“わたしの心はポッキーだ。でも…” 不登校の姉妹 親子の選択

“わたしの心はポッキーだ。でも…” 不登校の姉妹 親子の選択
「学校に行きたくない」

もし、子どもが「不登校」になったら、みなさんどうしますか。

全国で不登校になっている小中学生は、令和3年度には24万人あまりと前の年度から25%も増え過去最多となりました。

これは小学校では77人に1人、中学校では20人に1人の割合で、不登校は今や珍しいことではありません。

一方、不登校に対する考え方、乗り越える方法も多様化しています。

愛知県に小学生の娘2人ともが不登校になった親子がいます。

悩んだ末に導き出した親子の“選択”を取材しました。
(名古屋放送局記者 佐々木萌)

姉妹2人ともが不登校に…

愛知県に住む小学6年生の山口真歩さんと、2つ歳下の4年生の結衣さん。

真歩さんは1年生のころから、結衣さんは2年生のころから、不登校の状態が続いています。
姉の真歩さんが学校に行けなくなったきっかけは、1年生のとき友だちの発言が自分に向けられているように感じたことでした。
真歩さん
「暴言が自分に言われているように思っちゃって。それを引きずってしまったんです」
そして、妹の結衣さんは、先生が苦手だったことと、友達から仲間外れにされたことが不登校になったきっかけでした。
母親の千恵子さんは、大きな戸惑いを感じました。

不登校になったら勉強もできず、給食も食べられない。

友だちもつくれないし、コミュニケーション能力も低くなってしまうのではないだろうか…。

不安ばかりが募り、なんとか娘たちを学校に行かせようと必死だったといいます。
「学校に行かせたい一心で、子育て講座にも何件も行ったし、相談所にも行ったし、スクールカウンセラーの先生にも相談したし。担任の先生にも、『この時間だけ来てもいいですか』とか、『嫌になったら、苦しくなったら帰ってもいいですか』と交渉してみたり、ありとあらゆること、考えられるすべての手を尽くしました。

主人の前で、『なんでだろう、わたしの育て方いけなかったのかな』って何度も何度も泣きました」

“学校に行かなきゃいけないって誰が決めたの?”

しかし、ある光景を見たとき、その考えは変わりました。

4年生の真歩さんを学校に連れて行った日のことでした。

嫌がる真歩さんをなんとか教室の前まで連れて行きましたが、いくら説得しても教室に入ることができません。

真歩さんの顔に目を向けると、吐きそうになって苦しんでいました。
千恵子さん
「真歩がここまで苦しんでいるんだと初めて目の当たりにしたときに、『ここに入れちゃいけない、ここには入れられないんだ』と思いました。学校に行かなきゃいけないって誰が決めたんだろう。それは親の都合だったり、世間の流れだったり。もしかしたら違う選択肢もあるんじゃないかなと思ったんです」
子どもたちにとって何が最もよい選択なのか?

夫と何度も話し合いを重ね、娘2人も入れた家族会議を開きました。

大切なことは何でも家族4人で話し合って決めるというのが山口家のルールでした。

そこでひとつの“選択”にたどり着きました。
千恵子さん
「学校へ行くのが正しいとかじゃなく、学校に行っても行かなくても明るく元気に育ってくれればいい。子どもたちが好きなことをいっぱいつくって、それをいっぱい伸ばしてあげようと、私たち夫婦は思ったんです。

ただそれだけでは生きていけません。“自立”が大切です。料理も自分でする、洗濯もできるようにする。1人でも生活できるように自立させようって」
不登校を「娘たちが選んだ生き方」と認め、登校を促すのをやめたのです。

心配は“学習の遅れ”

大きな心配は「学習で遅れをとらない」ということでした。

夫が会社勤めで、専業主婦だった千恵子さんは、教育費や習い事の費用などを捻出するため、パートにでることにしました。

子どもたちの勉強を自分たちだけで見るのには限界があります。

そこで活用したのが、行政が運営する、学習支援などを行う教室でした。
教室では、元教師などが子どもたちの学力やペースにあわせて勉強を教えてくれます。

ただ、学習の計画を立てるのは自分自身で、あくまでも自主的に取り組むことが求められます。

姉の真歩さんは、この日、学校で出された宿題の計算ドリルに取り組み、わからないところは自分で先生に聞いて、教えてもらいました。

一方、妹の結衣さんは、漢字ドリルに取り組みました。
教室で仲良くなった友達とのおしゃべりが楽しくて夢中になってしまうときもあるということですが、自分で決めたところまで勉強をやり終えてから、友達との時間を過ごしていました。

そしてお昼休み。

これが2人のお弁当です。
母親の千恵子さんに連れて行ってもらった料理教室で習ったことを活かして、自分たちでつくりました。

学校ではないものの、外の世界とつながりながら学んでいくことで、姉の真歩さんは、ある変化を感じるようになりました。
真歩さん
「ちょっと外に出られるようになったし、人と話すことが多くなったかな。ちょっと自分明るくなったのかなという感じもします」

“好き”を伸ばす時間

教室で勉強した後は、「自分の“好き”を伸ばす」時間です。

妹の結衣さんはアイドルになるのが夢です。

ダンス教室にも通っています。
家の中でも練習やトレーニングを欠かしません。

この日は子ども部屋で「日向坂46」の歌のダンスを披露してくれました。
結衣さん
「ダンスはとっても楽しいし、ダンス教室の先生はとってもやさしいし、すごく仲のいい子もいるし、楽しいなっていつも思っています」
一方、姉の真歩さん。

小さい頃から絵を描くことが大好きでした。
絵を描いた自由帳やスケッチブックは10冊以上。

YouTubeの動画やゲームの世界から、陰影の付け方など絵の技法を学び、アイデアを得てきたという真歩さん。

5年生のときからは希望して画塾にも通い、本格的に絵を学んでいます。

さらに、6年生になってからは自身の経験をつづった“SNS小説”にも挑戦しました。

題名は「不登校」。
「学校が嫌だから休んでる」

「明日はいいことあるかな」
自分の視点で思いを重ねた小説。

SNSのコメント欄には、たくさんの“いいね”と励ましのことばが寄せられました。
真歩さん
「ちょっとうれしかったです。ふつうの人にも不登校の子の気持ちわかってもらえるといいなって」
SNS小説の執筆を通じて、自分の気持ちの整理の仕方がわかったという真歩さんは、「一言日記」をスケジュール帳に書いたり、タブレット端末を使って、自分の素直な気持ちを記したり、自分の心の内や感じたことをどんどん表現するようになりました。
真歩さん
「書いた方がいいなと思って。気持ちが少し晴れるというか、あんまり見返したりもしないんですけど、書いておいたほうが少し気持ちが楽になる。人に伝えるより楽になるんです」

“遊び”の中にある学び

学習教室や習い事に通い、友達も少しずつ増えてきた真歩さんと結衣さん。

母親の千恵子さんは、学習に遅れが出ていないか気を配る一方で、“遊びから学ぶ”ことの大切さを実感するようになったといいます。
千恵子さん
「勉強は最低限のところまで、追いついていないとかわいそうだと思っていますし、遅れるとやる気もなくなってしまいます。どうやって勉強を楽しんでやらせようかというのが今の課題です。

ただ、ゲームからもYouTubeからも知恵や知識は吸収できると思うようになりました。真歩は絵が好きだから、そこから画力を吸収できました。YouTubeはいろんなことをしてるから、そこからなるほどと知識を得ることもできます。

だから、遊ぶこともまんざら悪いことではなく、“遊びの中には学びがある”と思うんです。遊びの中から、少しでも何か面白いことを見つけてくれないかなと思っています」

“私のこころはポッキーだ。でも…”

来年から中学生になる真歩さん。

6年生になってから、ある変化が見られるようになりました。

自分から朝の時間だけ学校に通い、連絡帳を書くようになったのです。

さらに中学校で自分が着る制服の話なども楽しそうにするようになりました。
そして自分のいまの思いを母親の千恵子さんに告げました。
「私のこころはポッキーだ。すぐ折れる。でも中学生になったら、割りばしになるかもしれない」
娘の成長を感じた千恵子さん。

親子4人で“選択”した生き方で一歩一歩前に進もうとしています。
千恵子さん
「あれだけ悩んだので、やるだけのことをすべてやったと思ったので。正しいかどうかはこの先にならないとわかりませんが、ただ“自立”にはちゃんと向かえていると思います」

取材を終えて

“世間の常識”にとらわれることなく、学校に行かないという“選択”をした姉妹とその両親。

私が姉妹に出会ったのは、不登校の子どもたちを対象にした料理教室でした。

楽しそうにしている2人の姿や、発することばのひとつひとつが“いきいき”していました。

学びの場は、学校だけにとらわれなくていいんだということを改めて実感しました。

姉妹と正面から向き合い、悩みに悩んだ末、決して簡単ではない選択をしたご両親。

子どもをどれくらい理解できるか、またサポートできるかによって不登校の子どもたちの人生は大きく変わるのではないかと感じさせられます。

大切なのは、学校に行く行かないではなく、明るく元気に今を生き生きと過ごすこと、そして、その後の将来をどう生きるかを考えていくこと。

この親子の選択が、不登校で悩む子どもやその家族への一つのヒントになればと思います。
名古屋放送局記者 
佐々木萌
2019年入局
愛知県警担当を経て現在、愛知県政を担当
児童ポルノや居場所のない若者などを取材