円相場 150円後半まで値下がり 32年ぶりの円安水準を更新

21日の東京外国為替市場は、アメリカで利上げのペースが速まるという観測を背景に一段と円安が進み、円相場は1ドル=150円後半まで値下がりして、およそ32年ぶりの円安水準を更新しました。

21日の東京外国為替市場は、アメリカの中央銀行に当たるFRB=連邦準備制度理事会の幹部らからインフレを懸念する発言が出たことをきっかけに、ドル買い円売りが進んでいた20日のニューヨーク市場の流れを引き継いで、じりじりと円安が進んでいました。

さらに、夕方になってからは、アメリカの長期金利の上昇を受けて、ドルを買って円を売る動きがさらに強まり、円相場は1ドル=150円台後半まで値下がりして、およそ32年ぶりの円安水準を更新しました。

午後5時時点の円相場は20日と比べて61銭円安ドル高の1ドル=150円47銭から49銭でした。

ユーロに対しては、20日と比べて61銭円安ユーロ高の1ユーロ=147円27銭から31銭。

ユーロはドルに対して、1ユーロ=0.9787から89ドルでした。

市場関係者は「アメリカの長期金利の上昇に加えて、引き続き日米の金融政策の方向性の違いから円が売られやすい状況になっている。そして、日本の貿易赤字が恒常化するという見方も円安が進みやすい要因とみられている。ただ、急激な円安が進むことになれば市場介入への警戒感がさらに強まりそうだ」と話しています。

原材料価格の高騰 円安で ホームセンターでは

原材料価格の高騰や急速に進む円安の影響で、ホームセンターでは多くの商品が値上がりしています。

ファンヒーターなども値上がりしていて、大阪の店舗では冬を前に困惑する買い物客の姿も見られました。

ホームセンターなどを運営する「コーナン商事」は原材料価格の高騰や円安の影響を受け、これまでに全商品のおよそ3割、5万5000点ほどの商品を平均で10%から15%値上げしています。

中でも、トイレットペーパーやラップなどの日用品、棚などの収納商品、毛布や布団といったインテリア用品などの値上げが多いということです。

これから冬を迎えますが、ファンヒーターの中には、去年の価格からおよそ30%に当たる8000円値上げしたものもありました。

大阪 淀川区の店舗に買い物に訪れた70代の男性は「こたつを新調しに来たが1年前に買ったときよりも高くなっていた。日頃の買い物も値上げされていて年金暮らしだから困っている」と話していました。

この会社では、海外で製造している自社ブランドの商品の値段を据え置くなどしてきましたが、急激に進む円安の影響は価格には反映しておらず、先行きが見通せない状況だといいます。

コーナン商事株式会社の油井武史執行役員は「急激に進む円安は、企業としての想定の範囲を超えている状況だ。このまま円安が進むと自社製品も含め幅広い商品で値上げは避けられないと考えている。慎重に検討し、お客様のニーズを踏まえて対策していく」と話していました。

留学検討する大学生 費用負担の増加へ懸念

急速に進む円安の影響で海外留学を検討する大学生の間では、費用負担の増加への懸念が強まり、愛知県の大学では負担を軽減するための対応をとっています。

愛知県春日井市にある「中部大学」では、急速な円安の進行や物価高を受けて、海外留学を検討する学生から「費用が工面できるか不安だ」という相談が増えているということです。

大学では学生の負担を減らそうと、オーストラリアへの短期留学について、期間をこれまでの4週間から3週間に短縮し、飛行機を直行便から価格が割安な乗り継ぎ便に変更しました。

また、もっとも人気が高いアメリカの提携校への4か月間の留学プログラムでは、学生たちが日本円で納めた授業料の中からドルで現地に留学費用を支払っているため、円安による増加分は大学側が負担しています。

大学によりますと、1ドル=150円の状況が続いた場合、来年度は今年度に比べ年間で1800万円程度、大学側の留学費用の負担が増える見通しだということです。

来年2月からアメリカ留学を検討している大学1年生は「一気に円安が進んで不安な気持ちが大きくなっています。食費を削るなどして節約しています」と話していました。

また、中部大学の塩澤正国際センター長は「大学の負担増加はあるが、必要経費だと考えるようにしたい。こうした状況の中でも多くの学生に留学してもらいたい」と話していました。

若手農家は先行きを不安視

円安が急速に進み肥料や飼料の価格高騰が続く中、農業をとりまく情勢が厳しさを増しています。

北海道帯広市で開かれた若手農家と生産者団体との意見交換会では、農家から先行きを不安視する声が相次ぎました。

20日、帯広市で開かれた会合では、十勝地方の農協の青年部に所属する若手農家およそ30人が、ホクレン農業協同組合連合会帯広支所の担当者と農業をとりまく課題について意見を交わしました。

若手農家からは急速に進む円安の影響について質問が相次ぎ、上士幌町の酪農家は「飼料価格の高騰を受けていま酪農の経営はとても厳しい。今後さらに悪くなるのか見通しが知りたい」とたずねました。

これに対し、ホクレンの担当者は、飼料価格の相場は為替で決まり、ドル比で1円動くと配合飼料の価格は1トン当たり数百円程度動くと説明したうえで「為替がずっと円安傾向で動いていて、先行きとしてはかなり厳しい情勢だと想定している」と回答しました。

また、帯広市の畑作農家は「ユーロや人民元は円に対して為替の変動は少ないが、例えば人民元建てで資材を購入して上昇分を抑えることはできないか」とたずねました。

これに対し、ホクレンの担当者は「海外メーカーもドルをほしがり、原料のほぼすべてがドルでないと買えない状況になっている」と回答しました。

ホクレン帯広支所の宗像伸行支所長は「円安がこれからどこまで進むのか、先行きの見えない不安に対する意見が多かった。ほとんどの品目に影響が出ているので、国や行政の力も借りながら、さらなる販売努力が必要だと思っている」と話していました。

上士幌町の酪農家で十勝地区農協青年部協議会の菅原崇会長理事は「このまま円安が進んで飼料価格が上がり続けると、あした生きていけるかどうかの問題になる。ホクレン側からは計画段階の対策についても話してもらい、同じ目線に立ってくれていると感じた」と話していました。

農業機械メーカーは打撃

円安が進む中、農業機械を製造する岡山県のメーカーは、輸出でのメリットは乏しく輸入する部品のコスト上昇が経営の打撃になっているとしています。

岡山市東区に本社がある農業機械メーカーは、耕うん機や草刈り機などを製造し国内外に販売しています。

使っている部品の半数を海外から輸入していますが、急速な円安や原材料価格の高騰の影響で、部品の仕入れ価格が1年前と比べて30%以上値上がりし、そのコストは年間で10億円増加しているということです。

しかし、製品のおよそ9割がほかのメーカーから生産を請け負っているもので、コストの上昇分を販売価格に転嫁するのは難しいのが実情です。

また、一部の製品をアメリカやヨーロッパなどに輸出していますが、間に入っている日本の商社と円で取り引きしているため、円安のメリットも乏しいとしています。

農業機械メーカー、オカネツ工業の和田俊博社長は「円安によってものすごい打撃を受けている。しかし、それで疲弊していたら経営は成り立たないので、円安が進む中でも利益を上げる手法を考えないといけない」と話していました。

海外からの ネットショッピング利用者増加

急速に進む円安の影響で、海外からネットショッピングを利用して買い物をする人も増えています。

海外に住む人のネットショッピングをサポートするサービス「Buyee」を展開している企業には、円安の影響を受けてアメリカやASEANなどからの利用者が増えているといいます。

SNSでは、フリマアプリなどに出品した人から「円安を実感するBuyeeばっか」や「さすが円安ってくらいにポンポン売れていく」などといった投稿が見受けられます。

会社によりますと、フィギュアなどのほか、腕時計やブランドバッグ、カメラ、高級ウイスキーなど高価な商品がよく売れていて、2年前に比べて販売額は8割ほど増えているということです。

サービスを運営するBEENOSの直井聖太社長は「以前のインバウンドの爆買いとは、また違った消費が生まれている。円安ということで、実際の価値よりも比較的安く買えるのが海外の人たち。日本は人口が減っていくので、将来的にはマーケットが小さくなる覚悟をする必要があるかもしれず、世界に目を向けていく必要があり、円安は確実に後押しがある」と話しています。

鈴木財務相「高い緊張感をもって注視」

鈴木財務大臣は、21日朝の閣議のあとの記者会見で、円相場が1ドル=150円台前半まで値下がりしていることについて「投機による過度な変動は容認できない。為替市場の動向を高い緊張感をもって注視するとともに、過度な変動に対しては適切な対応をとるという考えに、いささかも変わりはない」と述べ、市場の動きを注視するとともに、必要な場合には市場介入も含めて対応する考えを改めて強調しました。

西村経済産業相「中小企業などの輸出拡大を支援」

西村経済産業大臣は、21日の閣議のあとの会見で「経済的にはプラス面とマイナス面の双方がある。特に今は急激な変化で円安のマイナス面が少し大きくなっているということだと思うが、輸出している事業者にとってはよい環境になる」と述べました。

そのうえで「これまで輸出をしてこなかった中小企業などは大きなチャンスだと思うので、総合経済対策の中で輸出を一層拡大するためのさまざまな支援を行っていきたい」として、円安を生かして輸出の拡大などに取り組んでいく考えを示しました。

公明 石井幹事長「政府の総合経済対策で国内経済に波及を」

公明党の石井幹事長は、記者会見で「歴史的な円安水準であり、強い警戒感を持って注視している。わが国の金融政策を欧米のように大幅に変えられるかというと、コロナ禍からの回復も十分でない中、なかなか難しい状況もある。政府の総合経済対策をしっかりした中身のものに作り上げて補正予算を成立させ、国内経済に波及できるようにしてもらいたい」と述べました。