「ひいき目なしに余裕で翔平」水原通訳が語るMVP論

「ひいき目なしに余裕で翔平」水原通訳が語るMVP論
日本時間18日に発表される大リーグのMVP=最優秀選手。エンジェルスの大谷翔平選手は2年連続で受賞できるのか?

アメリカでは、リーグ新記録の62本のホームランを打ったヤンキースのアーロン・ジャッジ選手がMVPにふさわしいという論調が圧倒的だ。

しかし、大谷選手を最も近くで見てきた通訳の水原一平さん(37)は、これに真っ向から反論する。

二人三脚でシーズンを戦い抜いた水原さんにしか語れない、大谷選手の真の姿とは。そして大谷選手はMVP争いに何を思うのか。2人への単独インタビューで、迫る。
(NHKスペシャル取材班 アメリカ総局記者 山本脩太)

「ひいき目なしに、余裕で翔平」

水原さんは、エンジェルスで大谷選手専属の通訳を務めている。元々プロ野球の日本ハムで外国人選手の通訳を担当し、大谷選手の渡米とともにエンジェルスに入った。

本業である通訳だけでなく、試合前にはキャッチボールの相手役を務め、練習のデータを計測し、球場の行き帰りは大谷選手を乗せて車を運転する。

大谷選手ともっとも長く一緒に過ごしている水原さんは、ジャッジ選手とのMVP争いをどう見ているのか。

10月、シーズン終了直後に行ったインタビューで話題がそこに行くと、いつも穏やかな水原さんが珍しく語気を強めた。
「MVPレース自体は、ひいき目なしに見ても余裕で翔平だと思うんです。よくみんな言うのが、ジャッジ選手はプレーオフに進出する強いチームでプレーしていて、翔平は弱いチームでプレーしていると言うじゃないですか。

僕は、もし翔平が強いチームにいたら、個人成績はもっと伸びると思うんです。翔平の成績はプレッシャーのない試合で残した結果だとかも言われますけど、翔平はプレッシャーがかかるとアドレナリンが出てさらに活躍する選手なので。

どうモチベーションを保つのか難しい状況の中であれだけの成績を残したことは、逆に評価されるべきだと僕は思っているんです」

15勝+34HR vs. 62HR

大谷選手は今シーズン、ピッチャーで15勝、バッターでホームラン34本。ベーブ・ルースもできなかった規定投球回と規定打席の同時到達を成し遂げたが、エンジェルスは負け越し「16」でアメリカンリーグの西部地区3位に沈み、8年連続でプレーオフに進出できなかった。

一方、ジャッジ選手は東部地区で優勝したヤンキースでホームラン62本、131打点をマークし、ホームラン王と打点王の2冠に輝いた。

確かに置かれた状況には大きな差がある。では当の大谷選手はMVP争いをどう見ているのか?
「MVPに関してはわからないですし、自分がモーストバリアブル(最優秀)だとも思ってないです。もちろん自分がやったことが形になるかならないかは選手として大きなことだとは思いますが、それによって自分が目指すべき、例えば数字が変わってくることはないかなと思います」

「めちゃくちゃ低い」自己評価

自分がMVPだとは思っていなかった。

そう言えば、MVP受賞間違いなしだった去年のシーズン終盤も大谷選手は「絶対無理」と水原さんに漏らしていた。

水原さんによると、今シーズンも「ジャッジ選手は本当にすごい」「なんであんなに打てるの」と、ことあるごとに話していたそうだ。
「翔平は基本、野球の自己評価がめちゃくちゃ低いんですよ。ほかの選手のことは『すごいなあ』とか言ってすごく褒めるんですけど、僕が『いや、自分の方が全然すごいじゃん』みたいに言っても『いやいやいや』と。謙虚とかそういうレベルじゃない。なんなんですかね(笑)」
大谷選手の自己評価が低いのは、まだまだ野球がうまくなれるという思いの裏返しなのかもしれない。その思いが、とどまることのない大谷選手の進化を支えているのだ。

ことし3月、キャンプ中に行った単独インタビューで、私は大谷選手の野球への底知れない熱意に驚がくした。

もし6歳から…

「1日のできることをなるべく野球に割いて、野球の中で獲得できるものを多くしたいな、と。1日24時間よりも長い時間をもらえるんだったらアドバンテージになりますけど、残念ながらそこは一緒なので。無駄な時間というか、リラックスする時間すらもちゃんと管理したいし、野球に専念するところはしたいし、寝る時間もちゃんと管理したい。

もし6歳ぐらいからそういう考えでできていたら、もっといい選手になれたと思います。早い段階でそういうことを考えながらできたらよかったのかなと思うところもあるので、後悔しないように、現役のうちはやりたいなと」
6歳でそんなことを考える野球少年がいたら、もっとすごい二刀流選手が生まれるのだろうか。いくら大谷選手でもさすがに6歳からは無理だったが、20歳の頃にはすでにこの思考になっていたそうだ。

まだ28歳。キャンプ中のインタビューで「全盛期に差しかかってきている」と明かしてくれたが、いったいどこまで進化するのだろうか。

二刀流で2年連続で大活躍したシーズンを終えた後も、大谷選手は上しか見ていなかった。
「今はやっぱり不安しかないですね。去年もそうでしたけど、来年必ず結果が残るという保証もないですし、同じようなことをやっていてもなかなか同じ結果は出ない。毎年進歩していくのが大事なので」

ことしも「不完全燃焼」

オフで日本に帰国している今も、大谷選手はすべての時間を野球につなげた生活を送っているはずだ。すぐそばで見守る水原さんは、この先も進化を続けることを確信している。
「ことしも残った数字だけ見れば本当にすごいんですけど、翔平本人は不完全燃焼みたいに言っていて。本当に投打ともに伸びしろしかないので、このレベルをあと10年くらい持続することもできると思いますし、ホームランもいつか60本以上打つと思うんです。『60本打てるよ』と翔平に言うと『いやいやいや』と言われますけど(笑)。

でもやっぱりアメリカでプレーオフを経験してないので、その舞台で翔平がプレーすると一体どうなるのかは見てみたいです。やっぱり優勝するためにアメリカに来ているので、来年こそは」
来年こそはプレーオフの舞台で、負けたら終わりの場面で、投打にグラウンドを支配する大谷選手の姿を見てみたい。願わくはワールドシリーズの舞台で。

相手が強ければ強いほど、重圧がかかる場面であればあるほど、大谷選手は力を発揮する。完全燃焼した時の大谷選手はきっと、もっとすごいはずだ。
アメリカ総局記者
山本 脩太
2010年入局
スポーツニュース部でスキー、ラグビー、陸上などを担当
2020年8月から現所属