音楽教室の著作権使用料「生徒は対象外」最高裁判決ポイントは

レッスンで使う楽曲について音楽教室が著作権使用料を支払う必要があるかどうかが争われた裁判で、最高裁判所は生徒の演奏は対象にならないとする判決を言い渡し、先生の演奏にかぎり教室側に使用料を徴収できるという判断が確定しました。

音楽教室での著作権について司法判断が確定するのは初めてです。

●今回の裁判と最高裁判所の判決のポイントを、記事の後段でQ&A形式でまとめています。

ヤマハ音楽振興会などおよそ250の音楽教室の運営会社などは、楽曲の著作権を管理するJASRACが2017年、音楽教室に楽曲の使用料を請求する方針を示したことに対し、「支払う義務がない」と主張して訴えを起こしました。

2審は先生と生徒の演奏を分けて考え、先生の演奏については使用料を徴収できるとした一方、生徒の演奏は対象にならないと判断し、最高裁では生徒の演奏について音楽教室から使用料を徴収できるかが争われました。
24日の判決で最高裁判所第1小法廷の深山卓也裁判長は「音楽教室での生徒の演奏は、技術を向上させることが目的で、課題曲の演奏はそのための手段にすぎず、教師の指示や指導も目的を達成できるよう助けているだけだ」と指摘しました。

そのうえで、「生徒の演奏はあくまで自主的なものだ」として、音楽教室が演奏させているわけではないと判断し、生徒の演奏について音楽教室から使用料をとることはできないとする判決を言い渡しました。

裁判官5人全員一致の判決です。

これにより、先生の演奏に限って使用料を徴収できるという判断が確定しました。

音楽教室での著作権について司法判断が確定するのは初めてで、全国の音楽教室に影響を及ぼすとみられます。

●今回の裁判と最高裁判決のポイントは

音楽教室のレッスンについて楽曲の使用料を徴収できるかが初めて争われた裁判は、先生の演奏にかぎり使用料を徴収できるという結論になりました。

今回の裁判と最高裁判決のポイントです。

Q.どんな裁判だったのか?

裁判を起こしたのはおよそ250の音楽教室の運営会社などです。
楽曲の著作権を管理するJASRACが5年前、音楽教室から著作権使用料を徴収する方針を示したことに対し、「支払う義務がない」と訴えていました。

裁判の主な争点は2つ。

1つ目は、楽曲を使用しているのは音楽教室なのか、それとも実際に演奏する先生や生徒なのかということ。

2つ目は、レッスンでの演奏が公衆に聞かせるためのものといえるかどうかです。

著作権法では、公衆の前で演奏した場合、楽曲の作曲者や作詞者に「演奏権」があると定めていて、承諾を得ずに演奏すると著作権の侵害にあたります。

Q.1審と2審ではどう判断された?

1審は、楽曲を利用しているのは事業者である音楽教室で、公衆である生徒に聞かせる目的で演奏しているとして、使用料を徴収できると判断。

音楽教室側の訴えを退けました。

一方、2審は先生と生徒の演奏を分けて考え、先生の演奏は、「音楽教室が公衆にあたる生徒に聞かせる目的で行っている」と徴収を認めましたが、生徒については「みずからの技術向上のために自主的に演奏している」として徴収の対象にはならないと判断しました。

Q.最高裁の審理で対象になったのは?

2審の判決を不服として双方が上告しましたが、最高裁判所は先生の演奏については審理の対象にしなかったため、争点は生徒の演奏に絞られました。

音楽教室側は「生徒の演奏はみずからの意思による自主的なもので、音楽教室が使用料を払う義務はない」と主張。

一方、JASRAC側は「生徒は音楽教室が用意するテキストから課題曲を選び、教室の手足ともいえる教師の指導のもと演奏している」と述べ、生徒の演奏を管理し、利益を得ている音楽教室から使用料を徴収できると主張しました。

Q.最高裁の判決 最大のポイントは?

最大のポイントは、音楽教室が生徒に演奏をさせているといえるかどうかです。

判決はまず演奏の主体が誰なのか判断するには「演奏の目的や方法、演奏に対する関与の内容や程度などを総合的に考慮すべきだ」という考え方を示しました。

そのうえで、生徒の演奏の目的については「教師から指導を受けて技術を向上することで、課題曲の演奏もそのための手段にすぎない」と指摘。

さらに、教師や教室の関与についても「教師によって伴奏や録音物の再生が行われたとしても生徒の演奏を補助するものにとどまる。教師は課題曲を選んで指示や指導をするが、生徒が目的を達成できるよう助けているだけだ」として、演奏は生徒の自主的なものだと判断。

音楽教室が生徒に演奏させているわけではないとして、生徒の演奏について音楽教室から使用料をとることはできないと結論づけました。

楽曲の著作権使用料をめぐってはこれまでカラオケやライブバーなどについても裁判で争われてきましたが、徴収を否定した最高裁判決は初めてです。

これにより、音楽教室から徴収できるのは先生の演奏についてのみという判断が確定しました。

音楽教室側が会見「最悪の事態は避けられた」

判決を受けて原告側は会見を開き、音楽教室などでつくる「音楽教育を守る会」の大池真人会長は、「生徒の演奏には著作権が及ばないという判断が出されたことはひとつの区切りで、5年に及ぶ裁判で、100点満点の結果ではないが最悪の事態は避けられたと思っている」と話しました。

そのうえで、「今回の司法判断を誠実に、真摯(しんし)に受け止め、今後、JASRACとは音楽教室での講師の演奏と録音物の再生について、適切な使用料を協議したい」と話しました。

JASRACが会見「主張が認められず残念」

今回の判決を受けて、JASRAC=日本音楽著作権協会の伊澤一雅理事長が東京都内で会見を開き、「今回の判決で、音楽教室での演奏に著作権が及ぶことは確定したが生徒の演奏についてはJASRACの主張が認められずまことに残念だ。裁判での判断が出るまで契約を待つとしていた方々もいるが、いずれにしても音楽教室に著作権が及ぶと確定した以上は、必要なライセンスを提供できるよう速やかに話し合いを進めていきたい。改めて多くの方々が音楽に触れられる豊かな社会のために歩みを進めていきたい」と述べました。

専門家「実態に即した判断だ」

判決について音楽の著作権に詳しい学習院大学の横山久芳教授は「生徒の演奏は自主的なもので、教師の指導は補助的なものにすぎないという内容で、音楽教室のレッスンの実態に即した判断だ。JASRACがもともと示していた徴収額には先生に加え生徒の演奏の分も含まれているので、金額が見直されることも予想される。音楽教室側が当初懸念していたよりは楽曲を選びやすくなるのではないか」と話しています。

そのうえで「音楽教室と雇用関係がある教師の演奏については、現在の著作権法では使用料が生じることはやむをえないが、教室が利益をあげていても演奏自体の目的は教育にある。将来的には教育目的の教師の演奏について著作権料の支払いを制限する立法などを検討する必要があると思う」と指摘しています。