ちょっと待って!そのボックス、ゴミ箱じゃないの

ちょっと待って!そのボックス、ゴミ箱じゃないの
自動販売機で飲み物を買ったら、なにやら横にオレンジ色の見慣れない箱が…

実は、カンやペットボトルを集めるための「リサイクルボックス」のデザインが、10月から新しくなったんです。

小さなニュースに聞こえるかもしれませんが、調べてみると裏には国際情勢による値上がりや、リサイクルにまつわる「意外な事実」が潜んでいました。
(おはよう日本ディレクター 金谷隼一)

リサイクルボックスといえば、「カエルの目」

リサイクルボックスといえば、灰色の箱に2つの穴がカエルの目のようにあいたものに見覚えがありますよね。

片方の穴にビン・カン、もう片方にペットボトルというのが通常のデザインでした。
でも新しいデザインでは、容器をいれる投入口は小さく下向きになり、穴が見えづらくなっています。

飲料メーカーの業界団体が2年前から開発し、満を持して街に出てきました。

どうして必要になったのかというと、背景にあるのがリサイクルボックスに対する「勘違い」でした。

もとのデザインのリサイクルボックスの前で「これは何でしょうか」とインタビューをしてみると、応じてくれた6人中5人が「ゴミ箱」だと答えたのです。

これまで意識をして見たことがなく、気にせず燃えるゴミも捨ててきたという人もいました。

箱の中身はなんだろ…注射針や包丁まで!

多くの人がゴミ箱だと勘違いした結果どうなっているのか、首都圏101の駅に置かれたリサイクルボックスを回収している東京都内のリサイクルセンターに向かいました。
1日に持ち込まれる量は、最大で18トン。

中身を見てみると、コンビニなどで売られているコーヒーなどのカップ、おつまみの袋といった家庭ゴミ。
さらに電池やライター、注射針などの医療機器、そして包丁までが「リサイクルボックス」に捨てられていました。
JR東日本環境アクセス資源循環事業本部 米山森彦さん
「なんでこういったものをリサイクルボックスにいれるのか理解が追いつかないです。包丁などは分別スタッフが手に触れる前に磁石で除去できるのですが、注射針などは除ききれないことも多く、厚い手袋をつけるなどしっかりとした対策をしないといけません」
米山さんによると、最近特に増えているのがリチウムイオン電池だといいます。

加熱式たばこや携帯扇風機に使われていて、「プラゴミ」と勘違いした人が捨ててしまうことが多いそうですが、異物を仕分ける磁石に付かないものもあり、発火して火事の原因にもなります。

また、困っているのが市販されている新型コロナの検査器具。

唾液などに触れた可能性も高く、分別スタッフにとって危険な異物です。
このリサイクルセンターでは、ペットボトルやビン、カン以外の「異物」の混入率は実に3割以上。

少しでも分別の手間や危険を抑えるために、新型のリサイクルボックスへの期待は高いといいます。
「危険物な異物が入っていると分別作業に危険が生じ支障が出ます。本来リサイクルのためのボックスなので、しっかりと理解して分別してほしいですね」

ペットボトル争奪戦 異常な価格高騰

さらに取材を進めると、特にペットボトルのリサイクルの現場では「このままでは立ちゆかない」という深刻な事態が起きていることがわかってきました。

悲鳴をあげているのは、回収されたペットボトルを食品トレーや衣料品などに加工する業界です。
自治体などから回収されたペットボトルは、国が指定した法人によって情報がとりまとめられ、半年に1度入札にかけられます。

リサイクル業者は入札に参加して、使用済みペットボトルを「落札」しなければなりません。
その中の1つ、関東にあるこのリサイクル業者では使用済みペットボトルから年間2.7万トンのペレットを製造し、食品トレーなどにしています。

今年に入り、原料となる使用済みペットボトルの仕入れ価格に異変が生じています。
これまで1トンあたり4万円台で落札してきましたが、今年に入り上半期は6万円、そして10月には11万5千円にまで急激に値上がりしたのです。
エフピコ 冨樫ジェネラルマネージャー
「世界情勢から石油価格があがっているので落札単価もあがるとは思っていましたが、ここまであがるのは想定外で驚いています。この先値段がどうなるかわかりませんし、ひょっとすると業界全体でリサイクルした食品トレーを値上げせざるを得ず、お弁当やお総菜の値段も上がるかもしれません…」
価格が高騰している大きな要因が、ウクライナ情勢や円安を受けて石油の購入価格が上昇していることです。

今まで石油を原料に製品を造っていたメーカーまで使用済みペットボトルを求めるようになったため、需要が急に高まっているのです。
もう1つ冨樫さんが指摘した要因は、意外にも「環境意識の高まり」でした。

フリースなどの衣料や最近では小学生が使うランドセルまで「ペットボトルをリサイクルした商品」が増えていることに加え、複数の飲料メーカーが「2030年までに、製造するペットボトル製品をすべて再生したものにする」と宣言。

ペットボトルの”争奪戦”に拍車をかけているといいます。

複数のリサイクル業者からは「これでは石油原料を使ったほうが安くなってしまう」「中小の業者はつぶれるしかないと不安。すでに撤退している会社もいくつかある」といった悲鳴が聞かれました。

長年築いてきたリサイクルのシステムが、大きな転換点を迎えているのです。

ゴミは入れないで 新リサイクルボックスへの期待

そこであらためて注目されているのが、リサイクルボックスなどで回収されるペットボトルというわけです。

実は家庭などから出るペットボトルはきれいに洗浄・分別されていることが多いため、年間約30万トン排出されるほぼ全量がすでにリサイクルされてきました。

一方、オフィスビルや公共施設、そしてリサイクルボックスから排出される「事業系」のペットボトルも年間約30万トン。

ただ異物の混入が多いために、半分程度しか国内でリサイクルされてこなかったのです。
新しいリサイクルボックスは目立つ色でゴミ箱と区別しただけでなく、投入口を下向きにすることで家庭ゴミなどを入れづらくしました。

さらに、フタも斜めにすることでゴミを上にも置いていきにくくしています。

少しでも「使えるペットボトル」を増やそうという工夫です。
実証実験では、新しいリサイクルボックスを使うと3~5割ほど異物の混入を低下させることに成功しました。

ことし10月から異物の混入が激しい繁華街などから順番に置き換えていく予定です。

今後は環境省でも新リサイクルボックスの効果を確かめ、さらに広めていきたいとしています。

私ももっとリサイクルします

日本は“リサイクル大国”だからペットボトルは十分再利用されていると思い込んでいた私にとって、多くのゴミや危険物が混じった実態は衝撃でした。

また「環境意識の高まり」によって、皮肉にもリサイクルのシステムが揺らいでいるというのは想像していませんでした。

今はちょうど国連の気候変動対策の会議「COP27」が開かれていますが、これまで以上に資源の無駄づかいを減らすためには、私たちにもこれまでより一段上のリサイクル意識が必要なんだと実感しました。

「捨てればゴミ、分ければ資源」。

街で新しいリサイクルボックスを見つけたら、私は駆け寄ってペットボトルを投入しようと思います。
おはよう日本ディレクター 
金谷隼一
2021年入局
首都圏局を経て現所属
大学院時代の専攻は分子生物学
前回は「うんちで作った堆肥」の記事を書きました