古いタオルがまるで新品に タオルは“サービス”で稼ぐ

古いタオルがまるで新品に タオルは“サービス”で稼ぐ
愛媛県今治市と言えば、国内最大のタオルの産地です。多くのメーカーがひしめく中、ある老舗メーカーは、「作る」のではなく「よみがえらせる」ことにビジネスチャンスを見いだしました。古いタオルがまるで新品のように復活するというのですが、どんなサービスなのでしょうか?今回特別に、家庭の洗濯機でもできるプロの技も教えてもらいました。(松山放送局今治支局記者 木村京)

“よみがえらせる”サービスとは

今治市の創業およそ70年のタオルメーカーです。
ことし5月、業界初のサービスとして始めたのが使い込まれてヨレヨレになったタオルを「よみがえらせる」メンテナンスサービスに乗り出しました。

会社には毎日のように客が使い古したタオルが全国から届きます。
家庭で洗われたタオルは、パサつきや硬さが目立ち、吸水性やふわふわの肌触りがなくなっているものが多いといいます。

このタオルをどうよみがえらせるのか?

使うのは、特注したスウェーデン製の洗濯機です。

タオル復活! その技とは?

まずは徹底的に汚れを落としていきます。
洗濯機の中に入れた後、除菌や殺菌効果のある溶液に40分間つけ置きします。

それから85度の熱湯と天然せっけんで煮洗いします。

すすぎも入念に行い、2時間20分かけて洗い上げます。

乾燥後、必要であればこの手順をもう1周繰り返します。
なぜここまで洗う必要があるのでしょうか。

会社によると一般的な家庭の洗濯ではどうしても洗剤や柔軟剤のすすぎ残しがでてしまうそうです。それがタオルに蓄積することで、においや黒ずみの原因になってしまうといいます。

「残留物」を取り除くには高温の煮洗いが重要です。家庭でも大きな鍋を使えば可能ですが、一定の温度を保つのが難しいということです。
洗い終わったタオルを取り出すと、両端をつかんで、バサッバサッと水けを払うようにタオルを伸ばします。

この作業が重要で、十分な風をタオルに送り込むことで風合いを取り戻すことができるそうです。

ほつれが見つかれば、丁寧に手作業で直します。
こうして生まれ変わったタオル。メンテナンスを定期的に行えば、10年は肌ざわりを保つことができるといいます。

サービスの価格はバスタオル7枚ほどで8500円とやや高価ですが、これまでに100件ほどの注文がありました。

サービスの利用者は、長く商品を使えることの価値を感じていました。
サービスを利用した人
「愛着のあるものをプロがケアすることで直せるものはどの世界でもあると思っていましたが、まさかタオル業界にもあるのはちょっと驚きですね」

アフターサービスに勝機あり

なぜタオルをメンテナンスするというサービスを考えたのか。

原料の多くを海外に依存する中で、池内さんは、従来の「タオルを作って売る」というやり方だけでは、いつか成長は頭打ちになるという懸念を強めていました。

また、タオル業界にも原材料高騰の波が押し寄せています。
タオルの原材料となる綿糸は2019年と比べて50%以上値上がり。ボイラーや機械を動かすために使う燃料の価格も高止まりが続いています。

こうした中、「売り切って終わり」ではなく、アフターサービスに商機があると考えたのです。

コロナ禍で消費者の意識が変わり、最近はSDGsの考え方も定着。よいものをより長く使いたいというニーズが高まっていることも追い風となりました。
池内代表
「メンテナンスというサービスで新しいビジネスが起きるかもしれないという感じがしています。特にコロナのこの3年間は、よいものを長く使いたいというお客さんが確実に増えている実感はしています」

サービス向上に欠かせないのは

サービスの質をより高めるために会社が力を入れているのが、顧客からの情報収集です。
この日、会社の担当者が訪ねたのは京都の宿。バスタオルやタオルを販売した取引先です。

商品を使い続ける中で、どのような悩みを抱えているのか丹念に聞き取っていました。
宿のオーナー
「何度も洗っているうちにタオルが硬くなってきました」

担当者
「ドラム式の洗濯機で洗い乾燥までしていますよね。ドラム式は、どうしても水の量が少なくなるので、水量を多くできるボタンがあれば、最大限まで多くすると改善しますよ」
会社にあるこのファイルの山。タオルに関する顧客の悩みなどが記録されていて「カルテ」と呼ばれています。

5~6000人分のデータが蓄積されているといいます。

会社では、タオルのメンテナンス事業を軌道にのせ、5年後には売り上げ全体の10%まで拡大することを目指しています。
池内代表
「いちばんのノウハウは、会社と客の距離が近くてお互いが情報を共有していることだと思っています。どうしてもものづくりの人は独断に走りがちですが、お客さんも時代とともに変わっていくのでしっかりキャッチしないといけないと思っています。最終的には会社の業績に結び付くと信じてやっています」

こっそり教えます プロの技

愛着のあるタオルは少しでも長く使いたいですよね。そこで今回、家庭の洗濯機ですぐに実践できる3つのコツをこっそり教えてもらいました。
1 水の量は多めに
今人気のドラム式洗濯機は節水機能が発達しています。会社によるとそれでも十分汚れは落ちますが、すすぎ残しをなくすためには水量を多めに設定するとよいそうです。

例えば容量が10キロの洗濯機でタオルを洗う場合、タオルは半分の5キロ程度(乾燥した状態で)までにしたほうがいいといいます。

また、タオルを濡らしてから洗濯機に入れると、タオルがすでに水を吸収しているため、その分水量を増やすことができます。
2 柔軟剤や合成洗剤は使わなくて大丈夫
会社によると、柔軟剤を使うと肌触りはよくなりますが、吸水性が落ち、残留物が落ちきらないリスクもあるそうです。

使う場合は規定の使用量より少なめのほうがいいと教えてくれました。

おすすめは洗濯機用の液体せっけんや中性洗剤などをお湯に溶かして使うこと。タオルに油分を与え、繊維へのダメージを抑えられるそうです。
3 洗ったあとタオルをよく振る
脱水後、タオルの両端を広げてつかみ3~4回大きく振りましょう。そうすることでタオルのパイル(表面の糸)が立つようになります。

また、乾燥させすぎにも注意が必要です。乾燥機に入れっぱなしや、外干ししたまま放置するとタオルに含まれている水分が失われます。

早めに取り込むことを意識するとパサパサになることを防げるそうです。

取材後記

今治タオルは品質が高いことで知られ、強いブランド力がありますが、それでも原材料価格の高騰で大きな影響を受けています。

タオルを売って終わりにするのではなく、アフターサービスで稼ぐという発想の転換には驚きました。
「長期的な視点で見れば、そのほうが業績に結び付く」と話していた代表のことばが印象に残っています。

消費者のニーズの変化を捉えた柔軟な対応が、厳しい時代を乗り切る1つの答えなのだと感じました。
松山放送局今治支局記者
木村 京
2020年入局
県警、県政の担当を経てことし8月から「焼豚玉子飯」発祥の今治支局で勤務
この取材で自宅での洗濯方法を見直しました