ロシア “貧しい国に農産物無償提供” 揺さぶりかける思惑か

ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアは、ウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意の履行を無期限で停止すると一方的に表明しました。
また、輸出される農産物は主にヨーロッパ向けだと主張し、代わってロシアが貧しい国に農産物を無償提供するとしていて、揺さぶりをかける思惑もあるとみられます。

ロシア外務省は29日、ウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意の履行を無期限で停止すると一方的に表明しました。

これに先立ってロシア国防省は、一方的に併合したウクライナ南部クリミアに駐留するロシア軍の黒海艦隊がウクライナ軍の無人機による攻撃を受けたと主張していて、外務省は合意の履行を停止する理由として「船舶の安全な航行が保証できないこと」を挙げています。

ロシアが主張する黒海艦隊への攻撃について、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は29日、「黒海艦隊は、巡航ミサイルでウクライナのエネルギー関連施設を攻撃する能力がある。過去、数週間にわたる大規模な攻撃に対する対応だったのだろう」として、ロシアによる攻撃に応じたウクライナ軍によるものという分析を示しています。

ウクライナからの農産物の輸出をめぐっては、ロシア軍による封鎖で黒海に面する南部の港からの輸出が滞っていましたが、ことし7月にトルコと国連の仲介でロシアとウクライナが合意に至り、再開されていました。

ロシアによる合意の履行停止によって、世界的な食料危機への懸念が続くなかで、輸出が再び滞るおそれがあり、ウクライナのゼレンスキー大統領は「ロシアは、食料を積んだ船の動きを妨害し、意図的に食料危機を悪化させている」とロシア側を非難したほか、国連や欧米各国などからも批判や懸念の声が上がっています。

一方、ロシアのパトルシェフ農業相は29日、ウクライナからの農産物は主にヨーロッパに輸出されていたと主張したうえで「ロシアは今後4か月の間、最大50万トンの農産物を貧しい国に無償提供する用意がある」と述べました。

プーチン政権は、これまでもウクライナの農産物の多くがヨーロッパ向けだとしてウクライナやヨーロッパ諸国の対応を批判していて、合意の履行停止に対するロシアへの批判をかわし、揺さぶりをかける思惑もあるとみられます。