新型コロナ “第8波”感染のピークは 対策は わかってきたこと

“新型コロナの「第8波」に入ったのではないか”

今週、1日の感染者数はおよそ2か月ぶりに、東京都で1万人を超え、全国でも10万人を超えました。北海道では連日、過去最多を更新。新たな変異ウイルスも徐々に増えています。

専門家や医師からも「新しい波に入りつつある」「新たな波が始まった」という声が。

“第8波”の感染ピークはいつになると予測されるのか、そしてどんな対策が求められるのか、取材しました。(11月18日時点)

各地で感染拡大 “第8波”か

11月15日、新型コロナの1日の新規感染者数は東京都で1万1196人、全国では10万2829人と、9月14日以来の水準となりました。
北海道では、11月16日には1万1112人となるなど、すでに第7波のピークを超えていて、過去最多の更新が続いています。
政府分科会の尾身茂会長は11月10日に「全国的にみてスピードの差はありつつも感染は拡大傾向にある。新しい波に入りつつあると言ってもいいんじゃないか」と述べ、第8波に入りつつあるという認識を示しました。
その後、16日には日本医師会の釜萢敏常務理事が「新たな波が始まったと捉えざるをえないのではないか。医療提供体制をできるだけ急いで整えなければならないという危機感を持っている」と述べ、第8波が始まったという認識を示しました。

そして、17日、厚生労働省の専門家会合は「今後も新規感染者数の増加が予想され、ことし夏の『第7波』のような感染拡大となる可能性もある」と指摘しました。

なぜいま“第8波”? 「BA.5」が北から再燃

いま、なぜ、感染拡大が起きているのか。

その手がかりの1つとして、専門家が注目しているのが、感染拡大が大都市部ではないところから始まっていることです。

これまで、感染拡大は人口の多い首都圏などから始まり、移動に伴って各地に広がることが多かったのが、今回は北海道や東北地方などから始まっています。

そしていまも、ことし夏の「第7波」以降主流になったオミクロン株の「BA.5」が最も多い状況が続いています。
17日の専門家会合では、「第7波」で「BA.5」に感染した人が多かった地域では免疫を持つ人の割合が高い一方、感染者が少なかった地域では免疫を持つ人の割合が低く、感染者数が増加しているという見方が示されました。
厚生労働省専門家会合の脇田隆字 座長は、専門家会合のあとの記者会見で「沖縄では夏に非常に大きな拡大があったが、いま感染者数は非常に低いレベルにある。多くの人が『BA.5』への免疫を獲得し、『BA.5』の流行への耐性がある。一方、夏にそれほど拡大がなかった地域で、感染拡大が大きくなっているという認識だ。北海道や東北、北陸では感染者数が多い」と述べました。

また、海外の状況を含めた感染症に詳しい東京医科大学の濱田篤郎特任教授は「今の流行は『第7波』の『BA.5』の残り火が再燃している状況だと見られる。大都市圏も増えているが、むしろ地方都市で顕著に増えている。『第7波』で比較的感染者数が少なく、感染による免疫の獲得が少なかった地域で、残り火が再燃していると考えるのが妥当だろう」と話しています。

「BA.5」による感染の再拡大は、ヨーロッパでも10月ごろに起きています。

イギリス・オックスフォード大学の研究者などが運営するサイト「アワ・ワールド・イン・データ」によりますと、100万人あたりの新規感染者数(1週間平均の1日あたり)はドイツでは10月中旬におよそ1300人と、ことし7月のピークを超え、フランスでも10月中旬におよそ840人と、7月以来の水準となりました。

17日の専門家会合のあと脇田座長は、「BA.5」による今後の感染のピークは年内にも訪れるのではないかという見方を示しました。

また、数理疫学が専門の京都大学の西浦博教授は会合のあと「北海道で見られるように、地域的に広がりながら感染拡大が進んでいるので、(『BA.5』の感染拡大がピークを迎えたとしても)減少は緩やかとなり、時間をかけてくすぶるものと思う」とコメントしました。

さらに…新たな変異ウイルスの増加も

今後さらに懸念されるのが、いずれもオミクロン株の1つ、「BQ.1」系統などの変異ウイルスが増えることです。

これらの変異ウイルスは、これまでに感染したことやワクチンを接種したことで得た免疫を逃れる可能性が高いとみられています。

アメリカでは「BA.5」に代わって増えてきています。
CDC=疾病対策センターによりますと、11月12日までの1週間で検出された変異ウイルスは▽「BA.5」が29.7%、▽「BQ.1.1」が24.1%、▽「BQ.1」が20.1%、▽「BF.7」が7.8%、▽「BA.4.6」が5.5%などとなっています。

日本国内でも、これらの新たな変異ウイルスが確認されています。
11月17日に東京都のモニタリング会議に出された資料によりますと、10月に変異ウイルスの検出された割合は▽「BA.5」が90.5%と圧倒的ですが、▽「BA.2.75」が2.5%、▽「BQ.1.1」が2.4%、▽「BF.7」が2%、▽「BQ.1」が0.7%、▽「XBB」が0.7%などと徐々に増えてきています。

「BA.5」は9月には98.4%を占めていたので減少傾向となっています。

「BQ.1」系統のウイルスは「BA.5」がさらに変異が加わったウイルスです。

「BA.2.75.2」はアメリカやインド、ヨーロッパ各国などで検出されていて、「BA.2」が変異を重ねた「BA.2.75」にさらに3つの変異が加わっています。

「XBB」は「BA.2」から派生した変異ウイルスと「BA.2.75」から派生した変異ウイルスが組み合わさった「組み換え体」と呼ばれるタイプのウイルスです。

東京医科大学の濱田特任教授は、こうした新たな変異ウイルスが日本でも広がると、「第8波」が大きくなる可能性があると指摘しています。
東京医科大学 濱田篤郎 特任教授
「いま注目されている変異ウイルスは『XBB』と『BQ.1』系統の2つだが、『XBB』は世界的にはあまり拡大していない。『BQ.1』は欧米で『BA.5』から置き換わりが進んでいる。欧米では感染者数そのものは急増している状況ではないが、今後、新たな変異ウイルスが日本にも多く入ってきた場合に、『第8波』が大きくなる可能性がある。12月に入ると、そのような状況になるのではないか。経過を見ていく必要がある」

AI予測 変異ウイルス次第で“第7波”超えも

今後、感染はどの程度拡大するのか。

名古屋工業大学の平田晃正教授のグループは、AI=人工知能を使って、11月10日までの感染者数の推移のほか、ワクチンの効果、それに人の移動といったデータをもとに、「BQ.1」などの新たな変異ウイルスが増える前提で、今後の感染状況を予測しました。
それによりますと、東京都では11月中旬から下旬にかけて感染者数が本格的に増え始めると見られます。

そして、「BQ.1」などの感染力が「BA.5」の1.2倍で、これまでに感染したことによる免疫の効果がないという想定では、東京都での1週間平均での1日あたりの感染者数が、12月半ばにおよそ3万人、2023年1月中旬には「第7波」のピークを超えるおよそ3万6000人に上るという予測になりました。

この想定では、2023年1月中旬から2月下旬には、東京都内でコロナで亡くなる人は、1日に20人余りになるとしています。

また、「BQ.1」などの感染力がこれまでと変わらず、免疫の効果がある程度保たれるという想定では、感染者数のピークは2023年1月中旬におよそ2万5000人になるという予測になりました。
名古屋工業大学 平田晃正教授
「『BQ.1』など変異ウイルスの影響を想定すると、近いうちに感染者数が急増し始める可能性がある。人々の活動も戻り、気温も下がり、感染者数が下がる要因はほぼない。変異ウイルスの特徴はまだよく分かっていないが、感染力が強く、免疫回避が強かった場合には、年末にかけてかなり感染者数が増えることが予測される」

今後、ワールドカップの影響も

これから年末年始にかけて、人と人との接触機会が増えることが予想されます。

これに加えて、東京医科大学の濱田特任教授は、水際対策が緩和されている今、海外の感染状況にも注視が必要だとしています。

ここ1週間では、日本だけでなく韓国、インドネシア、マレーシアといった東アジアや東南アジアでの感染拡大が目立っているということですが、11月下旬に感謝祭を控えるアメリカでの感染拡大、それにサッカーのワールドカップ、カタール大会の開催による影響にも目を向けるべきだとしています。

濱田特任教授は「これまでも、アメリカでは感謝祭の日を境に新型コロナの感染が拡大している。この時期に多くの家族が集まって食事をするので接触機会も増える。また、サッカーのワールドカップでは、世界中からおよそ120万人がカタールを訪れると言われている。これまで、東京オリンピック・パラリンピックや北京オリンピック・パラリンピックでは、いずれもかなり厳重な感染対策のもとで開催されたが、今回は対策がかなり緩和された中での開催になる。ワールドカップの期間中に感染が広がり、帰国後にそれぞれの母国で感染が広がるということも、想定する必要がある」と話しています。

インフルエンザとの同時流行は

冬に向けて、新型コロナとインフルエンザの同時流行にも備えるべきだという指摘も出されてきました。
いま、インフルエンザの患者数はコロナ前と比べると低い水準で、1医療機関あたりの患者数は11月13日までの1週間で「0.08人」と、流行入りの目安とされる「1」を大きく下回っています。

しかし、ほぼ患者がいなかった去年とおととしに比べると多く、17日の新型コロナウイルス対策の厚生労働省の専門家会合では「関西で定点あたりの患者数や、休校、学年閉鎖、学級閉鎖の施設数が増加傾向にあり、注視が必要だ」と指摘があったということです。

インフルエンザは、日本とは季節が逆の南半球のオーストラリアで、ことし5月から6月にかけて感染者数が急増し、コロナ前の大規模な流行を超える拡大となりました。

また、WHO=世界保健機関の報告によりますと、ここ数週間でアメリカやカナダで増加傾向になったほか、ヨーロッパでも、低い水準ながら増加傾向にあるとしています。

京都大学の西浦教授は「インフルエンザはいま、増えるスピードは非常にゆっくりで、早くても最大の感染者数になるのは、年始の学校再開後かと推察される。そのため、第8波とインフルエンザのピークは少なくともずれる見込みだ」とコメントしています。

東京医科大学の濱田特任教授は「日本でも一部の地域では子どもの感染が増えて、学級閉鎖も行われてきている。今後、冬の流行は起こると考えておいたほうがいい。新型コロナのワクチンと同時に接種することもできるので、インフルエンザのワクチンをぜひ今のうちに受けていただきたい」と話しています。

専門家はワクチン接種を呼びかけ

感染者数を抑え、入院患者を減らし、医療がひっ迫する事態を避けるにはどうすればいいのでしょうか。

専門家は、まずはワクチン接種を呼びかけています。

厚生労働省の専門家会合では、初回接種を完了した12歳以上の人には、年内にオミクロン株対応のワクチン接種を完了すること、そして、乳幼児や小学生の年代の子どもたちにも接種を進めることを呼びかけています。
専門家会合の脇田座長は「ワクチンは副反応への懸念もあるし、感染しても重症化するケースは少ないこともあるが、感染すると重症化することが全くないわけではないし、若い人でも、後遺症も少なからずあると言われている。しっかり接種して感染を避けることが重要だ。接種によって自分が感染しない、重症化を抑えるメリットがあるし、自分の家族を守り、流行を抑え医療への負荷を下げるメリットもある」と話しています。

また、東京医科大学の濱田特任教授は「新たな変異ウイルスは免疫を逃避すると言われているので、ワクチンを接種しても効果がないのではないかと思う人もいるかもしれないが、決してそうではない。いま接種が進んでいるオミクロン株に対応したワクチンは、今後広がる可能性のある『BQ.1』や『XBB』にも効果があると考えられる。年内、特に11月中にワクチンを接種しておいて、冬の『第8波』に備えてほしい」と話しています。

とるべき対策は変わらない

これから忘年会などのシーズンを迎えるにあたり、大切なのが基本的な対策の再確認です。
▽発熱などの症状がある場合は学校や仕事には行かず、ほかの人との接触を極力避ける。休養が重要。
▽手指の消毒、屋内で人と近い距離で会話する場面などではマスクを着用する。
▽飲食店などでは換気を徹底する。

濱田特任教授は「マスクや手洗い、密を避けるといった対策は今後も続けてほしい。これから忘年会や新年会、里帰りのシーズンになってくる。今後の流行状況によってはキャンセルしなければならないこともあるかもしれない。感染状況をよく見ながら行動することが大切だ」と話しています。