カタール ワールドカップの公式ボール 勝敗を分ける特徴とは?

カタール ワールドカップの公式ボール 勝敗を分ける特徴とは?
サッカーワールドカップ、カタール大会の開幕まで1か月。

大会ごとに注目が集まるのが公式ボール。かつて数々のドラマにも絡んできました。

今回使われる公式ボールを詳しく調べると、ある特徴がわかってきました。
(スポーツニュース部記者 武田善宏)

「アル・リフラ」とは?

カタール大会の公式ボール、「アル・リフラ」。

大小2種類の、形状が異なるパネル合わせて20枚が使われています。
空気抵抗を減らしつつ、表面に細かい模様をつけて凸凹を施すことでキックの正確性とボールが飛ぶ際の安定性を高めているということです。

過去を振り返ると2014年ブラジル大会の「ブラズーカ」に、2018年の「テルスター」。

ワールドカップの公式ボールはその独特のデザインなどに注目が集まってきました。

2000年代に入ると名称もユニークなものが増えてきました。
<2000年代 W杯公式球>
2002日韓大会 フィーバーノヴァ
2006ドイツ大会 チームガイスト
2010南アフリカ大会 ジャブラニ
2014ブラジル大会 ブラズーカ
2018ロシア大会 テルスター
2022カタール大会 アル・リフラ
近年、特に印象的だったのは2010年南アフリカ大会の「ジャブラニ」だったのではないでしょうか。
1次リーグのデンマーク戦で本田圭佑選手と遠藤保仁選手が、このボールで、いずれもフリーキックを決めて、日本の決勝トーナメント進出に貢献しました。

実際に蹴った感覚は?

では今大会で使われる「アル・リフラ」。

実際に蹴った感覚はどうなのか。

日本代表の三笘薫選手などを輩出した、大学サッカーの強豪、筑波大学の選手たちに試してもらいました。
蹴ってもらったのは年代別の日本代表候補に選ばれた経験のある選手。

違いを感じたというのがフリーキックです。
「アル・リフラ」と大学のリーグ戦で使用しているボールでカーブをかけたキックの軌道を比較しました。

映像で確認すると「アル・リフラ」のほうが曲がり幅がより大きいように見えます。
「大学で使っているボールよりも皮が薄くて蹴った力がそのまま伝わっている感覚がある。より曲がって落ちるような気がする」
「しっかり当てるというよりもボールをこすって回転をかけたほうがいい。スピードも伝わりやすいし、曲げやすさとしても曲がりやすくなっていると感じる」

科学的にもデータが

科学的な観点で見た場合、どのようなことが言えるのか。
工学院大学の瀬尾和哉教授は2002年のワールドカップ日韓大会以降、それぞれの公式ボールの特性を調査してきました。
ボールに強い風を当てて飛ぶ状況を再現する実験を行い、「アル・リフラ」と前回、ロシア大会のボール、「テルスター」を比較しました。
ボールに働く空気による力を測定した結果、「アル・リフラ」は「テルスター」に比べて

▼サイドスピンの場合はカーブしやすい特徴があることがわかりました。

▼さらにバックスピンをかけた場合、ボールを浮かせる力が大きいことも明らかになりました。
瀬尾和哉教授
「バックスピンであれば上向きの力が働くし、サイドスピンであればよりボールをカーブさせるような動きにつながる」
想定したのはプロ選手が蹴る25メートルのフリーキック。
カーブをかけて蹴ったボールの軌跡をシミュレーションしたところ、ゴールに到達するまでの時間はまったく同じでしたが、「アル・リフラ」のほうがボール2個分、曲がることがわかったということです。
条件トッププロ選手を想定
距離 25mのフリーキック
初速 28m/秒
回転数 6回転/秒
打ち出し角 15度
ゴールまでの到達速度 アル・リフラ、テルスターともに1.071秒
曲がり幅
アル・リフラ 4.13メートル
テルスター 3.71メートル
※42センチの差(ボール約2個分)

(出典)瀬尾和哉教授が行った実験データ(工学院大・筑波大・東工大の共同研究)
瀬尾和哉教授
「飛行時間が同じにもかかわらずボール2個分カーブするということはストライカーとしては腕の見せどころなのではないか」
このほか、ゴールキックのシミュレーションでも、飛距離はおよそ60メートルとほぼ同じでしたが、滞空時間がおよそ0.2秒、長くなったということです。
ゴールキックの滞空時間
アル・リフラ 3.678秒
テルスター 3.479秒
※約0.2秒アル・リフラが長い

(出典)瀬尾和哉教授が行った実験データ(工学院大・筑波大・東工大の共同研究)
瀬尾和哉教授
「今回のボールの特徴はよく浮く、よく曲がるということ。表面のデザインが変わることによって大会のボールごとにこういう差が出てくる」

専門家は

史上初のベスト8をめざす日本は1次リーグで優勝経験のあるドイツ・スペインと対戦します。

NHKサッカー解説の山本昌邦さんはボールの特性も踏まえたうえで、セットプレーに向けた綿密な準備を進めることが勝敗を分けると指摘します。
山本昌邦さん
「今回のボールの特性を考えるとセットプレーでの得点は増えると思うし、先制点とか決勝ゴールとか大事なところで出てくるのではないか。ゴールキーパーは打った瞬間にこれは枠から出ると思ったのがグッと曲がって来られると反応がどうしても遅れてしまうので曲がるボールに対応する練習をしておくことが非常に重要になる。“準備力”が日本の強みだと思うのでボールの特性を生かして備えてほしい」
スポーツニュース部 記者
武田善宏
2009年入局
鹿児島局、福岡局をへて現所属
プロ野球担当のあと20年夏からサッカー担当