英 トラス首相 与党党首辞任を表明 経済政策めぐり求心力低下

大型減税など経済政策を相次いで撤回し求心力が低下していたイギリスのトラス首相は20日、与党・保守党の党首を辞任する考えを明らかにしました。
そのうえで来週、党首選挙を行い、次の党首が決まり次第、首相も辞任することを明らかにしました。

先月就任したトラス首相は、大型減税によって経済成長を促す政策を掲げてきましたが、財政悪化への懸念から市場の混乱を招いたと指摘されて政策を相次いで撤回する事態になり、保守党内からも辞任を求める声が強まっていました。

今月17日に行われた公共放送BBCのインタビューや19日に行われた議会の答弁で辞任を否定していましたが、党内外で求心力が低下し政権運営が難しくなっていました。

トラス首相「負託に応えられないため党首を辞任」

イギリスのトラス首相は20日、ロンドンの首相官邸前で声明を発表し「経済的にも国際的にも非常に不安定な時期に首相に就任し、私はこの状況を変えることを期待されて保守党から選出された。しかし、私は負託に応えられないため党首を辞任するとチャールズ国王に伝えた」と述べ、与党・保守党の党首を辞任する考えを明らかにしました。

そのうえで、来週にも党首選を行い、次の党首が決まり次第、首相も辞任することを明らかにしました。

“就任から45日目” 首相在任期間 最短の見通し

トラス首相は先月6日に就任し、今月20日現在、就任から45日目で、イギリスの公共放送BBCは、イギリスの首相の中で史上、最も短い在任期間となる見通しだと伝えています。

イギリスの首相でこれまで在任期間が最も短かったのは、1827年に就任し在任中に肺炎で死去したジョージ・カニング首相の119日間でした。

ロンドンの街 受け止めはさまざま

トラス首相が辞任を表明したことについて、ロンドンの街ではさまざまな声が聞かれました。

保守党を支持しているという20代の女性は「トラス首相は正しく仕事をしていなかった。国民の利益を考え仕事をする人が必要だ。私は結構、ジョンソン前首相が好きだった。首相の座に戻りたければそれでもいいのではないか」と話していました。

ロンドンを訪れているめいとそのおじは「やっかい払いができた気分だ。ずっと混乱している状況で、長く持たないだろうと思っていた。ジョンソン前首相が、戻ってこようとしているという話も、本当にばかばかしい。総選挙をする必要がある」と述べ、政治的な混乱に対して憤っていました。

一方、50代の男性は「トラス首相の辞任表明は残念だが、こうなることは予想していたので、この後、よい方向に向かうことを期待している。私たちには国をまとめ上げるリーダーが必要だ。これからの嵐を乗り切り、国をよくすることを優先させるべきだ」と話していました。

英 最大野党党首「政策比較するため総選挙を」

イギリスの最大野党・労働党のスターマー党首は、トラス首相が辞任することを表明したのを受けてコメントを発表しました。

このなかでスターマー党首は「保守党は、もはや政権を担う権限がないことを示した。イギリス国民の同意なしに上層部の人たちを入れ替えるだけではこの惨状には対応できない。より公平で環境に優しい未来のために国を再建するという労働党の政策と比較する機会を作るため、総選挙を行うことが必要だ」と主張しました。

アメリカ バイデン大統領「強固な同盟関係 変わることはない」

アメリカのバイデン大統領は20日、声明を発表し「アメリカとイギリスは強固な同盟関係と永続的な友好関係にあり、その事実は変わることはない」としています。

さらに、トラス首相に対して、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアへの対応を巡って共に取り組んだことについて謝意を示し、「両国が直面する地球規模の課題に取り組むために引き続きイギリス政府と緊密に連携していく」としています。

フランス マクロン大統領「イギリスの安定を願っている」

フランスのマクロン大統領は記者団に対し「同僚が去っていくのを見るのは悲しい。フランスは、イギリス国民の友人として、何よりもイギリスの安定を願っている」と述べ、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻やエネルギー危機といった国際社会の喫緊の課題に対応するためにも安定したイギリスと協力していく必要があるという考えを示しました。

日本 政府関係者「日本に好意的だったので残念」

政府関係者の1人は「イギリスの内閣の不支持率が高くなっていたので早晩、倒れる可能性はあると考えていたが、トラス首相は日本に好意的だったので残念だ。普遍的な価値観を共有するパートナーとして、関係強化を目指していくことに変わりはない」と話しています。

別の政府関係者は「日本にとってはあまりよくなく、間接的にいろいろ影響を受けるだろう。イギリスとは『自由で開かれたインド太平洋』の考え方が一致していたし、対ロシアや対中国の政策など、外交や安全保障では日本と同じ軸に立つ国なので、首相の交代で基本方針が変わると困る」と話しています。

外務省幹部「イギリスは影響力大きい国 安定を」

外務省幹部は「イギリスはG7=主要7か国の一角で、NATO=北大西洋条約機構の加盟国でもある影響力の大きい国であり、安定していてもらわないといけない。今後の推移を注視したい」と述べました。

後任の党首選挙の日程は

保守党は20日、トラス首相の後任を決める党首選挙の日程などを発表しました。

それによりますと、立候補は24日の午後2時、日本時間の午後10時に締め切られ、それまでに下院議員100人の推薦を得る必要があります。

立候補に必要な推薦人の数は前回の20人から大幅に増え、保守党の下院議員は357人いるため、立候補できるのは最大で3人となります。

立候補者が1人しかいなかった場合、立候補が締め切られた24日の時点で新しい党首が決まります。

立候補者が2人いた場合、政策について議論する討論会を経て、党員によるオンライン投票が28日まで行われ、結果はその日のうちに発表されます。

立候補者が3人いた場合、まず議員による投票で上位2人に絞り込んだ上で、同じ手順で新しい党首を決めるということです。

トラス氏とは

トラス首相は去年9月にジョンソン前政権の外相に就任し、当時、ウクライナに軍事侵攻を行う構えをみせていたロシアへの制裁にいち早く動いてウクライナへの支援を推し進め、その手腕を評価する声が高まりました。

その後、相次ぐ不祥事で辞意を表明したジョンソン首相の後任を選ぶ与党・保守党の党首選挙に立候補し、記録的なインフレのなか大型減税を公約に掲げて支持を広げ、先月6日に首相に就任しました。
トラス首相は就任後、所得税の最高税率の引き下げや法人税率引き上げの凍結など総額およそ450億ポンドの大型減税策を打ち出したほか、家庭と企業の光熱費を抑制するため半年間でおよそ600億ポンドを投じる経済政策を発表しました。

しかし、こうした政策の財源が不透明だったことなどから財政の悪化につながるという懸念が広がり、国債の価格が下落して利回りが急激に上昇。

さらに通貨ポンドもドルに対して急落して変動相場制に移行したあとの最安値を記録するなど市場が大きく混乱し、イギリスの中央銀行、イングランド銀行も対応を迫られました。

その結果、トラス政権は今月3日、富裕層の優遇だと批判を受けていた所得税の最高税率の引き下げを撤回すると発表。
さらに翌週14日には法人税引き上げの凍結も撤回し、政権発足から1か月余りでクワーテング財務相を解任する事態になりました。

ただ政策の一部撤回では不十分だとして政策のさらなる見直しを求める声が強まっていたため、17日、新たに財務相に就任したハント氏がトラス政権が打ち出した大型減税策について「ほぼすべてを撤回する」と発表しました。

打ち出した看板政策が次々に撤回される異例の事態にトラス首相は議会でも辞任を迫られたものの続投に意欲を見せていましたが、主要閣僚の内相が辞任を表明し、さらに厳しい状況に追い込まれていました。

世論調査 “首相として「好ましい」” 10%

大手調査会社「ユーガブ」が今月14日から16日にかけて行った世論調査では、トラス氏を首相として「好ましい」と答えた人は10%にとどまり「好ましくない」と答えた人は80%に上りました。

また15日から17日にかけて行った調査で「政権を支持する」と答えた人は7%と調査を始めた2011年以降最低となり、「支持しない」と答えた人は77%でした。

さらに17日と18日に保守党の党員530人を対象に行った調査で、トラス首相は辞任するべきだと答えた人は55%、辞任するべきでないと答えた人は38%でした。

トラス首相が辞任した場合、後任に望ましい政治家を尋ねる質問では、ジョンソン前首相が32%と最も多く、次いで党首選挙の決選投票でトラス氏に敗れたスナク元財務相が23%、ウォレス国防相が10%、モーダント下院院内総務が9%、ハント財務相が7%などとなっています。

岸田首相「今後の動きを注視」

岸田総理大臣は、記者団に対し「イギリスは基本的な価値を共有する、グローバルな戦略的パートナーだと認識している。わが国としては、ロシアによるウクライナ侵略への対応や『自由で開かれたインド太平洋』の構築に向けた協力など、引き続き、イギリスと緊密な関係を維持していかなければならない。今後の動きを注視していきたい」と述べました。