古い自販機の活用術 こんな方法も

古い自販機の活用術 こんな方法も
愛媛県の山あいの町に突如現れた1台の自動販売機。売られているのは、たばこでも飲み物でもありません。お金を入れ、ボタンを押すと出てくるのは、小さな白い箱。いったい、何を売っているの?(松山放送局 八幡浜支局記者 勅使河原佳野)

使わなくなったたばこの自販機が

愛媛県内子町の五十崎地区。

国の伝統的工芸品に指定されている「大洲和紙」をはじめ、ものづくりが盛んなこの地区に、ことし9月、一風変わった自動販売機が誕生しました。
その名も「たば手ばこ」

「たばこ」と「玉手箱」をかけ合わせた名前です。

使われなくなったたばこの自販機を再利用したもので、お金を入れると小さなキャラメル箱が出てきます。

箱の中には、クリップやキーホルダー、和紙で作られたしおりなどが入っています。

いずれも、この地域で作られたものばかりです。
中央のキーホルダーは、地元で400年以上続くとされる伝統のたこあげをモチーフにした切り絵が収められています。

パートの女性が手作りしたもので1点1点デザインが異なります。

こちらは地元の紙すき職人が和紙で作ったボタンやマグネット。
内子町は平安時代が始まりとされる大洲和紙の産地として知られています。

自販機で販売されている作品の種類は16種類。

価格は、180円から800円です。

自販機を設置したのは、地元のまちづくり団体「五十崎企画委員会」です。
代表 稲月道隆さん
「この地区にはクラフト作品をつくる人が多いため、自動販売機にしてみたらどうかという話がありました。実際、商店街には使っていない販売機があったので、それを利用して始めることになりました」

ヒントになったのは…

「たば手ばこ」が誕生するきっかけとなったのは、町内にある別の自販機、「折り紙の自動販売機」です。

こちらもたばこの自販機を再利用していて、手裏剣や紙風船などの作品が数十円で売られています。

発案したのは、近くで雑貨店を営む岡野千鶴さんです。
たばこの自販機を再利用したのには理由がありました。

健康志向の高まりでたばこを買う人が減少していた2008年、自販機でたばこを買う際に成人であることを示すICカード「タスポ」が導入されました。

たばこを買う人が減る一方、タスポに対応する新たな自販機に切り替えなければならなかったため、岡野さんは自販機でたばこを売ることをやめました。

しかし意外な理由から、自販機を別の形で活用することにしたのです。
岡野千鶴さん
「たばこを売るのをやめたので、機械を処分しようと思っていましたが、近所の人に『真っ暗になって寂しいから何か自販機に入れて明かりをつけたら』と言われました。商売としてではなくて、明かりをつけるためだけに、折り紙の作品を販売してみようかなと思ったのです」
折り紙を販売してからことしで10年あまり。

メディアやSNSなどの影響で、今や全国から人が訪れる観光スポットとなっています。

岡野さんは、町内で新たにクラフト作品の自販機が現れたことを心から喜んでいます。
岡野千鶴さん
「とてもうれしいです。自動販売機がもっと増えてクラフト作品をめぐって町を回って過ごせてもらえたらいいですよね」

自販機は地元作家のセレクトショップ

「たば手ばこ」で売られる作品を作っているのは、地元のクラフト作家たちです。

その1人、青山優歩さんは、閉校した小学校を活用した建物で、2021年から印刷工房を開いています。
自販機で販売しているのは地元特産の大洲和紙を使ったしおりです。

しおりには、鉛でできた小さな活字を組み合わせて印刷する、昔ながらの活版印刷で文字を入れています。
まちづくり団体の稲月さんから声がかかり、二つ返事で参加したという青山さん。

街角にある自動販売機はショップよりも多くの人の目に触れるだけでなく、24時間購入することができるため販売機会が増えると歓迎しています。
青山優歩さん
「ひとつのセレクトショップをみんなでやっているみたいです。その中のひとつに私も入れていただいてありがたいです。自販機をきっかけに内子町のいろんな作家を巡ってもらえたらいいなと思います」
今は青山さんを含めて10組の作家の作品が販売されています。

中には、高校生のアーティストもいます。
9月に設置された自販機はその月だけで80個の作品を販売し、売り上げは3万380円でした。

10月は115個販売して5万1050円となり、想定した以上に売り上げが増えているといいます。

内子町をクラフト作品のまちに

まちづくり団体の稲月さんたちは、今後もクラフト作品の自販機を増やしたいと考えていて、すでに使われなくなった2台のたばこの自販機を地元の人から譲り受けています。

また、作品の種類も広げようと、新たな地元の作家を募集しています。

「たば手ばこ」をきっかけに町を訪れる人が増えることで、地元の人たちにも、内子町の魅力を再発見してほしいと考えています。
稲月道隆さん
「自動販売機を目指して内子に来ている人がいることを地元の人にも気付いてもらいたいです。そして誇らしげに『クラフトの自販機はあそこだよ』と紹介してもらえるようになればうれしいです」

取材後記

五十崎地区のお店の軒先にポツンとたたずむ「たば手ばこ」の存在は、地元の人から口コミで聞いていました。

実際に作品を買ってみると、箱の中からどんな作品が出てくるのかというワクワク感に加えて、手作りならではのぬくもりも感じることができました。

全国に設置されているたばこの自動販売機の数は、20年前のピーク時の2割以下にまで減少しているというデータもあります。

時代の流れとともに使われなくなったものに目を向けて、町の活性化のために新たな風が吹き込まれた「たば手ばこ」。

自販機を目指して、これから町にどんな人たちが訪れるのか、楽しみです。
松山放送局記者
勅使河原 佳野
2019年入局
八幡浜支局で南予地域の取材を担当