プーチン大統領 一方的併合のウクライナ4州に「戒厳令」

ロシアのプーチン大統領は、一方的な併合に踏み切ったウクライナ東部と南部の4つの州を対象に戒厳令を導入しました。占領する4つの州を戦時体制に移行させることで、南部で反撃を強めるウクライナ軍に対し巻き返しを図りたい思惑があるとみられます。

ウクライナ軍は、ロシアが一方的に併合したとする南部ヘルソン州で反撃を続け、今後、ロシア側に占領された中心都市ヘルソンに向け部隊の進軍を行うとみられます。

これに対し、ヘルソン州の親ロシア派のトップは、19日、ヘルソンなどの住民、5万人から6万人をおよそ1週間かけてロシア側などに強制的に移住させると明らかにしました。

また、これまでにヘルソン州全体で住民のおよそ4割が離れ、占領政策を行う統治機構も安全な場所に移しているとしていて、反撃を強めるウクライナ軍に対し退避を余儀なくされています。

こうした中、プーチン大統領は19日、オンライン形式で安全保障会議を開催し「ウクライナの政権は交渉を拒否している。砲撃が続き、市民が殺害されている」と批判しました。

そのうえで、ロシアが一方的な併合に踏み切ったウクライナ東部のドネツク州とルハンシク州、それに南部のヘルソン州とザポリージャ州の4つの州を対象に戒厳令を導入する大統領令に署名したと明らかにしました。

プーチン大統領は、これまでウクライナへの軍事侵攻について「特別軍事作戦」としてきましたが、占領する4つの州を戦時体制に移行させました。

戦時体制のもと、強権的な行動をとれるようにすることでウクライナ軍に対して巻き返しを図りたい思惑があるとみられます。

さらに、プーチン大統領は「ロシアのすべての自治体のトップにさらなる権限を与えることが必要だ。人々の安全やテロ対策、特別軍事作戦に必要な製品を製造することなどだ」とも述べロシア国内の自治体の権限も強化して軍事侵攻を続ける構えを見せています。

ロシアの「戒厳令」とは

ロシアの法律によりますと、「戒厳令」はロシアに対する侵略または侵略される脅威が生じた場合に発動され、国の防衛や国家の安全を確保するために、市民の権利や自由を必要な範囲で制限できるとされています。

具体的には、移動の自由の制限に加えて、ほかの地域への強制移住といった措置がとられる可能性があります。

また、当局は、国民の財産や企業の資産を差し押さえることができるほか、必要に応じて市民を最大30日間、拘束できるなど市民生活は著しく制限されることになります。

今回の戒厳令は現地時間の20日午前0時、日本時間のきょう午前6時に導入されるということです。

今回はロシアが併合したと主張するウクライナの4つの州を対象としていますが、ロシアのメディアは、戒厳令が発動されたのはソビエト崩壊後初めてだと伝えています。

一方、プーチン大統領は19日、ロシア国内の各自治体の権限を強化する大統領令にも署名しました。

この中では、クラスノダール地方やベルゴロド州など、ウクライナとの国境周辺にある自治体のトップに市民の移動の自由の制限や資産の接収など戒厳令に準じた措置をとる権限を与えるとしたほか、他の地域でも必要に応じて住民保護や領土保全のための措置を適用できるとしています。

ウクライナ政府「犯罪行為」と非難

ロシアのプーチン大統領が、併合したと一方的に主張するウクライナの4つの州を対象に戒厳令を導入したことについて、ウクライナ政府は「犯罪行為だ」などと非難しています。

このうち、ポドリャク大統領府顧問は19日、ツイッターに「戒厳令が出たからといって、ウクライナにとっては何も変わらない。私たちは、自分たちの領土を解放し、占領された土地を取り戻す戦いを続けるだけだ」と投稿しました。

また、ウクライナ政府で安全保障政策を担当する国家安全保障・国防会議のダニロフ書記もツイッターに投稿し「戒厳令の導入は、占領地の民族構成を変えるためウクライナの国民を辺境へと大量に追放しようとする試みで国連が非難すべき犯罪だ」としています。

専門家の見解は

ウクライナ東部と南部の4つの州を対象にした戒厳令について、ロシアの安全保障に詳しい防衛省防衛研究所の兵頭慎治政策研究部長に聞きました。

このタイミングでの戒厳令にはどのような意図が?

4州ではウクライナ側の攻撃が強まっていて、ロシアの占領地域が縮小する可能性が出てきている。

このためロシア側からするといま占領している地域が、ウクライナ側に奪還されるのを阻止するねらいがあると思う。

ロシアでは戒厳令が出されると大統領の判断で議会の同意なしに超法規的な措置を取ることができ国防上必要な活動に関して住民の動員も可能になる。

この4州に関しては、事実上戦争状態にある、戦時体制下にあるということを、公に認めるということになる。

この4州はロシアが併合したと主張していてそこにウクライナ側が奪還の動きを見せているので、ロシア本土が攻撃されたとして、今回の戒厳令の導入に踏み切ったのだろうと思う。

もう1つのねらいはロシア国内で予備役の部分的な動員が導入されて、反発や動揺の動きが広まっているが、この4州に限っては事実上の戦争状態にあるんだということを、ロシア国内にアピールすることによって、国内の引き締めを図る意図もあるんだろうと思う。

ウクライナに対するプレッシャーにもなる?

プーチン大統領がこのあとどのような超法規的措置を講じてくるのかによる。

かなり大規模な軍事的な動きを示す可能性も出てきたので、戒厳令を導入したことに関してはウクライナ側にとっても一定のプレッシャーになる可能性はあると思う。

ウクライナは攻勢を弱めることはない?

ロシアが4州の併合を宣言したあとも、ウクライナ側は手を緩めることなく反転攻勢の動きを強めている。

このため、戒厳令を宣言したとしてもウクライナ軍の動きに大きな影響はないと思う。

ただ今後ロシア側が軍事的にどのような対応を示してくるかは注目していく必要がある。

ロシアは追い詰められてきている?

プーチン大統領は、戒厳令という次のカードを切ってきたということになるが、これはプーチン大統領自身が戦況の悪化によって、追い詰められてきていることの表れであると思う。

プーチン大統領からすれば、追い詰められれば追い詰められるほど、より強硬な姿勢を示さざるをえないような状況にあると思う。

今後の展開はどのようなケースが考えられる?

戒厳令によって超法規的な措置がとれるということになって、プーチン大統領が国防上必要な措置として何を打ち出してくるかというと、まずは今の支配地域がさらに奪還されないように守りを固めていく。

そのためにあらゆる対応をしてくることが予想される。

いま、予備役の部分的な動員が行われているが、さらなる兵力の強化などを行っていく可能性もあるし、ウクライナ全土への攻撃を激化していく可能性もあるのではないかと思う。

4州のウクライナ人を動員する懸念は?

幅広く現地の住民を動員して、戦時体制下に置くということも可能になるので、住民の私権が制限されるような形で、国防上必要な活動に従事させられる可能性も出てくると思う。

改めて4州での戒厳令をどう見るか?

ロシアはいま、戦争の出口を見据えた落としどころを見いだしているというよりも、1つずつ強硬な姿勢を引き上げているように見受けられる。

プーチン大統領はロシア国内では強硬派からも反発も受けている中より強い姿勢へ自らを追いやっている部分もある。

4州に関しては事実上戦争状態にあることを認めて、予備役の動員を正当化して、国内での反発や動揺の動きを抑えるねらいもあると思う。

強硬な姿勢でロシアは落としどころが見いだせなくなる?

この4州に関しては戦争状態にあるということを公的に宣言したことになるので、プーチン大統領からすると譲歩や妥協をする余地はなくなってしまったことになる。

4州に関してはロシア側も引くに引けない形で戦闘を強化していくことになるのではないかと思う。

核兵器などの大量破壊兵器の使用のリスクは?

この4州に関してはあらゆる自衛措置をとることをプーチン大統領は明言しているわけなので、戦況が悪化した状況が続くと、大量破壊兵器の使用というリスクが相対的に高まっていく可能性はあると思う。

核に関してはハードルは高いと思うし、アメリカやNATOがどう出てくるのかは、ロシア側は計算しなければいけないので、簡単に使えるわけではないが、可能性というのは排除されるものではないと思う。

NATOやアメリカ側の対応は?

ロシアによる一方的な併合、そして一方的な戒厳令の導入は、欧米諸国も容認できないので、ウクライナへの支援のレベルを引き下げることにはならないと思う。