“池袋暴走事故遺族をSNS上で中傷” 初公判で被告側は無罪主張

東京 池袋で暴走した車にはねられ、妻と娘を亡くした遺族をSNS上で中傷したとして侮辱罪などに問われている被告の初公判が開かれ、被告側は遺族を侮辱する意図はなかったと無罪を主張しました。

油利潤一被告(23)は、2019年に東京 池袋で起きた事故で妻と幼い娘を亡くした松永拓也さんを侮辱しようと考え「金や反響目当てで闘っているようにしか見えない」などの内容をツイッターに投稿したとして侮辱罪に問われています。

また、2008年に東京 秋葉原で起きた無差別殺傷事件を思い起こさせる内容を投稿し、歩行者天国を中止させるなどした偽計業務妨害の罪にも問われています。

16日に東京地方裁判所で開かれた初公判で、被告側は投稿したことは間違いないが、松永さんを侮辱する意図はなかったと無罪を主張しました。一方、偽計業務妨害については起訴された内容を認めました。

被告は投稿した理由について「大阪で起きた似たような事故の記事を松永さんに見てもらいたかった」と述べました。

検察官から「批判する相手を特定して送ったのではないか」と尋ねられると、しばらく沈黙した末に「意味が分かりません」と答えました。

侮辱罪については、SNS上のひぼう中傷対策を強化するために法定刑の上限を引き上げる法改正が行われましたが、今回はことし7月に改正法が施行される前の事件で、有罪と判断された場合も以前の法定刑が適用されます。

松永拓也さん「心から向き合ったのか疑問 残念だ」

初公判を傍聴した松永拓也さんは「事実関係を認めつつも、私をひぼう中傷する意図はなかったということだった。何を言うのも加害者の権利だが、妻と娘の名前などを出した文面を送っておいて、私への侮辱ではないというのはさすがに無理があると感じる。被告がこの何か月かの間、自分自身や書いたことなどに本当に心から向き合ったのかと疑問に感じ、残念だ」と述べました。

また「ひぼう中傷を受け、本当につらかった。自分のことを『金や反響目当て』と書かれたのもつらかったが、妻と娘のことを中傷されたのが本当につらくて、これがネット上のひぼう中傷のおそろしさかと感じた。私が死を選ぶことはたまたましなかっただけで、中にはことばを受けて命を絶つ人もいるかもしれない。ひぼう中傷が起きないよう社会の一助となる活動につなげていきたい」と話しました。

ひぼう中傷が深刻化 改正法が成立

インターネットやSNSでのひぼう中傷が深刻化する中、被害を受けた人たちの声を受けて対策は強化されてきました。

おととし、民放のテレビ番組に出演していたプロレスラーの木村花さんがSNS上でひぼう中傷を受け、22歳の若さでみずから命を絶ちました。この問題をきっかけに対策の強化に向けた議論が加速。

去年4月にはひぼう中傷を投稿した人物を速やかに特定できるよう新たな裁判手続きをつくる「改正プロバイダ責任制限法」が成立しました。

一方、投稿した人物に対する罪の重さは「30日未満の拘留」または「1万円未満の科料」で刑法の中では最も軽かったため「抑止力になっていない」などとして見直しを求める声があがりました。

池袋の暴走事故の遺族、松永拓也さんも交通事故防止の活動を行う中でひぼう中傷を受け、罰則の強化を求めてきました。

しかし、侮辱罪の厳罰化によって憲法が保障する表現の自由がおびやかされるなどと懸念する声もあり、国会での議論の末に、ことし6月、侮辱罪の法定刑の上限を「1年以下の懲役・禁錮」と「30万円以下の罰金」に引き上げる法改正が行われました。今回の裁判の被告が在宅起訴されたのは、改正法が成立した2日後のことでした。

改正法施行前の事件のため新たな罰則は適用されませんが、正式な裁判が開かれることについて松永さんは当時「罪と向き合って裁判に臨んで欲しい」と話していました。