WEB特集

ワールドカップ “日本とドイツは互角” アナリストが徹底分析

サッカー・ワールドカップで11月23日に行われる日本の初戦・ドイツとの戦い。
日本が目標とするベスト8に進むため、カギになると見られる試合だ。今回、NHKでは代表チームや各国のクラブが戦術分析などに使用しているシステムを運営するアメリカの企業に協力を依頼。
日本とドイツがことし6月~9月に行ったそれぞれ6試合を、さまざまな角度から徹底分析。
日本の勝機はどこにあるのか探った。
(スポーツ情報番組部 ディレクター 渡邉光里/NHKスペシャル取材班)

世界最高峰リーグのアナリストが分析

分析を行ったのは、世界中で行われる試合やサッカー選手のデータベース「Wyscout」を運営するHUDL(本社アメリカ)のサッカーアナリスト、トム・グッドル氏。
トム・グッドル氏
大学でスポーツ科学を専攻。

世界最高峰とされるイングランド・プレミアリーグのクラブで9年間、アナリストとして対戦チームの分析などに従事した。
トム・グッドル氏
「私は日本のサッカーについても知っています。当社はJリーグのチームも分析しているのでワールドカップ開幕前に、代表チームを分析するのはエキサイティングでした」

ベスト8以上を目指す日本 カギとなるドイツ戦

サッカーの祭典、FIFAワールドカップ。

32チームが出場し、1次リーグでは4チームずつのグループに分かれ、総当たりで試合を行う。
世界ランキング24位の日本が初戦でぶつかるのは現在、世界ランキング11位のドイツ。

過去4回の優勝を誇る強豪だ。
左:ノイアー 右:ミュラー
W杯得点王に輝いた実績をもつミュラーや世界トップクラスのゴールキーパーとして知られるノイアーなど、スター選手がずらりとそろう。

これまで、初戦を落とした大会では例外なく1次リーグで敗退してきた日本。

ドイツとの一戦は大事な試合となる。

ヨーロッパで活躍する日本代表選手たち

ワールドカップに挑む日本代表選手は26人。

ほとんどがヨーロッパで活躍するハイレベルな選手がそろった。
左:伊東純也 右:鎌田大地
攻撃の中心は、広い視野と巧みなドリブルを持つ鎌田大地だ。

今シーズンはドイツ1部リーグで得点ランキング上位に入る活躍を見せている。

また圧倒的なスピードのドリブル突破で相手の守備を切り裂く伊東純也も目が離せない。

あのメッシやネイマールがいるフランス1部リーグでも、チームをけん引する存在となった。

走力は日本がドイツを上回る

躍進めざましい日本と世界屈指の強豪ドイツ。

グッドル氏がまず分析したのはサッカーで試合を有利に進めるために重要とされる走力について。

日本とドイツの1分当たりの走行距離を比較した。
データ提供:HUDL<Player Physical Data>SkillCorner
チャートの横軸は1分間の走行距離。

縦軸はハイスピードでの走行距離を示す。

青い丸が日本の選手、白い丸はドイツの選手のデータだ。

両方のレベルが高い右上は、青の日本の選手が占めているとわかる。

この走力は日本の戦いを支える大きな武器になるとグッドル氏は指摘する。
トム・グッドル氏
「日本の数値は、世界的に見てもかなり高く、世界最高水準だ。サッカーは走力がすべてではないが、ドイツが日本の高い運動量についていけるかどうかに注目したい」

酷似する日本とドイツのプレス戦術

日本とドイツはワールドカップでどんなサッカーをするのか。

実は両チーム、相手にプレッシャーをかけてボールを奪いに行く「プレス」に大きな特徴がある。

まず日本。

ワールドカップに向けた強化試合で、前線の選手が高い位置から積極的にボールを奪いに行く「ハイプレス」を使ってきた。
できるだけ相手ゴールに近い位置でボールを奪い、チャンスにつなげるのがねらいだ。
一方、ドイツのプレスは、ボールを奪われた瞬間に複数で襲いかかり、5秒以内で奪い返す「ゲーゲンプレス」だ。
ボールを奪われた瞬間は相手チームが前掛かりになる。

その瞬間にボールを奪い返し、強烈なカウンター攻撃を生み出すのがねらいだ。

いずれも守備からカウンター攻撃につなげるねらいを持つ日本とドイツ。

両チームがピッチのどの位置でボールを奪いに行っているのかグッドル氏が調べた。
データ提供:HUDL<Defensive Duel Location>
このピッチ図は、ボールを奪うアクションを起こした場所をポイントで示している。

左側が日本で、右側がドイツのデータだ。

両チームともポイントはピッチ全面に広がっている。

そして白い点線はすべてのポイントの平均を示す。

日本、ドイツともピッチの中央付近にあることが分かる。

相手の攻撃を自陣のゴール前で止めるサッカーをするチームだとこの点線は、もっと自陣近くの低い位置にある。

実際、世界平均はもっと低い位置だ。

日本とドイツの点線がピッチの中央付近にあるのは相手ゴールに近い位置でプレスをかけ、ボールを奪いに行くスタイルが徹底されているためだという。

さらにグッドル氏は5秒以内でボールを奪い返した回数を調べた。

その結果は日本が6試合で合計388回。

ドイツが合計390回とほぼ同数だった。

両チームとも相手が前掛かりになった瞬間にボールを奪い返そうとしていることが分かる。

「ハイプレス」「ゲーゲンプレス」と違う呼び方をされているものの、日本とドイツのプレス戦術は極めて似ていることがデータから浮かび上がった。

“プレス強度”もほぼ互角

では日本とドイツのプレスはどちらが強力なのか。

プレス強度を示す「PPDA」と呼ばれる指標をつかって分析を行った。

PPDA(=Pass Per Defensive Action)は自チームがボールを奪いに行く間に、相手チームに、何本のパスを回されたかを数える。

プレスが強力であればあるほど相手はパスを回しにくくなるため、数値が低いほど強いプレスをかけていることを示す。
データ提供:HUDL<Pass Per Defensive Action>
左の図はパスを4本回されたあとにカット。

右の図はパスを2本回されたあとにカット。

この場合は右のほうがプレスが強力ということになる。

PPDAの世界平均は13.50。

これに対し、ドイツの6試合平均は10.07。

日本の平均は9.20。

やや日本が上回る結果が出たが、ほぼ同じレベルの強度だという。

両者の対戦は、ボールの激しい奪い合いが繰り広げられる、きっ抗した展開が予想されるとグッドル氏は語る。
トム・グッドル氏
「日本のプレスは世界的に見てもとても激しい。それがPPDAの数値に表れている。両チームの実力はほぼ互角。常に同じような戦いをしていて、不思議なほど似ている。日本とドイツの戦いは、興味深く、エキサイティングになるだろう」

ゲーゲンプレスを恐れずパスをつなげ

最後にグッドル氏は、データから浮かび上がった、日本の勝ち筋について語った。

ゲーゲンプレスを受けてもひるむことなく、積極的にパスを通し、突破を仕掛けることが最も大切だという。
トム・グッドル氏
「今回、分析した6試合で、日本は攻撃的なプレスを仕掛けてくるチームにも、素早いパス回しでプレスに打ち勝つことができていた。ドイツも間違いなくプレスをかけてくるが、日本の勝利の可能性は十分にある」
出来すぎているようにも感じる、今回の分析結果。

本当に日本に勝機はあるのか。

リップサービスではないか。

取材の最後に、筆者は改めて尋ねた。

すると、グッドル氏は語気を強めて語った。
トム・グッドル氏
「日本はドイツに全くひけを取らないことをデータが示した。むしろ世界の中でも最高水準に達している。それなのに、なぜあなた方は弱気になるのか。日本が自分たちのプレーを体現できれば必ず勝てる」
悲願のベスト8へ。

幾度となく跳ね返されてきたその壁を、今度こそ越えていく日本の選手たちの姿を、カタールの地で見られることを願っている。
スポーツ情報番組部 ディレクター
渡邉光里
2014年入局
新潟局、社会番組部(おはよう日本)を経て、2019年から現所属
多くのプロサッカー選手を輩出してきた静岡・藤枝東高校出身者として、今回のFIFAワールドカップ取材は、何かの使命だと感じています

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