なぜ?トンボが世界的に減少

なぜ?トンボが世界的に減少
身近な昆虫のひとつ、トンボ。
世界に6,000種以上いるとされていますが、近年、その数は減少しています。
去年発表された、絶滅のおそれのある野生生物についてまとめたIUCN=国際自然保護連合の「レッドリスト」では、675種が絶滅危惧種に指定されています。
いったい何が起きているのでしょうか。トンボの生態や減少している背景に迫ります。

トンボはどんな昆虫?

大空を優雅に飛び回るトンボ。水を張った田んぼや、池の周辺などの湿地に生息する昆虫です。水の中に卵を産み、ヤゴと呼ばれる幼虫時代は水中で過ごします。そして、幼虫から脱皮し成虫になる時に陸の上に移動します。
ではトンボの体のつくりはどうなっているのでしょうか。
まずは、中学入試の問題に挑戦してみましょう。
問題
(1)昆虫の体は頭と腹と何に分けることができるか。
(2)昆虫の図に足を正しい位置に正しい本数書き込め。

(聖ドミニコ学園中学校2017年 理科 改題)
1問目の正解は「胸」です。トンボを含む昆虫の体は主に、頭と腹と胸に分けられます。
2問目は、胸から左右に3本ずつ、合わせて6本の足を書き込むのが正解です。
また、トンボには大きな4枚の羽が生えていますが、つくりは単純で前羽と後ろ羽の形がよく似ています。

トンボの目の秘密

特徴的なのが、大きな目です。
トンボは、およそ360度見渡せる広い視界を持っていますが、最近の研究ではさらに優れた一面があることが明らかになったそうです。
世界各地で昆虫調査を行う、九州大学准教授の丸山宗利さんにお話を伺いました。
丸山さん
「トンボの目は人間以上にいろんな色を見分けていることが分かったんです。トンボの行動は獲物を見つけたり、結婚相手を見つけたり、敵から逃げるなどすべての行動がすごく目に頼っているので、人間以上にいろんなものや色彩を認識できて、なおかつ立体的にものが見える必要があるんです」
トンボは、ほかの動物と比べると、色を識別する光センサーを作る遺伝子を、3倍から11倍持っているとされています。光センサーは、トンボが素早く飛びながら、エサを捕まえたり、仲間を見分けたりすることを可能にしています。また、繁殖していくうえでも重要なんです。それは、トンボが体の色やその鮮やかさで、オスかメスかなどを判断しているからです。わかりやすい例が、私たちに身近な「赤トンボ」です。
丸山さん
「いわゆる赤トンボというのは、アキアカネだと言われています。アキアカネはオスが成熟してくるとだんだん体が赤くなっていきます。メスが体の赤いものをオスと認識して交尾を受け入れます。またオスどうしがメスを奪い合うときに同種のオスということを認識するために赤い色をしているのではないかと言われています」

世界的に減少 トンボの今

目の能力をいかしながら、繁殖を繰り返してきたトンボ。しかし近年、トンボの数は世界的に減少しています。
日本でも、200種以上が生息しているといいますが、絶滅のおそれがある野生生物をまとめた環境省の「レッドリスト」で、29種が絶滅危惧種に指定されています。そのなかには、まだら模様の羽が特徴的な「ベッコウトンボ」や宮島に生息する「ミヤジマトンボ」などが含まれています。
減少の原因のひとつになっているのが、主要な生息地である湿地の減少です。1900年以来、世界の湿地の64%が失われているとされています。日本でも、明治・大正時代にあった湿地の6割余りが消失しているそうです。
丸山さん
「日本にたくさんのトンボの種類がいるのは湿地がたくさんあったからです。そういうところは真っ先に開発されやすく、すぐに埋め立てられて、住宅地や工場などになりやすいんです。トンボのすみやすい環境と人間の住みやすい環境が重なってしまっているんです」

トンボを守れ!

トンボの生息環境を守るため、いま、日本ではさまざまな取り組みが行われています。
高知県四万十市では、世界初のトンボ保護区「トンボ自然公園」が設けられています。公園内では去年、トンボの新たなすみかを作るため水を張った田んぼが整備されました。ヤゴの成長に影響を与えないよう稲の栽培は無農薬で行われています。
こちらは北九州市にある国内最大級のビオトープです。ビオトープとは、野生生物の生息する空間のことで、野鳥や昆虫などの生き物を呼び込もうと、各地で整備する動きが広がっています。2015年には、このビオトープで、絶滅危惧種に指定されているベッコウトンボが1400匹、確認されたそうです。こうした取り組みが広がり、トンボの数が増えていくことは、私たちにとってもメリットがあると、丸山さんは話します。
丸山さん
「トンボは決して人間にとってむだな存在ではなくて、田んぼの上を飛び回ることで害虫を食べてくれることは今でも実際にあります。バランスのいい自然というのは私たちにとっても住みやすい自然であって、それを私たちが認識して、昆虫もすみやすく私たちもすみやすいという環境を目指していくことが必要だと思います」
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