G20首脳会議前に ウクライナ情勢めぐり国際社会の分断浮き彫り

ロシアによるウクライナ侵攻をめぐっては、国連総会でロシアを非難する内容の決議が繰り返し採択されています。ただ、採決ではアフリカ諸国を中心に棄権に回る国も目立ち、G20=主要20か国の首脳会議を前に国際社会の分断が浮き彫りになっています。

ロシアのウクライナ侵攻を受けて、国連総会ではロシアを非難しロシア軍の即時撤退を求める決議や、ロシアによるウクライナの4つの州の併合の試みを無効だとする決議などが日本や欧米などの賛成多数で採択されています。

その一方で、採決では反対に加えてG20のメンバー国である中国やインド、それに多くのアフリカ諸国が棄権に回っています。

このうち、アフリカで唯一のG20メンバー国の南アフリカは「情勢を憂慮している」とする一方で、「建設的な結果をもたらさない」などとして棄権しています。

専門家はかつてのアパルトヘイト=人種隔離政策からの解放闘争で支援を受けた旧ソビエト時代からの歴史的なつながりや国民の間に広がる反欧米感情が背景となり、ロシア寄りの姿勢を取ったものだと指摘しています。

ウクライナ情勢をめぐりG20の中でも立場が分かれ、国際社会の分断が浮き彫りになるなか、15日からインドネシアで開かれるG20の首脳会議でどこまで足並みをそろえることができるかが課題になります。

南アフリカ ロシア寄りの姿勢と指摘も

アフリカで唯一、G20=主要20か国のメンバー国である南アフリカは、ウクライナ情勢をめぐり国連総会でのロシアを非難する内容の決議案の採決で一貫して「棄権」し、ロシア寄りの姿勢を取っていると指摘されています。

かつてアパルトヘイト=人種隔離政策で少数の白人が大多数の黒人を支配していた南アフリカでは、マンデラ氏が率いたANC=アフリカ民族会議が解放闘争を続け、1994年に民主化を達成して欧米と協調しながら国造りを進めてきました。

しかし、南アフリカはロシアによるウクライナ侵攻をめぐって、国連総会で行われたロシアを非難する内容の決議案の採決では一貫して「棄権」しています。
これについて、南アフリカの大学で政治学を教えるウィリアム・グメデ教授は、ANCがロシア寄りの姿勢を取っているとして、背景には反アパルトヘイト闘争でANCが、当時のソビエトの支援を受けていた歴史的なつながりがあると指摘しています。

そのうえで、グメデ教授は「欧米との経済格差が続き、近年、アフリカでは貿易ルールなどをめぐり欧米批判が強まっていて、南アフリカでも一部の特に若い世代で反欧米感情が高まっている。ウクライナの問題を欧米とロシアの対立と一方的にみなして、ロシアを支持する傾向がある」と分析しています。

また、ロシアがエネルギー分野での投資やメディアを通じてロシアに有利な情報の拡散にも力を入れるなど、アフリカでの影響力の拡大を目指していると指摘しました。

南アフリカ政権与党 ロシア支持行動 波紋も

南アフリカの政権与党、ANC=アフリカ民族会議の青年同盟が、ロシアのウクライナ侵攻をめぐりロシアを支持する行動や発言をしていて、国内で波紋が広がっています。

ANCは、南アフリカでかつて少数の白人が大多数の黒人を支配したアパルトヘイト=人種隔離政策の撤廃を求める解放闘争の中心となり、1994年に民主化を達成したあとは政権与党として国政を担ってきました。

このうち、ANCの若手メンバーが参加する青年同盟では、ウクライナ情勢をめぐってロシア支持の姿勢を鮮明にしています。

国際関係の議長を務めるクレカニ・スコサナさんら数人のメンバーは、ロシアがことし9月にウクライナの東部や南部の州で住民投票だとする活動を強行した際、ロシア政府から監視団として招待され、南部のヘルソンなどを訪れました。

スコサナさんは、NHKとのインタビューで「ロシアはウクライナの少数派を保護しようとしていて、住民投票は適切だ。ロシアがウクライナを侵略しているというのは欧米の見方であり、われわれはそれにくみしない」と主張しました。

スコサナさんは数年前にもロシアを訪れプーチン大統領と面会したこともあり、プーチン大統領については「アメリカという乱暴者を抑え込んでいる英雄だ」と自身の考えを強調しました。

こうしたANCの若手メンバーの行動や発言については、南アフリカ国内で「ロシアの侵略行為にお墨付きを与えるものだ」といった批判の声も出ていて、波紋が広がっています。

南アフリカ「西ケープ州」分離独立目指す運動強める

南アフリカでは、白人などが主体の一部の市民グループがウクライナ情勢をめぐる政府の姿勢がロシア寄りだとして非難し、南西部の主要都市ケープタウンのある州の分離独立を目指す運動を強めています。

このグループはケープタウンのある「西ケープ州」について、ANC=アフリカ民族会議が政権を担う南アフリカからの分離独立を目指し、2年前から活動を行っています。

ことし4月には大規模なデモ行進を企画し、主催者によりますと1200人以上が参加しました。

グループの主要メンバーのフィル・クレイグさんは、NHKとのインタビューで、「ANCの政権運営や外交姿勢とは相いれないと多くの人が考えている。将来的には民主的な住民投票を経て、独立を勝ち取りたい」と強調しました。

その理由の1つとして、南アフリカ政府がロシアのウクライナ侵攻をめぐり、ロシア寄りの姿勢を取っているとして、国連総会でのロシア非難の決議案の採決で一貫して棄権していることなどを批判しました。

そのうえで、クレイグさんは「ANC政権が、ウクライナの4つの州で強行された住民投票だとするロシアの活動を非難しないならば、西ケープ州で独立を目指す住民投票が仮に行われたら同じように結果を認めるべきだ」と主張しました。

一方、西ケープ州はワイン農園など白人が経営する大規模な農園が多くあり、南アフリカのほかの地域より経済的に豊かなことから、分離独立を目指す運動に対しては、白人富裕層の利益のためだという批判や反発も根強くあります。

G20議長国のインドネシア バランス外交展開

一方、G20の議長国を務めるインドネシアは、ウクライナ侵攻をめぐり対立する欧米側とロシア側の双方と関係を維持しながら国益を最大化するバランス外交を展開しています。

インドネシアはG20の議長国としてはロシアの排除には賛同せず、ジョコ大統領がG20の結束のもと対話による平和的な解決を訴え続けてきました。

また、議長国ではない立場では国連総会でのロシアを非難する決議の採択で内容によって賛成も棄権も行ってきた一方、ロシアを名指しで批判することは避け、欧米各国が科す制裁は行っていません。

インドネシアはこうした動きを「自由外交」や「自立外交」にもとづくものだとしますが、ロシアは感謝の意を示し、インドネシアに経済面で協力する準備があることを明らかにしています。
インドネシアに駐在するロシアのボロビエワ大使はNHKの単独インタビューで、「インドネシアのような友好国にはエネルギー分野で協力する用意がある」と述べ、ロシア産の原油や石油の取り引きについて議論を始めていることを明らかにしました。

インドネシアは産油国ですが、国内需要を賄うために原油や石油を輸入していて、閣僚の1人はロシアが国際価格より30%安い価格で取り引きを持ちかけていると発言しています。

また、ロシアのボロビエワ大使はインフラ整備や原子力発電の技術支援など協力できる分野は多くあるとしたうえで、「ロシアを孤立させることはできない。世界にたくさんの友人とパートナーがいる」と強調しました。

インドネシア 安全保障面で米との関係重視

インドネシアは、アメリカとの関係も重視し、特に安全保障面での関係を強化しています。

インドネシアは、アメリカ政府からシンガポール海峡に面するバタム島にあるインドネシアの海上保安機構の訓練センターの整備に去年、350万ドルの資金援助を受けました。

全国の職員を交代で集め、数か月にわたって訓練を行う施設で、ことしに入りアメリカの支援を受けて寮などが完成しています。

背景には、南シナ海南部の海域にある自国の領土、ナトゥナ諸島の沖合に排他的経済水域を設定し、南シナ海のほぼ全域の権益を主張する中国との対立が続いていることがあります。

インドネシア政府はこの海域で近年、中国漁船が中国の海警局の船とともに入り、操業する動きが相次いで確認されているとしています。

インドネシアにとっては海上警備能力の強化が課題となるなかで、安全保障面でのアメリカとの協力関係を深めることも重要になっています。

インドネシアの海上保安機構の幹部は「これほど広大で、多くの島がある海の安全を維持するのはかなり難しく、専門的な人材が必要だ。アメリカとは将来的にインフラだけでなく訓練でも協力していきたい」と述べ、期待を寄せていました。

ウクライナ情勢で発展途上国など独自の動き

発展途上国や新興国の間では今、ウクライナ情勢をめぐる欧米とロシアの対立とは距離を置き、双方から支援や協力を得ようと独自の動きが進んでいると専門家は指摘しています。

国際開発協力を専門とする政策研究大学院大学の大野泉教授は、南アフリカやインドネシアなどこうした新興国は「グローバルサウス」と呼ばれる国々に属するとしたうえで、「東西冷戦時代には、アメリカにも旧ソビエトにもくみせず、中立を保とうと連帯した第三世界と呼ばれる国々があった。冷戦後の現代でも、中立を守っていこうとする発展途上国や新興国のグループが出ている」と指摘しました。

そのうえで、こうした国々の動きの背景について「実利があるからだと見ている。したたかに考え、自国の発展の基盤を確保したいというのは当然だ」と述べました。

また今後、国際社会がどうグローバルサウスと向き合うべきかについては「ロシアのウクライナへの侵攻をめぐり白か黒か、どちらにつくのかと迫ってしまうと、それぞれの国で実利を考えたときに難しくなってしまう。どちらかに迫ることなく、環境問題など一緒に協力できるテーマを見いだし、みんなで望ましい方向に合意形成を進めていくことが必要だ」と指摘しています。