イヌとヒトの絆

イヌとヒトの絆
コロナ禍で在宅の時間が増え、ペットを飼う人が増えたとも言われていますが、今回は、私たち人間の長年のパートナー、イヌに関する最新研究についてです。

問題に挑戦!

まずはイヌに関する入試問題を見てみましょう。
問題
生物の系統と進化に関する文章を読み、答えよ。
キリンは、ハツカネズミよりイヌと近縁であることが分かっている。この系統樹で、イヌはAとBどちらに入るか?

(大学入試センター試験 2017年 生物 改題)
正解は「B」です。実はことし、イヌの研究で続々と新たな発見があったんです。

ヒトに頼る「欧米犬種」

イヌとヒトの関係は古く、およそ3万年前からともに生活をしているとも言われています。その中で、「欧米犬種」と呼ばれるイヌに、長い年月の間である変化が起こったことが、ことし6月に発見されました。
その発見をした麻布大学の研究チームの教授、菊水健史さんに話を聞きました。今回の新たな発見で、どんなことがわかったのでしょうか?
菊水さん
「欧米犬種は、目を使って、例えば『おやつとって』とか『お水ちょうだい』とか『ドア開けて』とお願いしてくるが、遺伝子が変わることによって、その行動を示すようになった」
イヌがヒトとともに生活を始めてからの長い歴史の中で、ヒトに助けを求める行動を取る遺伝子が組み込まれたことを明らかにしたのです。

菊水さんの研究チームは、欧米犬種と、日本犬を比較しました。
しば犬などの日本犬は、イヌの祖先のオオカミに近い古代犬種とされています。
一方、人為的に犬種を掛け合わせてさまざまな種類を作ったのが、欧米犬種です。狩りに優れた猟犬や、愛玩犬などを生み出してきました。

実験では、容器に餌を入れてフタをしっかりと閉め、どんな行動を取るか観察しました。

まずは、日本犬。
懸命にフタを開けようとし、飼い主のほうは一切見ません。40秒以上自力で頑張りました。

次に、欧米犬種は…。
20秒後には諦めてヒトに助けを求めました。
ヒトが目的に合わせて生み出してきた欧米犬種ですが、菊水さんは逆にイヌの側もヒトに頼ることで生き残っていくという知恵を身につけてきたと言います。
菊水さん
「ヒトからかわいがってもらい、たくさんおやつをもらって『いい子いい子』してもらえると気持ちもいいし、健やかに育っていって子どももたくさん産めるようになる。ヒトの心の隙間に入っていって、自分たちの数を増やすようなことをイヌもしていて、イヌというのは変わっていった。お互いにメリットを与えながら一緒に住むという関係ができたと考えられる」

ヒトとイヌの共通点

さらに欧米犬種、日本犬にかかわらず、ヒトとイヌはコミュニケーションするうえで共通点もあります。
それは、目の構造。
多くの動物では黒目のみが見えていますが、ヒトとイヌは、白目と黒目がはっきり分かれています。
菊水さん
「白目と黒目がしっかり分かるものは何を見てるかというその視線の先が理解しやすい」
菊水さん
「例えばヤギを倒すとき、イヌの場合はみんなで『これがターゲットだよ』というふうに情報を共有して追い詰めていき、その獲物を倒す。同じように人間も狩りをするときや生活するとき、互いに協力する際に視線を使って協力行動を促している。それがどこか草原で出会って『ああ、君たちも協力態勢できているじゃん』ということで、今度は動物種を超えたヒトとイヌの間の協力というのが生み出されてきたと思っている」

目によって“心”も通わせるヒトとイヌ

ことし8月、菊水さんの研究チームは、ヒトとイヌが、目によって心も通わせていることを証明しました。
研究チームは、イヌが飼い主と長時間別れた後に再会すると、涙の量が増えることを発見したのです。涙の量に関わっていたのが、イヌがヒトと親密な行動をとるときに分泌されるホルモン「オキシトシン」。つまり、“絆”で結ばれたヒトと再会した喜びによって、涙の量が増えたと考えられます。
さらに、目が潤んだイヌのほうが、そうでないイヌと比べ、ヒトによい印象を与えることも分かりました。
菊水さん
「うれし涙を流すというのは、ヒトに限られていると信じられてきたが、今回イヌにも、動物にもあるということを示せたということは、僕の中では喜びで、やっぱりイヌのような動物でも喜びがあって感動しあって涙を流して、それが相手にまで伝わる。なので動物というのも、ヒトとはもちろん違うにしても『心』というのを持っていて、私たちはそれを大事にしていかなきゃいけないんだなというふうに感じた」
菊水さんは今後は視点を変え、イヌを飼うことによって人間の側がどう変わっていくかを研究するそうです。

イヌを飼っている人どうしで飼い主のコミュニティができたり、イヌを連れて歩いていると面識のない人が話しかけてきたりと、イヌが人と人のネットワークをつないでいくことがありますよね。これによって、人の幸せや他者に対する寛容性などがどのように変化するかを見ていくということでした。
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