ビジネス特集

ツイッターはどこへ行く?マスク氏の“青い鳥”改革の行方は

ツイッターの買収を完了した、アメリカの起業家、イーロン・マスク氏。取締役全員を解任し、みずからCEOとなりました。ニューヨーク証券取引所に上場されていたツイッターの株式は11月8日には上場廃止になる予定です。マスク氏はツイッターをどのような会社にしていきたいのか、発言には矛盾が多く含まれ、改革の行方はいまだ謎に包まれています。2人の専門家への取材も加えて読み解きます。(ロサンゼルス支局記者 山田奈々)

週7日休みなく働け?

オフィスと思われる場所で寝袋に入って寝る女性。
ツイッターの社員が「イーロンのツイッター社で上司から仕事を求められたときは」と書き添えて同僚とみられる女性の写真を公開したものです。

女性はリツイートで「締め切りを守るために深夜まで働くときはしばしば職場で寝ます」と投稿しています。

アメリカの経済専門チャンネルCNBCは「マスク氏の締め切りを守るため、管理職は一部の社員に1日12時間、週7日働くよう指示した」と報じました。

週84時間、休みなく働けということのようです。

“モーレツ社長”のマスク氏

イーロン・マスク氏は仕事に厳しく、みずからも「モーレツ社員」ならぬ「モーレツ社長」であることで知られています。
経営する電気自動車メーカーの「テスラ」、宇宙開発企業「スペースX」両社に出勤し、遅くまで働いてオフィスのデスクの下や工場の床などで寝ている姿が目撃されたとの報道も目にします。

大量解雇に悲鳴、創業者も謝罪

11月4日、世界各地で勤務するツイッターの従業員から悲鳴があがりました。

一斉に解雇通知が届いたようです。

従業員だったというイギリスの男性のツイートです。

「どうやら私は失業しているようです。こんな終わり方をしなければならないのはとても悲しい」
また、解雇でショックを受けたのか、職場の同僚たちと昼前から夜までずっとワインを飲み続け、顔がむくんでしまったと告白する元従業員も。

マスク氏は、同じ11月4日、ニューヨークで開かれた投資家向けの会議に参加していました。

主催者との対談に臨み、この中で、司会者が従業員の半数を解雇したのかと尋ねたのに対してマスク氏はうなずき、半数の解雇に踏み切ったことを事実上認めました。
人員削減について自身のツイッターに「残念ながら会社は(従業員を雇い続けることで)1日あたり400万ドル(およそ5億8000万円)を超える損失を出しているため、ほかに選択肢はない」と投稿し、コスト削減のための手段だと説明しています。

しかし、いくら転職や解雇が日本より多いというアメリカ企業でも半数の一斉解雇はほとんど聞いたことがありません。

ツイッターの共同創業者の1人で2021年11月までCEOを務めたジャック・ドーシー氏は11月5日、「企業規模の拡大を急ぎすぎだ。従業員みんながこんな状況になったことの責任は自分にあり、謝罪する」と投稿しました。

なぜツイッター買収?

そもそもマスク氏はなぜツイッターを買収したのでしょうか。

前述の投資家向けの会議でマスク氏は「難しいことではあるものの、ツイッターを世界で最も素晴らしい会社にできる。人々が心地よく話ができるデジタルな街の広場が必要だ」などと語りました。

買収提案の直後には「言論の自由を実現できる包括的な場が重要だ」などと理由を説明しています。

みずからの投稿で多々物議を醸してきたマスク氏。

より自由な発言ができるSNSを自分の価値観で作りたいという思いがあったのだと思います。

さらに、背景にはツイッターが、2021年1月、トランプ前大統領のアカウントを永久停止したことも。
ツイッターは前大統領の支持者らが連邦議会に乱入して議事堂を占拠した事件をめぐり、トランプ氏の投稿が暴力をあおったおそれがあると判断し、アカウントを停止。

しかし、保守派を中心に、この決定は会社による投稿内容の検閲ではないかという声が高まり、マスク氏自身も、永久停止は「正しくなかった」と発言。

買収後にアカウントを復活させる考えを示していました。

ツイッターの運営方法に対する不満が、買収の原動力になったともいえます。

改革の行方は?

とはいえ、マスク氏は「テスラ」と「スペースX」を成長軌道にのせた、腕利きの経営者です。

ツイッターの買収には当然ながら経営的なねらいや目標もあるはずです。

そのツイッターの経営はマスク氏が憤慨してもおかしくないほど、精彩を欠いています。
2021年通期の決算は売り上げは増えたものの、2年連続で最終赤字に。

ことし4月から6月までの3か月間の決算でも、インターネット広告の収入が伸び悩むなどして最終赤字となり、業績の不振が続いています。

名経営者のマスク氏がどのように会社を改革するのか。

今後を展望するため、2人の専門家に話を聞きました。
まず、マスクCEOのもと、ツイッターの経営がどう変わっていくのか、企業の買収や合併、会社法に詳しいボストン・カレッジ法科大学院のブライアン・クイン教授です。
ボストン・カレッジ法科大学院 ブライアン・クイン教授
「マスク氏が取締役全員を解任し、CEOに就任したことで、会社としての意思決定は早くなります。ツイッターの株式はマスク氏が100%所有しているため、株主に配慮する必要もありません。ただ、配慮すべき重要な利害関係者がいます。買収資金を借りた金融機関です。440億ドルのうち、およそ130億ドルを借り入れでまかなったため、返済が生じます。その額はツイッターの去年(2021年)4月から6月までの3か月決算の税引き前の利益よりも多い10億ドルでマスク氏にとっては難しい挑戦になります」

広告収入減少のなかで…

ツイッターの収益力を高めることが急務となりますが、アメリカの急速な利上げの影響などで、景気が減速する懸念が高まり、企業はネット広告の予算を絞り込み始めています。

さらに、アメリカの市民団体などが、マスク氏が安全性を損なう対応を取った場合、全世界で広告を停止するよう、広告主に書簡で要請。

マスク氏はこの影響で、足もとでの広告収入が急速に減少していると明らかにしています。

マスク氏の収益化戦略について、クイン教授は次のように分析します。
ボストン・カレッジ法科大学院 ブライアン・クイン教授
「コストを大幅に削減するか、収入を増やす別の方法を探すか2つに1つです。大規模な人員削減もその一環でしょう。一方、マスク氏が実現したいと発言していた、中国のウィーチャットのような、電子決済などもできるなんでもアプリの開発には2、3年はかかるとみられます。まずは、個人や企業などのアカウントが本物だと証明する認証マークの付与に課金するなど、すぐに売り上げを増やすことができる手段を試すのだと思います」

投稿内容の管理をどうすべきか

経営とともに重要なのが、投稿内容の管理です。

マスク氏がツイッターを買収したのは、投稿内容に対する管理が厳しすぎる現状を変えたいという思いからでした。

“言論の自由”を守ると説明していますが、何を発信しても構わないと捉える人が増えてしまうのではないかという懸念の声もあります。

マスク氏は、不適切な投稿の監視や削除などを監督する評議会を設置すると明らかにしましたが、具体的なことは今のところ判明していません。
新生ツイッターでは投稿内容はどのように管理されるのか、IT専門メディア「テッククランチ」でIT企業の取材を担当している、アマンダ・シルバリング記者に聞きました。
アマンダ・シルバリング記者
「マスク氏は評議会に多様な視点を取り入れるとしていて、それ自体はすばらしいと思いますが、実現するまでは信じられません。“言論の自由”はネット上で人をひぼう中傷しても何のおとがめのないことを指すとはき違える人もいるため、投稿の管理は安全な利用のために最も大事です。いまのツイッターには、誤情報だと知りながら誤った情報を流してはいけない、暴力を扇動してはいけないなどのルールがあります。トランスジェンダーの人が「she」と女性の人称で呼んでほしいと明示しているのに、わざと「he」と呼ぶなどハラスメントをしてはいけないという決まりもあります。しかし、マスク氏はこうした決まりに反対の姿勢を示したことがありました。ルールが残ることを望みますが、変更される可能性が高いと言えます」
ひぼう中傷や差別的なコメントを制限するルールが万一、あいまいになるとすれば、大変な危険を感じざるを得ません。

相反する目標を1つにする難しさ

さらに経営的な視点から見てもこの投稿管理はバランスが難しいとクイン教授は指摘します。
ボストン・カレッジ法科大学院 ブライアン・クイン教授
「収入源の90%近くを占める広告主は、差別的な発言が許されるような、安全ではないSNSに広告を出したいとは思いません。マスク氏は“言論の自由”の実現や、開かれた空間の創造という自分がやりたいことと、収益をもたらす広告主のニーズや要望とのバランスをとる必要があります。2つの相反する目標の折り合いをつけないといけませんが、ツイッターが今後どのようなものになるのか、マスク氏自身もまだ決められていないのだと思います」

ツイートですでに炎上!ヘイト急増も

気がかりな動きもあります。

買収直後、マスク氏のツイートがさっそく炎上しました。

内容は、10月28日、連邦議会のナンシー・ペロシ下院議長の自宅に男が押し入り、議長の夫が大けがをした事件に関するものです。

有力紙のニューヨーク・タイムズによると、ヒラリー・クリントン氏がこの事件について投稿。

すると、マスク氏が、これに返信する形で「この話には目に見える以上の事実が隠されている可能性がある」というコメントとともに、ペロシ氏が酒に酔って売春を行う男性とけんかになっていたとする根拠のない記事のリンクを投稿したというのです。
このツイートはすぐに削除されたということですが、ツイッターの新CEOが根拠のない情報を投稿したのであれば困った事態です。
さらに、SNSの投稿の分析などを行うアメリカの団体「NCRI」によると、マスク氏による買収完了後の12時間で、ツイッター上の黒人に対する差別用語がこれまでの6倍近くに急増したというデータもあります。
団体は「悪意のある人たちが、どこまでやったら削除の対象になるのか、ツイッターの限界を試そうとしていることを示す証拠だ」などと指摘しています。

人を減らして投稿管理できるの?

これだけ人員を削減して、果たして投稿の管理は守られるのでしょうか。

シルバリング記者は次のように述べて、懐疑的です。
アマンダ・シルバリング記者
「多くのSNSの運営会社は、従業員とAI=人工知能の両方を投稿内容の管理に活用していますが、AIだけでなく人の目が入る、双方を使うということが投稿内容の安全性の面では重要です。投稿内容の管理を行う人材は確保しておく必要があります。もう1つの懸念は、アカウントが本物だと証明するマークの取得への課金です。マスク氏は、7ドル99セントを支払えば、これまで著名人などに限られていた認証マークを一般の人も取得できるようにするサービスを、まずアメリカを含む一部の地域で開始するとしています。しかし、誰でも本物だという証明がお金で買えることになったら、このマークに何の意味があるのでしょうか。悪意のある人がお金を払って認証マークを手に入れ、フェイクニュースをツイートしたらどうなるでしょうか。そういうことが起きてしまうと思えてなりません」

鳥は自由になるのか?

「鳥は自由になった」

マスク氏は、自身のツイートで、ツイッターの買収完了をこのように表現しました。
青い鳥のアイコンで知られるツイッター。

「自由と希望と無限の可能性を持っている」という意味が込められていると言われています。

しかし、マスク氏による買収で「自由」ということばが、人を傷つけたり、誤情報を流したりしてもよいという誤った方向に解釈されてしまうようでは本末転倒です。

一方、マスク氏は、EVメーカーのテスラを、時価総額でトヨタ自動車のおよそ3倍(11月7日時点)にまで成長させるなど、たぐいまれな経営手腕を発揮してきました。

これまでに取材したスタートアップ企業の経営者の中には、マスク氏なら、会社側ではなく、利用者自らが投稿を管理できる新しい仕組みを作ってくれるのではないかと、その「無限の可能性」に期待を寄せる人もいました。

ツイッターは、第2のテスラになれるのか、今後どのような変貌を遂げるのか、さらに取材を深めていきます。
ロサンゼルス支局記者
山田奈々
2009年入局
長崎局、経済部、国際部などを経て現所属

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