五輪組織委の元理事 4回目の起訴 賄賂総額2億円で捜査に区切り

東京オリンピック・パラリンピックをめぐる汚職事件で、東京地検特捜部は、組織委員会の元理事がスポンサーの契約業務を請け負った広告大手ADKホールディングス側と大会マスコットのぬいぐるみを販売した都内の会社に便宜を図り、総額5400万円の賄賂を受け取ったなどとして受託収賄の罪で追起訴しました。

元理事が起訴されるのは4回目で、賄賂の総額が2億円近くに上るとされる一連の事件の捜査は大きな区切りを迎えました。

受託収賄の罪で追起訴されたのは大会組織委員会元理事の高橋治之被告(78)で、元理事の知人で東京 千代田区のコンサルタント会社元代表の松井讓二被告(75)が共犯として収賄の罪で在宅起訴されました。

またいずれも贈賄の罪で
▽東京 港区に本社がある広告大手ADKホールディングスの前社長、植野伸一被告(68)と
▽元事業統括部長の久松茂治被告(63)
▽元事業統括部長補佐の多田俊明被告(60)の3人が起訴され
▽東京 千代田区にあるぬいぐるみの製造・販売会社サン・アローの前代表関口芳弘被告(74)と
▽代表の関口太嗣被告(50)が贈賄の罪で在宅起訴されました。

サン・アローのホームページによりますと、関口代表は9日付けで代表を退いたということです。

東京地検特捜部によりますと、高橋元理事は植野前社長らから依頼を受け、ADKのグループ会社がスポンサーの契約交渉を支援する業務などを請け負えるよう便宜を図った謝礼などとして、総額4700万円の賄賂を受け取ったほか、関口前代表らの依頼を受け、ライセンス契約をめぐってサン・アローに便宜を図った謝礼などとして総額700万円の賄賂を受け取ったとして受託収賄の罪に問われています。

賄賂とされる資金のうちADK側からのおよそ2000万円とサン・アローからのおよそ700万円は、いずれも高橋元理事が松井元代表が経営するコンサルタント会社の口座に振り込ませたとみられています。

高橋元理事が起訴されるのは、紳士服大手のAOKIホールディングス、出版大手のKADOKAWA、それに広告会社「大広」をめぐる事件に続いて4回目で、賄賂の総額はおよそ1億9800万円に上るとみられます。

元理事への強制捜査から3か月余り続いた東京大会をめぐる一連の捜査は今回の起訴で大きな区切りを迎えました。

関係者によりますと、植野前社長は起訴された内容を否定し、高橋元理事はいずれの事件についても不正を否定しているということです。

事件の構図は

高橋元理事が受託収賄の罪で起訴されたのは
▽紳士服大手、AOKIホールディングスと、
▽出版大手、KADOKAWA、
▽広告会社「大広」、
▽広告大手ADKホールディングス、
それに▽ぬいぐるみ製造・販売会社の「サン・アロー」の5つの企業をめぐる事件です。

元理事への賄賂は、総額で2億円近くに上るとされ、いずれも業界大手の
▽AOKIと
▽KADOKAWA、
▽ADKホールディングスは創業者や経営トップが贈賄の罪で逮捕・起訴されました。

高橋元理事の便宜とは

このうち、AOKIとKADOKAWAをめぐる事件では、元理事が東京大会のスポンサー選定などに関して2社の幹部から依頼を受け、便宜を図ったとされています。

また、広告会社の大広とADKをめぐる事件では、スポンサー募集や契約業務の一部を請け負えるよう元理事が依頼を受け、組織委員会の窓口だった電通側に働きかけていたとみられています。

高橋元理事は電通の元専務でスポーツビジネスの第一人者とされ、特捜部は元理事がその影響力も背景に不正な利益を得ていたとみています。

さらに元理事は公式ライセンス商品の契約をめぐっても大会マスコットのぬいぐるみを製造・販売していた「サン・アロー」に便宜を図り、賄賂を受け取ったとして9日、受託収賄の罪で追起訴されました。

この事件で元理事の共犯として収賄の罪で在宅起訴され賄賂とされる資金の送金先となったコンサルタント会社の元代表と、贈賄側として在宅起訴されたサン・アローの前代表はいずれも高橋元理事の大学の後輩で、特捜部は元理事が学生時代の人脈などをもとに不正を計画したとみています。

高橋元理事は、特捜部の調べに対していずれの事件についても「身に覚えがない」とか「賄賂を受領した覚えはない」などと供述し、不正を否定しています。

事件は裁判へ 争点は

一連の事件は、今後は裁判の場で争われることになります。

争点の1つになるとみられるのは元理事側に支払われた資金が賄賂だったかどうかです。

▽AOKIと▽ADKをめぐる事件では元理事が経営する会社にコンサルタント料として支払われた資金が賄賂として認定されました。

高橋元理事はコンサルティング業務に対する正当な報酬だったと主張するとみられ、裁判所の判断が注目されます。

また▽KADOKAWAと大広の事件では元理事の電通時代の後輩のコンサルタント会社への送金が、▽ADKとサン・アローの事件では大学の後輩のコンサルタント会社への送金が、それぞれ元理事への賄賂とされましたが、知人が経営する会社への送金が元理事に対する賄賂の提供と言えるかも争点になる可能性があります。

裁判では、検察と元理事の弁護側が全面的に争う構図となりそうです。

JOC山下会長「オリンピックやスポーツ界のダメージ大きい」

JOC=日本オリンピック委員会の山下泰裕会長は「JOCとしてもこうした事件を防げなかったことは大きな責任があると思っている。このようなことは今後二度と起きてはならない、起こしてはならない。同じようなことが起きたら、信頼回復は難しい」と述べました。

そのうえで「3年後には、陸上の世界選手権とデフリンピック、4年後には愛知でアジア大会が開かれる。そして、2030年は冬のオリンピック・パラリンピックを札幌市が招致している中、事件によってオリンピックやスポーツ界が受けたダメージは大きい」と話していました。

今後については、「いま考えているのはどういった仕組みを作れば再発防止ができるかだ。組織のガバナンスのほか理事の役割や構成、情報公開の在り方などを、法律家や公認会計士といった専門家の知見を生かしながら、スピード感を持って検討していきたい」と対策の具体化を急ぐ考えを示しました。

スポーツ庁 大規模大会での運営組織の指針策定へ 再発防止図る

今回の事件を受けてスポーツ庁はJOC=日本オリンピック委員会などとともに、大規模なスポーツ大会での運営組織の在り方などを定めた指針を策定し、再発防止につなげたいとしています。

東京オリンピック・パラリンピックでは、7800億円を超える多額の公費が投入され、大会組織委員会の理事や職員は「みなし公務員」として高い公共性が求められましたが、運営組織の透明性を図るためにガバナンスや体制はどうあるべきかという規定はありませんでした。

先月開かれたJOCなど、スポーツの統括団体のトップによるスポーツ庁の「円卓会議」では、今回の事件を受けてスポーツ界に厳しい目が向けられていることを重く受け止め、今後の大会では透明性や公正性を確保していくための取り組みを一層進める必要があるという声明が出されました。

そのうえでスポーツ庁やJOCなどは、2026年に愛知県を中心に行われるアジア大会や、札幌市が招致を目指している2030年冬のオリンピック・パラリンピックなどを念頭に、こうした大会の運営には自治体や公益財団法人が関わり公的な側面があるとして、大会の運営組織の在り方などを定めた指針を新たに策定することにしています。

指針の策定に向けてスポーツ関連団体のほか、弁護士や公認会計士などをメンバーに加えた会議を今月中旬にも立ち上げる予定です。

この中では、競技団体が守るべき規範を定めた「スポーツ団体ガバナンスコード」の内容を大規模大会の組織委員会にも適用するかどうかや、情報公開や外部監査の在り方、それに利益相反の考え方の明確化などについて、海外の事例も参考にしながら議論される見通しです。

スポーツ庁は「公的な側面もある大会の運営組織については、あるべき姿を検討していかなければならない」として大会運営の透明性を高め、事件の再発防止を図ることで信頼回復につなげたい考えです。