
円安Q&A 元財務官 榊原英資氏 “円安阻止 介入の難易度高い”
1997年から1999年にかけて旧大蔵省で為替政策を統括する財務官を務め、24年前の「ドル売り円買い」の市場介入を指揮するなど、積極的な市場介入を繰り返して「ミスター円」と呼ばれた榊原英資氏は、市場介入はサプライズをねらってやるものだが、円安阻止の介入の難易度は高いと指摘します。
Q.一向に歯止めのかからない円安に対して、政府・日銀は21日のニューヨーク市場で再度の市場介入を実施したほか、24日の東京市場でも市場介入を実施したという観測が広がっている。介入のねらいは?
A.僕が市場介入をやったときは、できるだけマーケットに対してサプライズになるように心がけていた。
例えば昼休みの時間帯とか、これからお盆休みに入る時とかね。
だから、今回もおそらく日本時間の深夜とか予期しないタイミングをねらった当局の意図だと思う。
介入をマーケットに先取りされるのは嫌だし、介入するからには効果を持たせないといけないから、ドンとやるってことが大事。
Q.市場介入の事実を明らかにしていない。「覆面介入」にしている理由は。
A.介入の実績はいずれは公表されて分かるが、しばらくは隠しておきたいときには、今回のようないわゆる「覆面介入」にする。
これはなぜかと言えば、マーケットに対して‘不確実性’を残しておきたいからだ。
マーケットを多少、疑心暗鬼にさせて介入の影響力を残しておきたいわけで、どのタイミングで実施したのかということを知らせないほうが一定の効果を持つ。
公表しないのも1つの戦略だ。
最終的には大臣判断だが、公表も含めて財務官が方針を決めていると思う。
Q.財務省の神田財務官は、市場の投機的な動きに対じするため「24時間365日」の態勢をとっていると話す。OBとして今の緊張感はどれほどだと推察するか。
A.これは当たり前のことだ。
財務官というものは、常に為替を見ているもの。
それでもわざわざ「24時間365日」と表現するのは、今がある意味で非常事態、臨戦態勢をとっていると言いたかったのではないか。
Q.政府は断続的に介入する姿勢をみせているが、いつまで続けられると思うか?
A.円安阻止のための介入は実はあまり効果がない。
円高阻止の介入は円をどんどん売って、ドルを買えばいいわけだから、売る円はいくらでもあってどこまでもできる。
僕が国際局担当のときの為替担当の課長は勝栄二郎(のちの財務事務次官)だったが、そのときは「勝よ、勝つまでやりきりなさい」と指示を出したくらいで、それだけ円高阻止の介入は強気になれたことをよく覚えている。
一方で、円安阻止の介入はドルを売らないといけないが、持っている外貨準備にはかぎりがある。
僕が円安介入をやったときは外貨準備高の10分の1を使ったタイミングで「もうこれ以上はできない」と思って止めざるをなかった。
手持ちの外貨準備にかぎりがある以上、円安阻止はかなり難しい。
Q.それでも今回は介入に踏み切っている。
A.それは重々承知の上でやっているんだろう。
効果が続かないかもしれないけども、一応円安阻止の姿勢として、介入してみせているということだと思う。
まだまだやるぞっていうポーズはとらないといけない。
Q.一方で、アメリカのバイデン大統領は「ドル高を懸念していない」と発言し、ドル高を容認する意向。日本政府にとって円安ドル高是正のハードルはどこまで高い?
A.アメリカは昔から強いドルを志向する傾向がある。
私が財務官だったときのカウンターパートはローレンス・サマーズ財務長官だったが、電話1本で連絡をとるくらい気脈が通じていた。
それこそG7などの国際会議の場で年に何度も直接顔を合わせるし、今だってそうだろう。
介入するときには常にアメリカと連絡をとって了解をとらないといけないから、介入がすでに実施されたということはアメリカも反対せずに容認しているということだ。
Q.かつては「円は安全資産」の代名詞だったが、今は投機的な対象になっているとの指摘も。この先「円」はどうなるの?
A.円が安全資産というのは大きく変わったわけじゃない。
これは日米の金融政策の差で生じている現象だ。
アメリカが利上げに走っている一方で、日本は金融緩和を続けるということであれば当然ドル高円安になるわけだ。
日銀の黒田総裁の任期は来年の4月で、黒田総裁は当面は金融緩和を続けると言っているので、円安基調は変わらない。
そういう状況はしばらくは続くだろうし、むしろ円安は今後も加速する可能性がある。
例えば来年の末ぐらいには今より20円、円安が進んで170円ぐらいになっている可能性もある。
ただ、円が信認を失ったとまでは思わないので、日銀が金融引き締めの姿勢を見せれば円高に振れるんだろう。
もちろん日本経済の状況によるが、そこまで悲観的にならなくてもよいはずだ。
(聞き手・経済部・野上大輔)