日豪首脳会談 新たな安全保障協力の共同宣言に署名

岸田総理大臣は、オーストラリアのアルバニージー首相と会談し、中国などを念頭に、日豪両国や周辺地域に影響を及ぼしうる緊急事態の際に相互に対応措置を検討することを明記した安全保障協力に関する新たな共同宣言に署名しました。また、資源エネルギーの安定供給に向けた連携も確認しました。

オーストラリア西海岸の都市、パースを訪問した岸田総理大臣は、日本時間の午前11時ごろからおよそ2時間にわたってアルバニージー首相と会談しました。

会談のあと両首脳は、海洋進出の動きを強める中国などを念頭に、両国の安全保障協力に関する新たな共同宣言に署名しました。

この中では、ルールに基づく秩序や、国際法の遵守による安全な海洋の重要性などを指摘しています。

そのうえで、日豪両国や周辺地域に影響を及ぼしうる緊急事態に関し、相互に協議し、対応措置を検討すると明記しています。

そして、共同訓練の実施や施設の相互利用など、自衛隊とオーストラリア軍の協力を深化させるなどとしています。

また、首脳会談では、太平洋島しょ国などとの関係を強化していくことや、ウクライナ情勢、それに、核・ミサイル開発を進める北朝鮮への対応などでも協力を進める方針で一致しました。

このほか、両首脳は、台湾海峡の平和と安定の重要性を再確認し、両岸問題の平和的解決を促していくことを申し合わせました。

さらに、LNG=液化天然ガスやレアメタルなど、資源エネルギーの安定供給に向けた連携も確認しました。
岸田総理大臣は会談のあとの共同記者発表で「新たな宣言は、安全保障・防衛協力の今後10年の方向性を示す羅針盤となる。『特別な戦略的パートナーシップ』の強化は、地域や国際社会の平和と安定に重要な役割を果たすもので、日豪関係のちゅうたいをさらに強じんなものにしていく」と述べました。

オーストラリア首相「宣言は戦略的な連携を地域に示すものに」

オーストラリアのアルバニージー首相は、岸田総理大臣との首脳会談のあとの共同記者発表で「日本との連携は、教育、気候変動対策、防衛、宇宙開発などあらゆる分野においてさらに強化されていく。われわれの関係は、安定や連帯感だけでなく、ぬくもりや信頼、敬意のあるものだ」と述べ、日本との協力のさらなる拡大に期待を示しました。

そのうえで、今回、岸田総理大臣との間で署名した安全保障協力に関する新たな共同宣言について「この画期的な宣言は、われわれの戦略的な連携を、地域に対して強く示すものになる」と述べ、海洋進出を強める中国を念頭に、日本と安全保障面での連携を強化していくことの意義を強調しました。

岸田首相「豪州と協力確認でき 大変重要な訪問だった」

岸田総理大臣は、訪問先のオーストラリアで記者団に対し「安全保障環境が厳しさを増す中、基本的な価値や戦略的な利益を共有し、日本経済にとっても特に重要性を持つ豪州と、安全保障・防衛分野や資源エネルギー分野での協力を確認でき、大変、重要な訪問だった」と述べました。

そのうえで「ウクライナ情勢などから資源エネルギーの安全保障に対する重要性が指摘される中、アルバニージー首相からは『豪州は信頼できるパートナーであり、安全な投資先であり続ける』という発言をいただいた。日豪の特別な戦略的パートナーシップを一段と高い次元に高めることができた」と述べました。

知日派の専門家 “日本との経済連携の加速へ極めて重要な機会”

今回の首脳会談について、専門家は、会談が行われる西オーストラリア州が天然ガスなどの輸出資源の生産拠点となっていることから、オーストラリアとしては経済面で日本との連携を強化する姿勢を示したいねらいがあると指摘しています。

知日派として知られ、オーストラリアの外交政策にも詳しいシドニー大学アメリカ研究センターのマイケル・グリーン所長は、オーストラリアと中国が貿易分野で対立していることを念頭に「オーストラリアは中国への輸出の依存をやめ、より信頼できるパートナーである日本との貿易を増やしたいと考えている。今回の首脳会談は、経済面での連携にさらに勢いをつけるためにも極めて重要な機会になる」と指摘しています。

また、南太平洋のソロモン諸島がことし4月、中国と安全保障に関する協定を結んだことについて「この事例で学んだことは、もしわれわれが注意を払わず、気候変動問題や開発への支援を怠れば、こうした国々は中国を利用するということだ。もっと注意を払う必要がある」と述べて、太平洋島しょ国との関係強化を重視するアルバニージー政権にとって、会談で日本との連携を確認することが重要だとの見方を示しました。

そのうえで「今回の首脳会談は、インド太平洋地域の将来は中国やアメリカだけが決めるものではないということを世界に示すものになる」として、オーストラリアにとって安全保障面などで価値観を共有する日本と協力を強化することは、地域の安定につながるとの考えを示しました。

安全保障協力に関する新たな共同宣言の詳細

海洋進出を強める中国や、核・ミサイル開発を活発化させる北朝鮮など、インド太平洋地域の情勢が厳しさを増す中、日豪両国がまとめた安全保障協力に関する新たな共同宣言の詳細です。

【1 はじめに】
冒頭、自由で開かれたインド太平洋の柱となる日豪両国の「特別な戦略的パートナーシップ」の重要性を再確認するとともに、今後10年にわたって安全保障に関して、包括的な関与を深化・拡大させていくとしています。

【2 両国が目指す地域の姿】
そして、両国が目指す地域の姿として「自由で開かれたインド太平洋」は、主権と領土の一体性が尊重されるルールに基づく秩序、国際法の遵守による開かれて安全な海洋、サイバーや宇宙など共通の課題での包摂的で透明性のある制度や規範などに支えられていると指摘しています。

【3 これからの取り組み】
続いて、これからの日豪両国の取り組みが盛り込まれていて、まずは、共有された目標に向けて緊密に取り組むとして、毎年、首脳会談や外務・防衛の閣僚協議、いわゆる2プラス2などあらゆるレベルでの対話を強化していくとしています。

そのうえで、日豪両国の主権および地域の安全保障上の利益に影響を及ぼしうる緊急事態に関し、相互に協議し、対応措置を検討すると明記されています。

また、日本とオーストラリアにアメリカを加えた3か国の協力を深化させることが、日豪両国の政策調整や部隊の相互運用性、および共同能力を強化するために必要だと指摘しています。

【4 具体的な防衛協力は】
そして、具体的な防衛協力の取り組みとして、より洗練された共同訓練の実施や施設の相互利用、それに人的交流など、自衛隊とオーストラリア軍の協力を深化させるほか、情報収集や警戒監視、それに先端科学技術や防衛産業などでの協力を強化するとしています。

また、サイバーや宇宙領域への対応で連携するほか、重要なサプライチェーンへの脅威など、国境を越える重大な組織犯罪に対し協力や情報交換を強めていくとしています。

【5 最後に】
このほか、日豪両国は、経済安全保障でも協力を進めることや、ASEAN=東南アジア諸国連合や、PIF=太平洋諸島フォーラムなど、地域のほかのパートナーとの連携を進めるとしています。

そして、両国の「特別な戦略的パートナーシップ」の潜在力を最大限のものとしていき、インド太平洋地域における平和と安定に貢献するため、あらゆるレベルで行動していくと締めくくっています。