旧統一教会の被害者救済 政府が新法案の概要を与野党に提示

旧統一教会の被害者救済に向けて政府は、悪質な献金を規制する新たな法案の概要を、与野党に示しました。被害者に扶養されている子どもなどにも、一定の範囲内で、献金の「取消権」を認めるとしています。

旧統一教会の被害者救済に向け、政府は、現在の法律では十分に対応できていない悪質な献金を規制するため、今の国会に新たな法案を提出する方針で、策定作業を進めています。

政府は18日午後、新井消費者庁長官らが、与野党6党の幹事長と書記局長らの会談に出席し、新たな法案の概要を示しました。

この中では、規制の対象は個人から法人への献金としています。

そして、悪質な勧誘を禁止し、その具体的な例として。個人がその場から退去をしたいのにさせないとか、威迫する言動で他者への相談を妨害することなどをあげています。

また、与野党協議で焦点となっていた、いわゆるマインドコントロールによって献金をさせる行為については、法律で定義づけるのは困難だとして、霊感などの知識により、個人の不安をあおったり、現在の不安に乗じたりして献金が不可欠だと告げることを禁じるとしています。

さらに、法人が献金を勧誘する際、借金させたり、家を売らせたりまでして資金の調達を要求することを禁止するとしています。

そして、この法律で禁止する勧誘行為によって行われた献金には「取消権」を認めて、被害を取り戻せるようにすると明記しています。

また、献金した本人が、取り消しを求めない場合には、扶養されている子どもなどにも本来受け取れるはずだった養育費など、一定の範囲内で「取消権」を認めるとしています。

養育費などの算定は、未成年の子どもが18歳になるまでの期間など、将来分まで含める特例措置を設けるとしています。

このほか、国は、特別に必要があるときは法人に対し、献金の勧誘に関する業務内容について報告を求めることができるとしています。

また、この法律で禁止する勧誘行為を行い、勧告や命令に従わない場合、刑事罰を設けるとしています。

説明を受けたあと、6党の幹事長と書記局長は政府側に対し、来月10日の今の国会の会期末まで時間が限られるとして、法案の策定作業を急ぎ、早期に国会に提出するよう求めました。

弁護士「適用範囲が狭い 救済範囲は限定的になるのでは」

一方、悪質な献金を規制する新たな法案の概要について、立憲民主党や共産党などが国会内で開いた会合で意見が交わされました。

概要では、いわゆるマインドコントロールによって献金をさせる行為を法律で定義づけるのは困難だとして、霊感などの知識により、個人の不安をあおったり、現在の不安に乗じたりして献金が不可欠だと告げることを禁じるとしています。

これについて、「全国霊感商法対策弁護士連絡会」の阿部克臣弁護士は「『献金が不可欠だと告げる』ことは要件としてかなり厳しく、ここまで告げて献金をさせるケースがどれだけあるのか、かなり疑問だ。適用範囲が狭い」と指摘しました。

また、概要で、被害者に扶養されている子どもなどにも一定の範囲内で献金の「取消権」を認めるとしていることについては「請求できるのは、そんなに大きな金額にはならず、救済の範囲はかなり限られたものになるのではないか」と述べました。

元信者 “ちゃんと返金される制度作ってほしい”

数年前に旧統一教会を脱会した元信者の60代の女性。
献金や物品の購入など、教団側に支払った金額はおよそ3000万円に上るといいます。

入信したきっかけは、夫が病気になった悩みを友人に相談したことでした。

その友人から家系図を見てくれる場所があると紹介を受けて訪ねると、息子も病気になるおそれがあると言われ、12万円の念珠を勧められたといいます。

女性は「私が話すことを家系図に書き取ってくれる先生がいて、家族関係とか家族の病気について聞き取られました。『病気が長男にも関わってくるかもしれないので、念珠を息子さんに用意したらいい』と言われ、私にできることがあるなら何かしてあげたいという気持ちでした」と話しました。

その後、教団の施設に通うようになると、預金通帳を見せるよう言われ、先祖の罪を償うためとしておよそ1000万円を支払いました。

さらに悪霊が入るというつぼや教祖のことばが書かれた書籍などの購入を次々に求められたといいます。

女性は当時について、「不思議なことに大金なのに、ちゅうちょすることもなく出してしまいました。当時は言われるがままで、教団の言うことは正しいと信じ込んでいたので断ることはなかったです」と話しました。

脱会する直前に夫とともに返金を求めると、教団側は「500万円は返金するが、今後、異議申し立てを一切行わない」という趣旨の合意書を提示してきたということです。

女性はそれに同意せず、現在も代理人の弁護士を通じて協議を続けています。

旧統一教会の被害者救済に向けて悪質な献金を規制する新たな法案について、女性は「夫が一生懸命働いてためたお金を黙って使ってしまった。真面目にずっと働いてためてきたのに本当に申し訳ないと思っています。家族でも本人でも高額なお金を出してしまった人たちに、ちゃんと返ってくるような制度を作ってほしいと思います」と話していました。

松野官房長官「できるかぎり早く法案を提出」

松野官房長官は午後の記者会見で「法案の内容やスケジュールは現在調整中だが、各党の意見も参考にしながら、今国会を視野にできるかぎり早く法案を提出すべく検討を進めていきたい」と述べました。

自民 茂木幹事長「法案の策定作業を急いでほしい」

自民党の茂木幹事長は会談のあと記者会見し、新たな法案の概要について「実効的に被害者の救済、再発防止につながるものだ。異例ではあるが、野党各党にも示し、意見もいただいた。政府には、これも参考にして、法案の策定作業を急いでほしい」と述べました。

一方、茂木氏は法案の概要で、法人が献金を勧誘する際、借金させたり、家を売らせたりまでして、資金の調達を要求することを禁止するとしていることについて、過度な寄付の要求を禁止するもので、献金の上限規制にあたるという考えを示しました。

また、法案に設ける刑事罰の具体的な内容については、消費者行政に関係するほかの法律とのバランスも踏まえ、懲役刑や罰金刑が含まれることになるという認識を示しました。

立民 岡田幹事長「極めて不十分」

立憲民主党の岡田幹事長は、記者団に対し「被害者が救われる、意味のある法律を目指さなければならず、極めて不十分だ。マインドコントロール下に置かれた人がみずからすすんで献金する場合をどうやって対象にするかという議論だが、概要の規定では非常に限定されており、柔軟に考え直さないとだめだということを与野党4党の実務者協議の場で申し上げていく」と述べました。

立民 安住国対委員長「損害受けている家族が救われる法律に」

立憲民主党の安住国会対策委員長は、記者会見で「政府・与党は硬直した考えを全く変えておらず、きょう示された法案の概要では、いちばん問題になっている『マインドコントロール』に全くアプローチしてない。旧統一教会の被害者やサポートしてきた弁護団にとって使い物にならなければ、法律をつくる意味がない」と批判しました。

そのうえで「国民は見ているので、このままでは、政府・与党にとっても決していいことにはならないと思う。マインドコントロールによって大変な損害を受けている家族が救われる法律になるよう岸田総理大臣には、リーダーシップを発揮して譲歩してもらいたい」と述べました。

維新 藤田幹事長「少し物足りなさを感じる」

日本維新の会の藤田幹事長は記者団に対し「社会問題を救うために最大限踏み込んでやるのがわれわれのスタンスであり、少し物足りなさを感じる。マインドコントロールの定義を明確にするのは難易度が高いという判断だと思うが、どこまで文言に盛り込めるか、最終の詰めでやるべきだ。実効性のある法律ができるように、政治の意思決定を進めていきたい」と述べました。

公明 石井幹事長「新法の成立を期していきたい」

公明党の石井幹事長は記者団に対し「内容を評価し、消費者庁長官からの説明に私自身、納得している。過度な寄付をしないことが大きな目的であり、借り入れや住んでいる住居を売るような過度な要求を禁止したことは、非常に大きな意義がある」と述べました。

そのうえで「被害者の救済や、再発防止を進めることは与野党を超えたコンセンサスだと思うので、今の国会で新法の成立を期していきたい」と述べました。

また、新たな法案の概要で、マインドコントロールそのものを法律で定義づけなかったことについて「マインドコントロールはいわば一種の精神状態なので、定義したり、認定したりすることは極めて難しい。行為に着目して、明確に禁止行為を定めることは、非常に重要なことだ」と指摘しました。

共産 小池書記局長「解決に役立つ法案に」

共産党の小池書記局長は記者団に対し「概要を初めて見たので持ち帰ってよく検討する。旧統一教会による被害の救済は党派を超えた国会の責務で、実効性のあるものにして、被害者などから『解決に役立つ法案だ』と見てもらえるような中身にする必要がある。全党が参加する形での協議の場を設けるべきだ」と述べました。

国民 榛葉幹事長「党の主張が入り評価」

国民民主党の榛葉幹事長は記者会見で「わが党が主張してきたエッセンスがおおむね入っているので評価する。大切なのは、困っている国民を救済することと、早く実効性のある法律をつくることだ。協議体の主導権争いみたいなことをするのではなく、6党ですべて話し合ったらどうかと提案した」と述べました。

4党実務者協議 野党側 内容不十分と指摘

政府が、悪質な献金を規制する新たな法案の概要を与野党に示したことを受けて、自民・公明両党と立憲民主党、日本維新の会の4党の実務者による協議が行われました。

焦点となっていた、いわゆるマインドコントロールについて、法律で定義づけるのは困難だとして、法案の概要では、霊感などの知識により個人の不安をあおるなどして献金が不可欠だと告げることを禁じるとしています。

これについて野党側は、「献金が不可欠と告げる」という要件は厳しすぎ、マインドコントロールを受けて進んで行う献金が救済の対象にならないと指摘しました。

また、野党側は、被害者に扶養されている子どもなどにも一定の範囲内で取消権を認めることについて、取り戻せる金額が養育費などの一部に限定され、不十分だという考えを伝えました。

このほか、借金させたり、家を売らせたりまでしての資金調達の要求を禁止することについても、要求の行為がなく自発的に借金などをして献金した場合は規制の対象にならないと指摘しました。

これに対し、与党側は、次回の協議の在り方も含め、持ち帰って検討する考えを示しました。