いまなぜ“ラジオ”? 企業注目の理由とは

いまなぜ“ラジオ”? 企業注目の理由とは
コロナ禍を機に離れた場所にいる人をつなぐテレワークが普及。一方で、「社員の交流が減ってしまった」「社内の風通しをよくしたい」といった課題を抱える企業も増えています。そんな中、“社内ラジオ”と呼ばれる社内限定の音声コンテンツの導入が広がっています。(政経・国際番組部ディレクター 新野高史)

音で伝える“社内報”

“社内ラジオ”という言葉。

初めて聞いた、と言う方も多いかも知れません。

いったいどのようなものなのか、まず訪れたのは、大手飲料メーカーの「伊藤園」です。
この会社で、社内ラジオの企画から制作を一手に担うのは、入社13年目の金井菜々美さんです。

広告宣伝部に所属しながら、音声の収録や編集などの制作も業務として行っています。
放送は、隔週の金曜日。

オンライン会議や業務用のチャットができるシステムを活用し、希望する社員に配信しています。

内容は、担当者が語る商品開発の裏側や、「お客様相談室」に届いた消費者からの声など。

30分程度の音声コンテンツです。

音声コンテンツは、業務用のパソコンやスマートフォンから聞くことができます。
現在、3000人ほどの社員が配信を希望していて、仕事をしながら、営業車で移動しながら、休憩しながら…さまざまなシチュエーションで聞かれているそうです。

流通担当の社員に話を聞くと、「仕事に関する耳よりな情報も聞けるので、よく聞いている」と話していました。

社内ラジオで“社員をつなぐ”

会社が、この取り組みを始めたのは、コロナ禍の2020年。

テレワークが普及し、直接顔を合わせる機会も減るなかで課題となったのが、およそ5400人いる社員同士のコミュニケーションでした。

新たな方法を模索する中で生まれたのが、音だけで情報を伝える“社内ラジオ”だったのです。
広告宣伝部 金井菜々美さん
「社内報など書面の情報は少しドライになってしまう。動画の配信も行っていたが、集中しなければならないので視聴者数が伸びなかった。そこで、社員の耳だけでも借りることができればと考えた。声は人の感情をすごく表すものなので、音声メディアにはすごく可能性があると思う」
これまでの配信回数は、68回。

特に人気なのが、全国181か所にある支店などを数珠つなぎで紹介するコーナーです。

担当者にインタビューして、地元ならではの情報や取り組みを伝えます。

取材した日は、長野支店をリモートでつなぎ、収録していました。
金井さん
「長野支店で取り組まれていることを教えてください」
宮下支店長
「長野県は女性の就労率が高いので、仕事をしながら健康に取り組みたい人のために、スーパーの売り場や企業の売店などで“美活”(美容の活動)のコーナーを作っている」
販売の工夫など各支店の取り組みを発信することで、全国にいる社員の刺激になればと、金井さんは考えています。
広告宣伝部 金井菜々美さん
「社員一人一人が社内に向けて発信したいと考えていることを、直接、自分の言葉や思いで伝える。それがリスナーにもきちんと伝わることで、会社の中でのシナジー(相乗効果)を生み出したい」

経営と従業員つなぐ社内ラジオ

一方、パーソナリティーを社長自らが務める会社もあります。
三菱マテリアル 小野直樹社長
「皆さん、ご安全に。社長の小野です。皆さんからの質問を取り上げて答えるというよりも、一緒に悩むということで進めていけたらと思います」
こう呼びかけるのは、「三菱マテリアル」の小野直樹社長。

去年から毎月1回、20分程度の音声コンテンツを生配信しています。

タイトルは「千思万考ON AIR」。

小野社長の座右の銘だそうです。

ラジオは、社員からの質問に小野社長が答えながら進みます。

質問は匿名で投稿。

仕事に関するものから、社長の趣味や好きな食べ物、「一番モテた時期はいつですか?」といったものまで、どんな質問にも対応します。
小野社長
「ラジオネーム・だるまさんからの質問、どうやったら社長になれますか?」
「これをやってきたから社長になったということはありませんが、自分自身がやれることは精一杯やってきました。一番重要なのは自分が持っている力は100%出すということだと思います。出し切れずに終わってしまうのはもったいないので、皆さんにもそういう気持ちで仕事に取り組んでもらいたいです」
これまでに寄せられた質問はおよそ300件。

その多くが、30代以下の若手社員からだったということで、小野社長は、デジタルに慣れ親しんだ世代に経営側がアプローチするための有効な方法だと感じています。
小野社長
「自分が若い時のことを考えても、会社の社長や役員は遠い存在で、その人たちが言っていることもまた遠い話になってしまいがち。社長や経営陣の人となりを知ってもらうことで、私たちのメッセージがより深く伝わることにつながるのではないか」

専用アプリの活用も

社内ラジオに取り組む企業が増える中、専用アプリの利用も広がっています。

音声のソーシャルメディアを運営する「Voicy」では、2019年から企業に向けた社内ラジオのサービスを開始。

現在、50社以上が導入しています。

アプリでは、リスナーがコンテンツを再生できるだけでなく、制作する側も、収録や配信などをスマホ1つでできるようになっています。
ホームセンター大手の「カインズ」では、このサービスを使って、ことし2月から社内ラジオを始めました。

コンテンツの制作には11人のメンバーが関わり、多いときには週4日、配信しています。
ある1週間のスケジュール
月曜日:みんなのおすすめDIY
水曜日:人事役員と著名人の対談
木曜日:健康相談室からのアドバイス
金曜日:社内ラジオDJの店舗訪問
内容は、「家庭菜園」や「キャンプ」といったテーマに精通する人たちが集まり、自身のこだわりや道具の活用法を語り合うコーナーなどさまざまです。
入社式など社内のイベントにスマートフォンを持って駆けつけ、その模様を配信するのも定番になっているそうで、会社では、社員のコミュニケーションを促進するための重要な人事戦略として位置づけています。
編集長を務める人事マネジメント部の三木沙織さん
「将来的には、全国各地にパーソナリティーを設けて、各エリアから社内ラジオを発信していくような形にしたい。小売業は業務の効率化が進められ、会社全体のコミュニケーション不足が課題。社内ラジオをプラットフォームの1つとして、組織全体の一体感を生み出したい」
私自身、テレビ番組を制作する立場ではありますが、それぞれの会社の社内ラジオは面白いものばかりで、音声メディアの新しい形に可能性を感じ、刺激になりました。

社員同士のコミュニケーションだけでなく、一人一人のモチベーション向上にもつながる取り組みで、今後の広がりを期待したいです。
政経・国際番組部
新野高史
2011年入局
京都局、おはよう日本、首都圏局を経て、2021年から現所属