メタバースで山古志再現 「デジタル村民」リアルに“帰省”も

澄んだ空気と棚田が印象的な新潟県の旧山古志村(現・長岡市山古志地区)。
新潟県中越地震のかつての被災地でいま、インターネット上の仮想空間=メタバースに、村を再現する取り組みが進められています。
デジタル住民票の販売開始から10か月で「デジタル村民」は現実の人口を上回るほどに。
そして、その「デジタル村民」たちが、現実の旧山古志村に、リアルに“帰省”も始めています。
(新潟放送局 記者 豊田光司)
新潟県中越地震のかつての被災地でいま、インターネット上の仮想空間=メタバースに、村を再現する取り組みが進められています。
デジタル住民票の販売開始から10か月で「デジタル村民」は現実の人口を上回るほどに。
そして、その「デジタル村民」たちが、現実の旧山古志村に、リアルに“帰省”も始めています。
(新潟放送局 記者 豊田光司)
メタバースに現れた“仮想山古志村”

空には特産のニシキゴイが泳ぎ、眼下に広がる棚田。
みなもは風に揺らめき、耳をすませば虫の声や風の音も。
ここはインターネット上の仮想空間=メタバースにある“仮想山古志村”。
新潟県中越地方にある旧山古志村を再現しています。
(注:現実にはニシキゴイは空を泳いでいません)
「山古志に住んでいない人からも地域を応援してもらえないか」
旧山古志村の魅力を大切に残していきたいと願う人たちでつくる民間の団体「山古志住民会議」が、去年12月から「デジタル住民票」の販売を始めました。
みなもは風に揺らめき、耳をすませば虫の声や風の音も。
ここはインターネット上の仮想空間=メタバースにある“仮想山古志村”。
新潟県中越地方にある旧山古志村を再現しています。
(注:現実にはニシキゴイは空を泳いでいません)
「山古志に住んでいない人からも地域を応援してもらえないか」
旧山古志村の魅力を大切に残していきたいと願う人たちでつくる民間の団体「山古志住民会議」が、去年12月から「デジタル住民票」の販売を始めました。
「デジタル村民」仮想空間歩いたりチャットで交流も

“仮想山古志村”はデジタル住民票を手にした人たち=デジタル村民によって作られ、運営されています。
仮想空間を歩いたり、チャットを通じて参加者どうしで交流したりできるほか、現実世界のイベントを見ることもできます。
そして、分身の「アバター」には地域特産の「かぐらなんばん」という野菜が選べる、地域ならではの工夫も施されています。
仮想空間を歩いたり、チャットを通じて参加者どうしで交流したりできるほか、現実世界のイベントを見ることもできます。
そして、分身の「アバター」には地域特産の「かぐらなんばん」という野菜が選べる、地域ならではの工夫も施されています。
現実の旧山古志村は人口減少が止まらず
新潟県中越地震から18年となった10月23日、現地で開かれた追悼式典の様子も仮想空間で中継されました。

地震によってあちこちで土砂崩れが発生し、あらゆるライフラインが寸断され、当時2100人余りの住民全員が村の外に避難を余儀なくされた旧山古志村。
その後、復旧・復興が進んだものの、人口は現在、800人ほどにまで減少。
住民の2人に1人は65歳以上と高齢化も深刻です。
地震当時も過疎化が大きな課題となっていましたが歯止めがかからない状態が続いています。
その後、復旧・復興が進んだものの、人口は現在、800人ほどにまで減少。
住民の2人に1人は65歳以上と高齢化も深刻です。
地震当時も過疎化が大きな課題となっていましたが歯止めがかからない状態が続いています。
「デジタル村民」1000人超に 現実の人口上回る
「このままでは山古志がなくなってしまう」
そんな危機感から始まったのがメタバースで外の地域の人たちと広くつながりを得ようという今回の試みだったのです。
デジタル住民票の販売開始から10か月。
仮想空間の村民は1000人以上になり、現実世界の人口を上回るまでになりました。
そんな危機感から始まったのがメタバースで外の地域の人たちと広くつながりを得ようという今回の試みだったのです。
デジタル住民票の販売開始から10か月。
仮想空間の村民は1000人以上になり、現実世界の人口を上回るまでになりました。
「デジタル村民」のリアルな“帰省” 相次ぐように
“仮想山古志村”の取り組み。
実はいま、リアルな旧山古志村にも大きな変化を起こしています。
「デジタル村民」と、現実の住民たちとの交流です。
10月9日、2人のデジタル村民の姿が旧山古志村にありました。
実はいま、リアルな旧山古志村にも大きな変化を起こしています。
「デジタル村民」と、現実の住民たちとの交流です。
10月9日、2人のデジタル村民の姿が旧山古志村にありました。

「まゆぞう」さんと「まめこ」さんです。
会社の元同僚で今回、初めて山古志に来たとのこと。
ただの観光かと思いきや、少し違う様子です。
2人は地元で買ってきたお土産を、仮想空間上のチャットで知り合った山古志の人たちに手渡し、笑顔を浮かべていました。
デジタル村民が実際に山古志を訪れる動きは「帰省」と呼ばれ、いま「帰省ラッシュ」を迎えています。
2人に山古志の印象を尋ねると「初めて来た気がしない。実家に帰ってきた感じ」と話していました。
会社の元同僚で今回、初めて山古志に来たとのこと。
ただの観光かと思いきや、少し違う様子です。
2人は地元で買ってきたお土産を、仮想空間上のチャットで知り合った山古志の人たちに手渡し、笑顔を浮かべていました。
デジタル村民が実際に山古志を訪れる動きは「帰省」と呼ばれ、いま「帰省ラッシュ」を迎えています。
2人に山古志の印象を尋ねると「初めて来た気がしない。実家に帰ってきた感じ」と話していました。

2人は棚田を撮影したり、地元の人とニシキゴイについて語り合ったり…。
山古志でことし収穫されたばかりの、新米のコシヒカリも買いました。
山古志でことし収穫されたばかりの、新米のコシヒカリも買いました。

まゆぞうさん
「コミュニティーができているので、来ると“あー”と知り合いのような感じで、それがやっぱりふつうの旅とは違って楽しかったです。本当に帰省って感じでした」
「コミュニティーができているので、来ると“あー”と知り合いのような感じで、それがやっぱりふつうの旅とは違って楽しかったです。本当に帰省って感じでした」
山古志でリアルなイベントも開かれるように

「デジタル村民」と、地域の人たちとの交流は、さらに広がっています。
9月に山古志で開かれたジャズライブ。
デジタル村民に楽器の奏者がいたことで実現しました。
9月に山古志で開かれたジャズライブ。
デジタル村民に楽器の奏者がいたことで実現しました。

見に来た人は山古志の人をはじめ、新潟県の内外から。
手をたたいたり、体を揺らしたり、それはもうみんなノリノリです。
手をたたいたり、体を揺らしたり、それはもうみんなノリノリです。

デジタル村民の男性
「いっぱい来てもらって盛り上がりました。何といっても景色がすばらしく、楽しく演奏できました。デジタル村民がリアルにここにやって来て実際に住民と交流し、ほかの地域の人も山古志に来てもらえた。これはデジタル村民なりの1つの貢献のしかたかなと思っています」
「いっぱい来てもらって盛り上がりました。何といっても景色がすばらしく、楽しく演奏できました。デジタル村民がリアルにここにやって来て実際に住民と交流し、ほかの地域の人も山古志に来てもらえた。これはデジタル村民なりの1つの貢献のしかたかなと思っています」
仮想空間には将来的に「牛の角突き」と呼ばれる伝統行事が行われる闘牛場や野菜の販売所など山古志全体を再現する計画とのこと。
遠くにいても山古志を感じ、オンラインで特産品を買える環境を目指しています。
遠くにいても山古志を感じ、オンラインで特産品を買える環境を目指しています。

山古志住民会議 竹内代表
「山古志に“帰省”する人はことしの春から多くなっているし、デジタル村民と話す地元の人も増えています。山古志に住んで地域を守っていく人が土台だが、デジタル村民とリアルに住む人がより密接に交流しながらいろいろなことを言い合えるような仲になって、山古志を存続させていくことができればと思っています」
「山古志に“帰省”する人はことしの春から多くなっているし、デジタル村民と話す地元の人も増えています。山古志に住んで地域を守っていく人が土台だが、デジタル村民とリアルに住む人がより密接に交流しながらいろいろなことを言い合えるような仲になって、山古志を存続させていくことができればと思っています」
デジタルに活路 その先は
新潟県中越地震から18年。
復興は進み、地震による爪痕はほとんど感じません。
復興は進み、地震による爪痕はほとんど感じません。

日本の原風景のようなのどかな景色が広がり、見ているだけで心が落ち着く一方、住まう人が減り続ける様子に一抹のさびしさを感じます。
デジタルに活路を見いだそうと始まった試みに関係者は一定の手応えを感じていますが、これがどこまで続くのか、そして地域活性化の糸口になるのか。
その答えは分かりません。
ただ取材を通して多くの山古志の人たちから話を聞くと、彼らに“諦め”はなく、みんなとても前向きです。
それは仮想空間の可能性だけではなく、“山古志は本当にいいところだ”という気持ちから湧き上がっているもの、そう思わずにはいられません。
デジタルに活路を見いだそうと始まった試みに関係者は一定の手応えを感じていますが、これがどこまで続くのか、そして地域活性化の糸口になるのか。
その答えは分かりません。
ただ取材を通して多くの山古志の人たちから話を聞くと、彼らに“諦め”はなく、みんなとても前向きです。
それは仮想空間の可能性だけではなく、“山古志は本当にいいところだ”という気持ちから湧き上がっているもの、そう思わずにはいられません。

新潟局 記者
豊田光司
2017年入局
大阪局を経て令和2年から新潟局に
去年11月から長岡支局で中越地方などの取材を担当
10月から自宅の小さな水槽で3匹のニシキゴイを飼い始めました
名前は「のっち」「かしゆか」「あーちゃん」です
豊田光司
2017年入局
大阪局を経て令和2年から新潟局に
去年11月から長岡支局で中越地方などの取材を担当
10月から自宅の小さな水槽で3匹のニシキゴイを飼い始めました
名前は「のっち」「かしゆか」「あーちゃん」です