“CFO”は女子高生!?

“CFO”は女子高生!?
「女子高生の“CFO”が言うことは絶対なんです」
あるベンチャー企業の社長の言葉です。高校生がCFO?聞いてみると、CFO=最高“財務”責任者(Chief Financial Officer)ではなく、耳慣れない、最高“未来”責任者という役職でした。(長崎放送局記者 中尾光)

CFO=最高“未来”責任者

このCFO(Chief Future Officer)=最高“未来”責任者の制度を導入したのは、バイオ燃料の原料となるミドリムシの培養を手がける東京のベンチャー企業「ユーグレナ」です。
ユーグレナは藻の一種、ミドリムシの大量培養に世界で初めて成功し、約15年前からミドリムシを原料とする食品や化粧品を製造販売してきました。

そして今、ミドリムシの一種が“油”を作り出す性質に着目し、バイオ燃料の開発に力を入れています。
ことし9月下旬には、長崎県の五島列島でミドリムシを原料とするバイオ燃料を使って、初めての商業ベースの遊覧飛行が行われましたが、燃料を作ったのはこの企業です。

掲げる企業理念は「SDGs・持続可能な社会の実現を目指す」こと。実現に向けた社内改革の切り札と位置づけて3年前に導入したのが、CFOの制度です。

10代の若者を役員相当のCFOに起用し、SDGsの実現に向けた企業戦略を提言してもらうのがねらいで、報酬も支払われる本格的な制度です。

CFOは15歳の女子高生

ことし7月にCFOに就任した渡部翠さん(15)です。
渡部さんは、長野県軽井沢町にあるインターナショナルスクールに通う高校1年生です。

ことし7月まで約8年間、マレーシアで暮らしていました。現地で貧しい人々や難民のためのボランティア活動に参加し、環境や人権の問題を強く意識するようになったといいます。
渡部翠CFO
「マレーシアで貧しい人や難民から話を聞く機会が多くありました。自分が与えられた恵まれた環境を次の世代に渡すことや恵まれない人に渡すことが大事だと考えています。住む環境によってチャンスが与えられないという現状を変えたいです」
海外で培った問題意識や将来へのビジョンを自分の言葉で語る渡部さん。

高校生とは思えない落ち着きぶりに感服しました。

なにするの?最高“未来”責任者

3年前に始まったCFO制度、渡部さんで3代目です。

多数の応募者の中から選ばれてきました。応募条件は18歳以下です。
このベンチャー企業は、なぜ社会人ではない10代の若者を起用するのでしょうか。

出雲充社長は「未来を自分事と考えられるのは若者だから」と説明します。
出雲社長
「地球上で、これから最も長く暮らすのは学生であり若者です。しかし、多くの学生には投票権がないため、選挙で意思表示ができず、社会は若者のアイデアを取り入れることができません。若者に言いたいことが言えるチャンスを作る必要があると考えています」

女子高生のCFOのインパクトは

CFOはどれくらいのインパクトを与えているのでしょうか?

ユーグレナがCFOの提言によって実現したとする成果です。
1 ペットボトル商品を全廃
2 通常のプラスチック使用量の50%削減を推進
3 ベンチャー企業の「定款」をSDGsを反映した内容に刷新。
出雲社長
「極端な話、社長の私が言ってもなかなか会社は変わらないんです。でも、女子高生のCFOが言うことは絶対なんです。『絶対にやらないと大人として恥ずかしい』と感じたメンバーが一気に変化するんです。今までできなかったことが、1日であっという間に動き出します」
出雲社長は、大人だけで議論すると「ビジネスの観点から実現は難しい」となってしまう話も、若いCFOが加わると若者代表の意見に向き合わねばという責任感が社内に生まれてくると言います。

“時間軸上のダイバーシティ”

ユーグレナが試行する“CFO制度”について企業経営に詳しい一橋大学の名和高司客員教授は次のように評価します。
名和客員教授
「SDGsに関してうわべだけの目標を立てている企業と実際に取り組む企業では今後、企業価値、将来の価値が全く変わっていきます。今、性別や人種を超えて、多様な人たちの声を反映させていこうと言われていますが、18歳以下の人たちの声を企業が聞くのは“時間軸上のダイバーシティ”だと思います。今のパフォーマンス以上に、これから未来に対してどのような価値を作っていけるかが 問われています。未来の声を受け止めて、それを経営に反映させること自体、非常に重要な活動だと思います」

未来志向の若者とともに

初めての商業飛行に成功したこのベンチャー企業の次の目標は、ミドリムシのバイオ燃料の普及です。
そのためには「製造コストの削減」は避けては通れません。

今、ミドリムシのバイオ燃料を製造しているのは実証実験用の小規模なプラントで、バイオ燃料の価格は一般的な化石燃料の“約100倍”です。

大企業と連携することで、3年後の2025年には大規模な製造プラントを建設、大量生産の体制を構築し、価格の引き下げを図る考えです。
出雲社長はこうした目標を達成するためにも若い世代と手を携えていくことが必要だと感じています。
出雲社長
「未来志向で優秀な若者とともに“本気で”持続可能な社会、カーボンニュートラル社会の実現に向けて、会社の仕組みも制度もビジネスも設計する。若者の声を真剣に受け止めて本当に行動する大人、会社があるということを見せていきたい」
渡部翠CFO
「持続可能な社会を目指す若者が、いろいろなアイディアを持って、さまざまな業界に入り、各業界の専門の人たちと組むことで、新しい変化が起こせるのではないかと思います。持続可能な社会に向けた取り組みは、今のところ、先進国だけでしか実践できないものが多いと思います。このままではダメだと感じているので、世界の恵まれない人たちにも、広がっていくようにしていきたいと思っています」

試される“本気度”

ユーグレナの出雲社長はインタビューで「本気」という言葉を何度も口にしました。

「本気」の表れが、高校生CFO制度です。

今、多くの企業がSDGsの社会に向けて、様々な目標を掲げています。

次は目標を達成するために、どこまで“本気”の取り組みに踏み切れるのかが問われていると感じました。
長崎放送局記者
中尾 光
2020年入局
警察司法担当を経て、現在は経済や文化を中心に取材