WEB特集

“世界を変えるZ世代”人気ブランドの戦略に感じた“温度差”

大谷翔平、松山英樹…こうした人たちとともに経済誌「Forbes」が選ぶ「日本発・世界を変える30歳未満30人」の1人となった小澤杏子さん。
いま20歳の大学生で、大企業のアドバイザーとしても活躍している“アクティビスト”の小澤さんが、強く意識している将来課題の1つが「気候変動」です。
(千葉局 記者 岡本基良/横浜局 記者 齋藤怜)

“世界を変える”大学生

小澤杏子さんは高校生の時、バイオ燃料の原料となるミドリムシの培養で知られる「ユーグレナ」に「CFO=最高“未来”責任者(Chief Future Officer)」として応募、登用されました。

プラスチックを削減するため、飲料用ペットボトル商品の全廃など、環境に配慮した事業戦略を提言。

経済誌が国内で選ぶ「世界を変える30歳未満の30人(30 UNDER 30 JAPAN 2021)」の1人になったのです。
小澤杏子さん
小澤杏子さん
「世界中の誰もが環境に配慮した行動を、日常的にとれるような社会をつくることが目標です。理想を語って終わるのではなく、確実に社会を変えていきたい」
現在も、大学で学ぶかたわら、ファッションビルなどを運営する「マルイ」のアドバイザーを務め、持続可能な事業の在り方などについて若者の立場からの意見を求められています。

環境省担当記者を務めていた私(岡本)は、気候変動問題を長く取材し、報道してきました。

地球規模の大きな課題に対し、捉え方は千差万別。

目の前で起きている災害の報道などと比べ、なかなか伝わらないもどかしさを感じてきました。

気候変動の影響を強く受ける“Z世代”の1人として、企業の経営層から意見を求められている小澤さんと、「伝える」ことについて一緒に考えたいと思いました。まず、私がいま勤務している千葉で、先進的な取り組みが行われている場所を訪ねました。

ソーラーパネルとファッションブランド

千葉県北東部にある匝瑳市。

成田空港から銚子方面に車で30分ほど進むと、広大な平地に太陽光パネルが広がっています。

設置されている面積は東京ドーム4個分以上にのぼります。
太陽光パネル(千葉県匝瑳市)
こちら、単なる「メガソーラー」とはひと味違います。

看板には、海外のファッションブランドの名前が次々と。
さまざまなブランドの看板が…
大学で持続可能な社会について学んでいる小澤さんは、早速反応しました。
小澤さん
「パタゴニアとかの看板がここにあるっていのは正直びっくりですね。あんまり人がいないところなのに。看板があった企業は、出資をしているのですか?」
施設を管理・運営しているのは「市民エネルギーちば」という株式会社。

社債の引き受けという形で出資を受け、ここで発電された電力を各企業に買い取ってもらいます。

会社を経営する東光弘さんは単なる企業への売電とは異なる、といいます。
市民エネルギーちば 東光弘さん
市民エネルギーちば 東光弘さん
「自然の力を使いながら、人間の知恵によってお金が循環していく、このことを“緑のお金”と呼んでいます。このお金で、地域を復活させているところなんです」

太陽の光を“シェア”する

地域の復活?
小澤さんの足元、草むらのように見えた場所にその答えがありました。
パネルの下で育つ大豆
高く設置されたパネルの下では主に大豆を育てています。
市民エネルギーちば 東光弘さん
「パネルどうしのスペースを空けながら設置し、木漏れ日のように畑まで太陽光が届くようにしています」
さらにこの土地は、もともと人工的に造成され、その後は耕作が放棄され、荒れていました。

企業から受けた出資金や売電による利益は、農地の整備のための費用や、栽培や収穫を委託している地元の農家に協力金などに使われています。

担い手不足の解決など、地域活性化にもつながる“緑のお金”というわけです。
ここでは太陽の光をソーラーパネルと畑で“シェア”していますが、農地で太陽光発電をしていくことを「ソーラーシェアリング」といいます。

その考えを象徴していると小澤さんが思ったのが、こちらの看板。

発電施設をお店と位置づけ、ソーラーシェアリングのコンセプトを表しています。
ロンハーマンの看板(赤枠部分の翻訳は下に)
3階…Love=未来への希望(出資している企業と「市民エネルギーちば」、そして農家とのつながり)
2階…ソーラーパワーによる発電
1階…有機農業(微生物をいかした農法)
地下1階…持続可能な地球
小澤さん
「すごい。ソーラーシェアリングの表層的な部分は理解していたんですがここまで循環が成り立っていると思ってなかった」

企業に感じる“温度差”

一方で、小澤さんは冷静な一面も持っていました。
小澤さん
「ことばを選ばずに言うと、まだ価格的に難易度が高いところだと思うんです。なぜ企業は、いま注力する必要があるのでしょうか?」
企業でプレゼンをする小澤さん
高校2年で「CFO」に選ばれ、提言を実現に導いた小澤さんは、さまざまなメディアに取り上げられたり、企業にも呼ばれて意見を述べたりする機会が多くありました。

多くの企業を見てきた中で、見せかけだけの環境対策や本気度の違いをたびたび感じてきたのだそうです。

“アクティビスト”というカテゴリーに違和感を持つことも。
小澤さん
「私は環境活動家、というわけではありません。自分を表すことばが無いと思っています」

調達したい電力が市場になかった

出資している企業側にも話を聞くべきだと思い、企業の1つにアポイントをとりました。

アメリカに本社があるアウトドア用品メーカー「パタゴニア」です。
世界各国は、気温上昇を産業革命前に比べて1.5℃に抑えようという目標を掲げています。

中でもここは、世界有数の先進的な取り組みを続ける企業として知られています。

ことし9月には、創業者が自分と家族が保有する全株式=30億ドル(日本円で4000億円余り)分を環境保護団体などに寄付して話題になりました。

店内に「必要のないものは買わないで」と看板を掲げて大量生産・大量消費に警鐘を鳴らすキャンペーンも実施しました。

東京 渋谷にある店舗の電力は再生可能エネルギー100%でまかなわれ、もちろん、千葉県の匝瑳市で見たソーラーパネルの電力も使われています。

日本支社で環境に関する責任者を務める篠健司さんは「当初、調達したい電力は無かった」と言います。
パタゴニア 日本支社 篠健司さん
「ビジネスとして、いかに環境に対する悪影響を抑えながら経営をしていくかというところに価値観を持っています。発電以外にも社会的・環境的なベネフィット(利益)を及ぼすプロジェクトを求めていたんです」
再生可能エネルギーの中には、斜面を切り崩して太陽光パネルを設置して、災害リスクを高めてしまったり、住民とトラブルになったりしているものもあります。

企業側の価値観に、千葉での「ソーラーシェアリング」は見事に合致したというわけです。
パタゴニア 日本支社 篠健司さん
篠健司さん
「1つの企業が再エネを調達したからといって問題が解決するわけではないと思います。しかし、ソーラーシェアリングの場合、耕作放棄地を再生して発電ができる。再生可能エネルギーの調達の考え方の中には、追加性(アディショナリティ)という考えがあります。それが新しいプロジェクトに関わる意味でもあると思います」
世界的に環境対策をリードする企業ならではの発言に圧倒されつつ、小澤さんらしい感想を口にしました。
小澤さん
「すばらしい考え方だなと思いつつ、どうしても広がっていかないっていうのが、昔からもあった課題だと思います。今後もきっと、意識を持てる会社と、持てない会社の差が広がっていく一方だなと思ってしまいます」

社会、そして同世代との“温度差”

小澤さんの活動の始まりは、中学生の時、原発事故に関する新聞への投書です。
「若者は自分がすでに知っている少しの情報だけで、つまり独断と偏見で物事を決めがちである。私も気付かずにそうしていたのだろう。より柔軟な考えを持てる大人になれるよう努力したい」(毎日新聞2018年3月3日朝刊への投書より一部抜粋)
学校で原発を考える授業があり、原子力の研究者だけでなく、学校の社会と化学の先生から、それぞれ講義を受けて、物事を異なる視点から見ることの大切さを知ったそうです。

「気候変動」は将来を左右する大きな社会課題として強く意識してきた小澤さん、“世界を変える30歳未満”となり、今ではひろゆきさんといった論客とインターネットテレビで議論することもあります。

活動の幅が広がる中、最近気になる事があるといいます。
小澤さん
「自分の意見は同世代の中でズレていないのだろうか、と気にしてきました。同級生と話すよりも企業の経営者と話したり、メディアで討論したりするほうが多くなってきて、同世代の感覚とは違うんじゃないかと心配になる時があります」

“温度差”を埋めるには

小澤さんが感じた社会や企業との“温度差”

埋めるために、どうしたらよいのか。

環境に関する投資について多くの企業で経営コンサルタントを務め、信州大学特任教授でもある夫馬賢治さんを訪ねました。

“対策遅れはリスク 市民が企業応援を”

経営コンサルタント 信州大学特任教授 夫馬賢治さん
経営コンサルタント 信州大学特任教授 夫馬賢治さん
「いま世界の大手企業の間では、気候変動に対する危機感が募る中、気候変動対策を取っている取引先を選ぶ傾向があります。対策が遅れているとサプライチェーンから出されてしまうおそれもあります」
さらに夫馬さんは、日本企業の遅れを指摘しました。
夫馬さん
「日本の企業は、欧米などと比べて5~6年くらいギャップがあると思います。消費者や市民がファンになることは企業にとって大きな糧ですので、温度差を縮められるのかは、われわれが企業を応援することにもかかっていると思います」

“残りはもうわずか 社会と個人の変革必要”

では、同世代や社会との温度差は。

気候変動のメカニズムが専門で、東京大学の渡部雅浩教授に聞きました。
小澤さん
「みんなで理解して前に進もうというのが理想ですけど、一部には、懐疑論というか、『地球温暖化は進んでいない』という話も出ています。どう説明したらこの現実を提示できるのでしょうか」
東京大学 渡部雅浩教授
東京大学 渡部雅浩教授
「まず地球温暖化を疑う人に対しては、もう事実なので、観測事実をいえばいいと思います。また、やがて地球は次の氷河期に突入するはずだから、という議論もありますが、次の氷河期が来るサイクルは10万年スケールで、今の人間活動によって気候が変わるのは100年のスケールです。温室効果ガスを突然削減しても、今はその効果は出ません。だけどその先、気象の極端化は防げる。そういう考えで変わらないといけないと思います」
気温上昇を産業革命前に比べて1.5℃に抑えようという目標の重要性をどう伝えていくべきか、小澤さんは尋ねました。
渡部教授
「1.5℃を超えて、2℃などになると、世界がガラガラと崩壊するわけではないです。ですが、極端な豪雨や猛暑などの悪影響は、気温上昇が進めば進むほどひどくなり、“極端化”していくんです。もう1.1℃まで上がっていますから、残りはわずかです。社会全体で一人一人が意識を変えるところと、トップダウン的なやり方で国や企業などが率先して大きくシステムを変えていくこと、その両方かみ合って初めて実現できるかもしれません」
小澤杏子さん
「私たちの次の世代が大きな影響を受けるということだと思います。自分たちでできることは限られていると思いますが、企業の方々が本質的に社会問題を取り組めるような意識になるよう、問いかけていければと思っています」

“アクティビスト”から“カミクダキスト”へ

意見を交わしながら進めた取材は、5日間におよびました。

同じZ世代のインフルエンサーたちに「社会問題をわかりやすくかみ砕く、カミクダキストだね」と言われていた小澤さん。

確かに、世界を変える“カミクダキスト”になると感じました。

私も、より多くの人に伝わることばや方法を、模索し続けようと思います。
千葉放送局 記者
岡本基良
2009年入局
社会部の環境省担当などを経て、現所属でも気候変動の取材を続ける
大学での専攻はエネルギー工学
横浜放送局 記者
齋藤怜
2016年入局
初任地の水戸局では震災や原発の取材を担当
2021年11月から横浜局で県警担当

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