“ごめんなさい” ~長崎発 ねこの殺処分担う男性の独白~

“ごめんなさい” ~長崎発 ねこの殺処分担う男性の独白~
『ごめんなさい』

男性はそう心で謝りながら、緑色のボタンを押します。

動物が大好きな男性が行き着いた場所は、ねこを処分する場所。

葛藤と闘いながら、男性はボタンを押しています。
(長崎放送局記者 榊汐里)

ねこの街・長崎の皮肉な現実

ねこの街・長崎。

長崎の街を歩けば、至る所で愛らしいねこに出会います。

しかし、長崎は、ねこにとって最も残酷な街だということをご存じですか?

犬を含めた殺処分数は全国ワースト1。

坂が多い地形では車が入れない路地が多いこと、

そして、坂の上の空き家はねこが繁殖しやすいことが理由の1つとなっています。

毎年、1000匹以上のねこが命を絶たれています。

今回、長崎市で殺処分を担当する男性が、殺処分を減らしたいという思いから取材に応じてくれました。

男性が語ったのは、我々が目を背けてきた殺処分の現実です。
やっぱり自分でやってても、つらいです。

特に大きくなったねこは、処分機に入れただけで自分が今からどうなるのか分かるのか、ぐったりしているねこでも顔を上げてこっちを見てくるんです。

今から何が起きるの?みたいな感じで。

そして、つらいのは処分機のボタンを押すときです。緑色の丸いボタンです。

この瞬間が一番つらいですね。

家族にも殺処分の仕事をしていることは話しています。

でも家族はみんな動物好きなので、仕事のことはよく思ってないですね。

当初は「辞めたほうがいいんじゃない?」と言われましたし、いまも「長く続けないほうがいい」と言われています。

家族に「きょうはこういう猫の殺処分があった」と話したことがありました。

そうしたら「こうすればその子は生かしてあげられたんじゃない?」と返されて、それがずっと心に残ってるんです。

こうしてあげたら救えたのかなって。

いろいろ考えて、その子のことをいまでも思い出すことがあるんです。

幼いときから動物が大好きだった

私は、物心ついたときから動物が好きでした。

小学校3年生のとき、放課後に校庭で迷い犬を見つけたんです。

白い雑種の成犬でした。

その犬をだっこして自宅に連れて帰ると、母から「死んだときに悲しくなるから」ともとの場所に戻してくるように言われました。

でも、つぶらな瞳でこっちを見つめてきて、結局、それを見た母が折れて、飼うことになりました。

鷹のように家を守ってほしいという思いで、母がタカちゃんと名付けました。

人なつっこくて、全然番犬にはなりませんでしたけど(笑)
タカちゃんが亡くなったのは、8年か9年くらい前です。

私はすでに働いていて、妹が泣きながら電話をくれました。推定17歳でした。

やっぱり一番最初に飼った子だったので、すごくつらかったですね。

いまは一人暮らしのアパートで、母の友人から譲り受けたねこのマリンちゃんとスカイちゃんの2匹を飼っています。

こうして私はセンターにたどりついた

特にきっかけはないんですけど、将来は、動物を助ける仕事をしたいと思うようになりました。

大学受験では獣医学部を目指していて一浪までしたんですけど落ちてしまって、両親はもう1年浪人してもいいって言ってくれたんですけど、成人式のときにニートって答えるのが嫌だし、お金もかかるのでとりあえず働こうって思いました。

そこで入ったのが陸上自衛隊でした。

動物は関係なかったのですが、働いてお金を貯めて、それであらためて獣医を目指そうと思いました。9年働いた後、再び、獣医を目指すために辞めました。

その後、獣医学部の再受験を考えたんですけど、やっぱり、学生のときよりも学力が落ちているのを感じたので断念して、専門学校に行って動物看護師の資格をとりました。

動物看護師になって初めての就職先は山口県のサファリパークでした。

ライオンとトラの飼育員でした。

その後、地元長崎に戻って、動物病院で働き、そして1年半ほど前にいまのセンターで働き始めました。

私が殺処分を担当する理由

最初は殺処分に携わることはなくて、センターに収容されているねこと犬の世話をしていました。

えさやりとか散歩とか。センターに入ってきたばかりの子って人を怖がっている子が結構いるんですよね。

センターに引き取られた雑種の犬がいたんですけど、かなりひどい環境に置かれていたみたいで、最初はすごくおびえていたんです。

安心させてあげたくて、「ここは大丈夫だよ、怖くないよ」って話しかけていたら、徐々に伝わったみたいで、しばらくしたらしっぽを振ってくれるようになり、甘えん坊になりました。

心を開いてくれるまでの期間はそれぞれの子によって違いますが、そうなるとやっぱりうれしいし、すごくやりがいがありました。

転機となったのはことし1月です。

殺処分を担当していた同僚が辞めたんです。

そこで、業務は私が引き継ぎました。

この仕事は私もそうですが、動物が好きで入ってくる人ばっかりなんです。

そんな人たちにとっては、間違いなく殺処分はここで一番つらい業務です。

私は動物病院とかでほかの人よりは動物の死に慣れていると思ったので、私がやることにしました。

もちろん、私だってやりたくないですが、ほかの人にやらせたくなかったんです。

ねこはこうして殺処分される

殺処分の対象になるのは、センターの収容頭数がいっぱいのときに持ち込まれたねこと、けがをしていて回復が見込まれないねこです。

センターで収容できるねこは、およそ30匹。

収容頭数に余裕があれば、センターに持ち込まれたとしても殺処分の対象にはならずに譲渡を待つことになります。
ねこがセンターに持ち込まれる理由は、ほとんどが生活被害です。

畑を荒らされて困るとか、駐車場で繁殖していてどうにもできないという理由で、住民から持ち込まれます。

持ち込まれるのは子猫の野良猫が圧倒的に多いんですよ。

子猫が多い理由は、成猫にくらべて警戒心がないので、多分、人が捕まえやすいからかなと思います。

センターに持ち込まれたねこが殺処分されるかどうかはうちのセンターでは翌日に決まります。

けがをしたねこで回復の見込みがある場合は、回避されることもあります。

センターの所長と獣医師の資格を持っているセンターの職員、それと私が話し合って決めるんです。

持ち込まれてから、殺処分まで1日しかないのは、時間が経って世話を焼く時間が長くなるとどうしても愛着がわいてくるというのもありますかね。

そうなると、こっちもつらくなりますからね。
1匹1匹ではなくて、その日に殺処分の対象となったねこは、まとめて処分機にかけます。

多いときは6~7匹です。

ねこに痛みはないと思いますが、苦しいはずです。

窒息死ということになるので。

成猫だと機械の中で、バタバタしている音が聞こえることもあります。

そのときに思うのは、「ごめんなさい」です。

殺処分されるねこは本当に何も悪くないんです。

あの子たちも、生まれてきて、本当だったらしっかり育っていくはずだったのにこちらの都合で処分しなきゃならない。

生きたかっただろうなと思います。

申し訳ない気持ちでいっぱいになります。

センターでは、殺処分された動物を追悼するための慰霊碑を設置していて、毎年3月に慰霊祭をやっています。

それだけでは足りないと思ったので月に1度、慰霊碑の掃除をしていて、お花を手向けて手を合わせています。

弔いの気持ちと、せめてもの償いの気持ちでそうしています。

みんなに伝えたいこと

私の願いは人間の都合で殺されるねこがいなくなること。

そして、殺処分の仕事自体がなくなることです。

やっぱり命は平等だと思うので、人の都合に左右されてはいけないものだと感じています。

長崎では、いま、地域猫活動に力を入れています。

地域猫活動は野良猫の不妊化を進め、地域でねこを管理する取り組みです。

不妊化手術をすれば野良猫は減っていき、そうすれば苦情も減って、センターに持ち込まれるねこも減ります。

ただ、取り組みはまだまだ理解が広がっていないと感じています。

不妊化をしたところで、いま目の前にある被害はなくならないから、理解を得られていないのかなと思いますが、長い目でみれば、地域猫活動が自分たちのためにもなることを理解して欲しいと思います。

野良猫に餌をあげている人はよかれと思ってやっているんだと思います。

でも、それが繁殖の原因の1つとなり、そして殺処分につながっているんです。

そのことをもっと知ってもらいたいと思います。

わたしたちもしっかり頑張っていくつもりです。

センターでは、定期的に譲渡会を開催していますが、それ以外の日でもセンターに来て頂ければ、条件次第でその場で譲渡が成立することもあります。

ただ、なかなかそのことも知られていないので、これから、もっともっと発信していきたいです。

取材後記

男性は、殺処分をなくしたいという思いから今回、取材を引き受けてくれました。

男性が明かしてくれたねこの殺処分の現実。

そして、動物好きゆえに苦悩する男性の思い。

「命は平等で人の都合に左右されてはいけない」という言葉が強く心に残りました。

ルールを守らず野良猫に餌をあげること、面倒を見切れないほどのねこを飼うこと。

そんな行動がねこを苦しめ、男性を追い込んでいるのかもしれません。

男性が語ってくれた言葉が多くの人の心に響くことで、動物が大好きな男性が動物を殺すという皮肉な現実がなくなってほしい、心からそう思います。
長崎放送局記者
榊汐里
2019年入局
長崎局が初任地 県政担当
最初に飼った愛犬は、ミニチュアダックスの「花見ちゃん」