスの利用控えによる減収
▼食材などの物価や光熱費、燃料費の高騰、
今後について東京商工リサーチは次のように指摘しています。
(東京商工リサーチ情報部 後藤賢治課長)
「倒産の増加傾向はこの秋に入っても強まっていて、食材や燃料費などのほか、人件費の上昇も影響しているとみられる。コロナの第8波で再び利用控えが広がれば倒産はさらに増え、過去最多を大幅に上回るおそれがある」
「倒産の増加傾向はこの秋に入っても強まっていて、食材や燃料費などのほか、人件費の上昇も影響しているとみられる。コロナの第8波で再び利用控えが広がれば倒産はさらに増え、過去最多を大幅に上回るおそれがある」
事業を廃止する事業者は
東京・江戸川区の介護事業者はことし7月、10年間にわたって続けてきた訪問介護の事業を廃止しました。
ヘルパーの高齢化が進む一方で、新たな人材は募集してもなかなか応募がなく、30人いた登録ヘルパーは6人にまで減りました。
さらに、おととし以降は新型コロナの感染拡大で、濃厚接触者になったヘルパーが出勤できなくなったり、利用者の利用控えが出たりして収益が悪化、月平均で20万円ほどの赤字が続いたということです。
そのため、コロナで業績が悪化した企業が実質無利子で融資を受けられる制度などを利用してしのいできましたが、去年から返済が始まり、人手不足とコロナの影響が続く中、訪問介護事業の廃止に踏み切ることにしました。
40人いた利用者は別の事業所へ引き継ぎ、従業員も再就職先が見つかったということですが、今もやるせなさを感じているといいます。
ヘルパーの高齢化が進む一方で、新たな人材は募集してもなかなか応募がなく、30人いた登録ヘルパーは6人にまで減りました。
さらに、おととし以降は新型コロナの感染拡大で、濃厚接触者になったヘルパーが出勤できなくなったり、利用者の利用控えが出たりして収益が悪化、月平均で20万円ほどの赤字が続いたということです。
そのため、コロナで業績が悪化した企業が実質無利子で融資を受けられる制度などを利用してしのいできましたが、去年から返済が始まり、人手不足とコロナの影響が続く中、訪問介護事業の廃止に踏み切ることにしました。
40人いた利用者は別の事業所へ引き継ぎ、従業員も再就職先が見つかったということですが、今もやるせなさを感じているといいます。

(訪問介護を廃止した介護事業者 三田友和さん)
「体力的に大変な仕事でもあり、求人広告を出してもコストだけかかってなかなか集まらない。職員がいなければ仕事ができないので、収益をあげられなかった。頼りにしていただいた利用者様には本当に申し訳ないです」
「体力的に大変な仕事でもあり、求人広告を出してもコストだけかかってなかなか集まらない。職員がいなければ仕事ができないので、収益をあげられなかった。頼りにしていただいた利用者様には本当に申し訳ないです」
利用者の生活への影響は?
介護事業者の倒産は、利用していた高齢者の生活に大きな影響を及ぼしています。
東京・江戸川区に住む鈴木公男さん(86)が通っていたデイサービスは経営する事業者の倒産でことし1月、閉鎖されました。
東京・江戸川区に住む鈴木公男さん(86)が通っていたデイサービスは経営する事業者の倒産でことし1月、閉鎖されました。
週2回通っていた鈴木さんは外出の機会が減り、家にこもるようになってしまったといいます。
(鈴木さん)
「仲良くしたり、話を聞いてくれる人もいたり、そこで満足していたからあとのことは考えていなかった。何をするでもないから家の中にいました」家族の働きかけで、漢字の書き取りをしたり、階段を上ったりと自宅でもできるリハビリに努めましたが、運動能力が少しずつ落ちていくのを感じていたといいます。
その後、家族の説得でケアマネージャーに相談し、見学を重ねて、別のデイサービスに通うようになったということです。
(鈴木さん)
「仲良くしたり、話を聞いてくれる人もいたり、そこで満足していたからあとのことは考えていなかった。何をするでもないから家の中にいました」家族の働きかけで、漢字の書き取りをしたり、階段を上ったりと自宅でもできるリハビリに努めましたが、運動能力が少しずつ落ちていくのを感じていたといいます。
その後、家族の説得でケアマネージャーに相談し、見学を重ねて、別のデイサービスに通うようになったということです。

(鈴木さんの妻・たいさん)
「今まで行っていた人が行く場所がないということは一番ショックですよね。足も弱ってしまい、家にいるだけでは認知症になるのが心配でとても困りました」
「今まで行っていた人が行く場所がないということは一番ショックですよね。足も弱ってしまい、家にいるだけでは認知症になるのが心配でとても困りました」
専門家はどう見ている?
介護の問題に詳しい淑徳大学の結城康博教授に聞きました。

(結城教授)
「コロナ禍の3年間は相次ぐサービスの利用控えで経営の悪化を招き、人材の確保や定着をさらに難しくさせた。介護報酬は一定程度しか入ってこない中、昨今の物価高による物品やガソリンなどの値上がりで経費がかさみ、中小規模が多い介護事業者の体力がどんどん減退した。高齢者の介護ニーズはたくさんあり、続けたいのにやむをえず倒産してしまうケースが多いのではないか」
その上で、今後求められることについて、次のように話しています。
「一時的に融資などを受けたとしても返済の時期も迫る中で“どんなに努力してもなかなか経営が良くならない”とか、“どんどん悪くなっていくんじゃないか”“ここが潮時なのでやめてしまおう”などと考えてしまうような状況で、介護経営の先行きが見通せない影響が非常に大きい。このまま抜本的な対応がなされなければ、介護を受けられない人が今後ますます増えかねない。2024年度の介護報酬の改定でプラス改定をしっかりと実現するとともに、事業者を支える予算措置をして利用者がサービスを受けられるよう環境整備をすることが大事だ」
「コロナ禍の3年間は相次ぐサービスの利用控えで経営の悪化を招き、人材の確保や定着をさらに難しくさせた。介護報酬は一定程度しか入ってこない中、昨今の物価高による物品やガソリンなどの値上がりで経費がかさみ、中小規模が多い介護事業者の体力がどんどん減退した。高齢者の介護ニーズはたくさんあり、続けたいのにやむをえず倒産してしまうケースが多いのではないか」
その上で、今後求められることについて、次のように話しています。
「一時的に融資などを受けたとしても返済の時期も迫る中で“どんなに努力してもなかなか経営が良くならない”とか、“どんどん悪くなっていくんじゃないか”“ここが潮時なのでやめてしまおう”などと考えてしまうような状況で、介護経営の先行きが見通せない影響が非常に大きい。このまま抜本的な対応がなされなければ、介護を受けられない人が今後ますます増えかねない。2024年度の介護報酬の改定でプラス改定をしっかりと実現するとともに、事業者を支える予算措置をして利用者がサービスを受けられるよう環境整備をすることが大事だ」