「千里ニュータウン」で会社員が始めたこと

コロナ禍も3年目、冬の足音が聞こえてくる季節になりました。

在宅ワークの機会が増え“おうち時間”が長くなると、住んでいる町で小さな発見をすることってありませんか?

“地域のことをもっと知りたい”

そんな思いから活動を始めた会社員の男性がいます。
(大阪放送局 映像制作 蓑輪幸彦)

大阪の百貨店に勤める野村仁志さん(48)。

子どもの誕生を機に12年前、「自然が多くて子育てがしやすい」環境を求めて兵庫県から「千里ニュータウン」に引っ越してきました。

かつての“オールドタウン”もこの10年ほど人口増加

そこは、今からおよそ60年前の高度経済成長期に”日本初の大規模ニュータウン”として大阪北部に開発された新興住宅地。全国から若い家族が続々と入居していました。

1970年にはこの地域を会場に開催された「大阪万博」に合わせて交通網が整備され一躍有名になりました。

しかし、1990年代から急速に高齢化が進み、最先端として知られた町も“オールドタウン”とまで言われるようになりました。

ところが、2000年以降は団地の建て替えや分譲マンションの建設などが進み、この10年ほどは人口が増え続けています。

【千里ニュータウンの人口推移】
1962年…誕生
1975年…約13万人   
2010年…約8万9000人 
2021年…約10万3000人
(国勢調査・住民基本台帳より)


野村さんも2010年に新築マンションを購入した1人です。

自宅と職場を忙しく往復する毎日。ところが、コロナ禍で生活が一変します。

在宅での仕事が多くなり、「千里ニュータウン」で1日を過ごすことが多くなりました。

野村さんはそこで気付いたことがあります。

“町のこと全く知らずにいた”

野村仁志さん
「景色が素敵だなって思い始めて、そのあと『こんなところにお店あったんだ』とか、魅力的な活動をしている人の存在を知った。イベントを知っていれば行っただろうし、自分がより豊かな暮らしを選択できた。知らないというのは住民としては不幸な状況じゃないか」
野村さんは、去年から地域の交流会に積極的に顔を出すようになりました。

「ニュータウンに新たに移り住んだ人が町を知る」機会を作ろうと考えたのです。

こうした中、ある男性に出会います。
「千里ニュータウン」で育った奥居武さん(63)。

地域活動に15年以上取り組み、全国のニュータウンの研究もしています。

野村さんは、奥居さんから町の将来についてある不安を聞かされました。

”歴史はまた繰り返す”

奥居武さん
「この15年くらい新しい建物がいっぱいできて、30代40代の新しい住民がものすごく増えているが、これは町ができた時と同じこと。いずれ再び高齢化や人口減少などの問題がやってくる。町の活気が失われないためには、住民たちがどれだけ『自分の町』だと思って行動できるかにかかっている」
「自分の町」だと思って行動することとは…。

野村さんは、町のことをできるだけ多くの人に知ってもらい、地域の住民や事業者などが一緒に「町づくり」に参加する仕組みをつくろうと考えました。

そこで始めたのが地元を舞台とした祭りの開催です。

ターゲットは地域に住む子どもたち。新しくニュータウンにやってきた子育て世代も参加しやすく、小さいうちから町に愛着をもってもらいたいと考えました。

“千里祭り”で持続可能な町へ

野村さんは、奥居さんからアドバイスを受けながら地元の事業者・市民団体などを訪問して祭りへの参加を呼びかけました。

活動を始めて半年、賛同してくれる人が少しずつ見つかり、60を超える団体が協力してくれることになりました。
そして、11月1日「千里祭り」が始まりました。期間は1か月間。

「千里ニュータウン」やその周辺を会場に、43のイベントが企画されています。

地域の人たちに楽しんでもらおうと、
▽地域を走る鉄道について学んだり、
▽地元の大学で看護師の仕事を体験できるイベントなどを用意しました。
このうち、竹林について学ぶワークショップでは、公園にある竹の手入れを行っているボランティアが、訪れた人たちに整備の大切さを伝えました。

かつて、竹林が広がっていた地域を切り開いて作られた「千里ニュータウン」は、今でも多くの竹が残っていて手入れする住民の高齢化が課題となっています。

参加した小学生は「ふだん竹があるなとは思っていたけど、手入れに苦労している人がいることを初めて知った」と話していました。

また、母親は「自分ができることがあれば、竹林の保全に関わってみたい気持ちも芽生えた」と話していました。
野村さんとともに「町づくり」の活動を続ける奥居さんは、「千里祭り」を通じて町に目を向ける人が増えてほしいと期待を寄せています。
奥居武さん
「ニュータウンの歴史を先導する町として、いつまでも新しい人がやってきて、さまざまな立場の人々がいろいろな取り組みをし続ける町になってほしい」

野村仁志さん
「自分も、町への愛情が確実に芽生えた。僕みたいな人間が増えていくと、より一層町が活発になっていくと思う。今無関心だと思っている方も、きっかけさえあれば関わってくれる。みんなでこの町をもっと良く、自分たちの暮らしをもっとより豊かにできたらいい」
「千里ニュータウン」で生まれた“新たなつながり”

みんながちょっとずつ町に関わることで、町の未来がつくられようとしています。