【動画】“親ロシア”広がるアフリカ 背景には何が

欧米を中心に、ロシアへの圧力を強める国際社会。その成否のカギを握るともされるのはアフリカの国々の動向です。

ことしに入って、国連総会で「ロシアを非難する内容の決議案の採決」が3回行われました。いずれの決議案も賛成多数で採決されていますが、
▽3月は35か国、
▽4月は58か国、
▽10月は35か国が棄権しています。
そのうちの半数近くがアフリカの国々です。

この背景には何があるのか、南アフリカのケースを取材しました。

南アフリカ 「棄権」はアパルトヘイトが影響か

「すべての南アフリカ国民が黒人か白人かを問わず、いかなる恐怖も抱かずに胸をはって歩ける。人間の尊厳が保障された『虹の国』をつくると約束する」。

マンデラ氏がこう演説した1994年。南アフリカではアパルトヘイト=人種隔離政策が撤廃され、民主化を達成しました。

マンデラ氏が率いた与党「ANC=アフリカ民族会議」はその後も欧米と協調しながら、開かれた国造りを進めてきました。

しかし、ウクライナ侵攻以降、その南アフリカが国連総会でのロシアを非難する決議案の採決では一貫して「棄権」しています。

南アフリカ政府は、ウクライナの現状には「憂慮している」とする一方、棄権の理由について「決議案が建設的な結果をもたらさないおそれがある」などと説明しています。

専門家は、政府が”ロシア寄り”の姿勢をとっていて、その背景には歴史的な経緯もあると指摘します。
政治アナリストのウィリアム・グメデ氏は「南アフリカは中立という立場だが、これはロシアを間接的に支持している。歴史的に旧ソビエトはANC=アフリカ民族会議による反アパルトヘイト闘争を支援していたことがある」と指摘しています。

アメリカに対抗するため冷戦時代のソビエトは、アフリカの内戦などで左派勢力に肩入れしました。

南アフリカでは、反アパルトヘイト闘争を担ったANCを支援しました。

このため、民主化後、一貫して政権の座にある与党ANCの指導層の間で、ロシアに恩義があるとの考えが根強いと指摘されているのです。

「プーチン大統領はヒーロー」若者に広がる“親ロシア”

さらに、ANCの若い支持者の間でも欧米への不信感からロシア寄りの立場を鮮明にする動きが出ています。

若手の支持者が参加する青年同盟で国際関係の議長を務めるスコサナさん(30)です。

スコサナさんは数年前にロシアを訪れ、プーチン大統領と面会。

「プーチン大統領は地球でもっとも強い男だ。国民にとってのヒーローで世界にとってのヒーローだ。なぜならアメリカという乱暴者を押さえ込んでいるからだ」と言います。

9月下旬には、ロシアがウクライナの東部など4つの州で「住民投票」だとする活動を強行した際の“監視団”として、ロシア政府から現地に招かれ、南部のヘルソンやザポリージャを訪問しました。
インタビューでは「ロシアはウクライナを侵略しておらず、抑圧された人々を保護しようとしている。ロシアは自制しており市民を攻撃しないようにしている。ロシアが独裁国家であり侵略者であるという話は受け入れない」と、ロシアはウクライナの少数派を保護していて正しい行動をしていると主張しました。

“ロシア寄り”外交に反発の声も

一方、“ロシア寄り”と指摘される外交方針をめぐっては、反発の声も上がっています。

ANC政権への不満から、ことし4月には1200人が参加し、一部の州の分離独立を求めるデモも行われました。

ANC政権が、ロシアによるウクライナの一部の州の一方的な併合を非難していないことを逆手にとって、同じように住民投票を行って賛成多数になれば、独立を認めるべきだと主張しています。

独立を求める団体のメンバーは「南アフリカ政府にはモラルがない。正しいことをするのではなく、ロシアと仲たがいしないようにしている。全くおかしな判断だが、彼らの自治権を認めるのならばわれわれの住民投票にも文句が言えないはずだ」と述べています。

政治アナリストのウィリアム・グメデ氏は「経済危機が深まる中で投資が必要とされている。政府の外交姿勢によって南アフリカは世界からかけ離れている。欧米からの投資だって冷え込むことも懸念される」と述べ、政府の外交姿勢は欧米からの孤立を招きかねず国益に合致しないと分析しています。

「アメリカとロシアの代理戦争」と誤解する若者も

ANCの青年同盟の幹部による「ロシアは侵略しておらず、自制している」との発言。背景には欧米に対する極めて根深い不信感があると思われます。

アフリカはヨーロッパの植民地支配の犠牲となり、独立後も、欧米との経済格差に苦しんできました。欧米が自由や民主主義を唱えても「二枚舌」にしか聞こえないというのもある意味、無理がないことです。

そうした欧米への反発感情がロシア寄りの姿勢につながっているようです。
人々のロシア寄りの姿勢はほかのアフリカの国々でもかなり見られています。

取材した政治アナリストのウィリアム・グメデ氏は「アフリカの多くの若者はウクライナの戦争を『アメリカとロシアの代理戦争』だと誤って理解し、ロシアを支持している。アフリカでの、ロシアのプロパガンダもここ数年強化されている」と述べ、南アフリカだけではなくほかのアフリカの国でも、若い世代ほど反欧米の傾向が見られると指摘します。

欧米への不信感につけ込む形で、ロシアが積極的に情報戦をしかけていることもあると言います。

ウクライナ侵攻をめぐる国際社会の対応は、世界がもはや欧米先進国だけが主導的な位置にいるのではなくより多極化していることを示しているといえます。

それだけに、真に国際的な視点で世界の情勢を見ていくことがますます重要になっています。